業術
俺は上着を脱ぎ捨て上半身裸になる。せっかく買った服が戦いで破れるのはいやだからさ。
「じゃ、続きと行こうか」
俺とイズヴァルトが互いに距離を詰めるが、俺の方が速い。
俺は先に間合いに踏み込むと、スナップを効かせたジャブを正中線に一息に三連発叩き込んだ。鼻筋、胸、下腹部。ダメージはほとんどないが、若干の体勢崩れと反応の低下が起きる。
「くっ」
鼻は掠めた程度、胸は押した程度、下腹部は当たってないも同然か?
だが、次の行動は遅れる。
「おぉ!」
やられたらやり返したくなる性分なんだろ?
性格は見極めがついた。そんでもって、次の行動も。
俺は振るわれた刃に対して半身になりながらしゃがみ込んで躱し、イズヴァルトの足を大きく払う。掃腿、中国武術の足払い蹴りだ。
イズヴァルトは下半身も鍛えているのか、それで転ぶことはなかったが、大きく態勢が崩れる。
「隙しかねぇぜ、坊ちゃん」
裡門頂肘、ガードの空いたイズヴァルトの体に踏み込みながらの肘打ちが突き刺さり、たたらをふんでイズヴァるの体が後ずさる。
まだまだ行くぜ。俺は開いた間合いを飛び込みながら詰め、いわゆるスーパーマンパンチを顔面に叩き込んだ。
「貴様」
イズヴァルトはしっかりと耐え、俺を睨み付けているが、反応が遅い。
俺の体はイズヴァルトの懐に背中からすっぽりと収まっていた。背を向け相手に密着しながら放つのは、背中からぶつかる体当たりの貼山靠。
俺の全体重を乗せ必殺の体当たりは耐えきれなかったようで、イズヴァルトは大きく後ずさった。
「砲牙」
俺は体勢の崩れたイズヴァルトの腹に必殺を叩き込む。
まぁ、今のイズヴァルトの内力量なら死ぬことはないだろう。
「何を──」
──と言った瞬間、イズヴァルトの口から内臓がペースト状になって吹き出て、イズヴァルトはダメージによって膝をつく。
常人なら即死のダメージだが──
「やっぱりなぁ」
内力量がある一定を超えると、人間ってのは極端に死ににくなる。
膨大な内力が失った臓器や血液を補うために変質し、肉体を補うためだ。
俺なんかも、そのおかげで首を刎ねられても死なないしね。
「薬だけで不死身に近くなっちゃうのは良くないと思うよ」
こういう力はちゃんと修行して身につけなきゃ。
俺は跪くイズヴァルトに近づき蹴っ飛ばそうとしたが、イズヴァルトは床を転がって躱す。
「はは、無様だなぁ」
「殺す、殺してやる!」
殺せるもんなら殺してほしいもんだぜ。
そんだけ強いなら大歓迎。でもまぁ、キミにそんな強さはないけどね。
「意気込んでも実力が伴わないとどうにもならないぜ」
俺の挑発にキレたのかイズヴァルトは魔増薬をさらに摂取する。
オーバードーズはメンヘラの専売特許。キミもメンヘラかい?
「そうやって、感情的に動くからキミは辺境伯代理で収まる程度の人間なんじゃないかなぁ。それも違法な手段を使ってでしかなれない程度」
俺の言葉が相当効いたのか、イズヴァルトは目を見開き、怒りをあらわにする。
「貴様に何が分かる!」
「なーんも分からん。キミの名前だって知ったのは何分か前だしね。でもまぁ、底の浅い奴ってのは見ただけでもわかるもんさ」
イズヴァルトのことを何も知らないのはマジ。だって、接点ないしさ。
ホントは良いところあるのかもしれないけど、俺とコイツの関係は殴り合いの関係だから、別に人間性の情報とかいらんのよね。
俺にとって大事なのはこいつが強いか弱いか。俺と楽しく戦れるあいてなのかどうかだけさ。
「……こんな侮辱は初めてだ」
わなわなと震えるイズヴァルト。
「そうかそうか、じゃあ初体験だね。処女喪失だ。ロストヴァージンの感想を教えてくれるかいお坊ちゃま?」
このまま自信も誇りも何もかも失わせてやるよ。ただし、命だけは奪わない。
この先一生、俺を恨んで、俺への復讐を企むような奴に仕上げてやる。
「──屈辱、本当の屈辱とはこういうものか。そうか、そうか、そうだったのか」
イズヴァルトの気配が変わる。
異様なものではない。逆によく知った気配。俺の良く知る術の気配がイズヴァルトから発せられ始めた。
「俺は父や兄が憎かった。だが、この数分で俺がこの世で一番憎い輩は貴様となったぞ、アスラカーズ!」
爆発的に増える内力量。
これなら多分使えるだろう、アレが──
「奴らの言葉など知ったことか。俺は俺の全てをもって貴様を殺す! 見よ、我が秘術を!」
そう叫んだイズヴァルトは手を天に掲げ謳う。
それは己の望む世界をこの世に顕現させるための詠唱。
「顕現せよ、我が業! 貴き血統を示すため!」
放たれたのは己の業によって世界を塗り替える術──業術。
俺の統べる世界の人間、俺と関わりのある眷族が使う術式だ。
「顕現! 青き貴血!」
詠唱によって世界が塗り替えられ、本来ありえないはずの存在がこの世界に生み出される。イズヴァルトによって生み出されたそれは左手に握られた滴る鮮血の剣だった。
「こいつは良いね。戦い甲斐が出てきたぜ」
遊んで終わりになら無そうで俺としては何よりだ。
さぁ、続けようぜ。




