謎の女
「ちゅーちゅーたこかいな」
俺は金を数えている。全部、裏通りで羽振りのよさそうな奴らから借りた金だ。
利息ゼロ、返済期日未定の金である。
「ジャケット代にはまだ足りないなぁ」
どうせジャケットを作るならフルオーダーで生地からこだわりたい。
スッと立った時に胸元のラインがキレイに見えて、背中が広く見えるのが良いね。
あぁ、でも、ジャケットの下のシャツがなぁ。
邪教の神殿で拾ってきた安物だし、シャツから決めたいかも。
「ま、慌てることはねぇわな」
適当に金を稼いで冒険者ギルドで酒を飲む。
宿はそこら辺でいいしな。
俺は街の広場にあったベンチに座って金を数えて遊んでいた。
近くを子供が通ると手の中の金貨が消える手品を見せたりしていた。
すると、目の前に豪華な馬車がやってきた。
しょぼい手品を見に来たわけじゃないだろう。
厄介ごとの匂いがする。俺の好きな匂いだ。
騎士が馬車から降りて尋ねてきた。
「アスラカーズだな?」
「イエ~ス」
銀貨を弾きながら答えるとイラっとした気配を感じる。
喧嘩する? いいよ、ぶんなぐって二度と兜を脱げなくしてやるからさ。
「やめなさい」
馬車の中からの声。
貴族の声だな。それもかなり高位。王族か何かかな。
人に命令するのに慣れている声だ。
「入りなさい」
ま、いいでしょう。言うことを聞いてあげます。
そうして馬車の中に入ると、普通の美少女がいた。
──いや、だってさ、俺って神様よ。どの世界にも絶世の美女や女神がいるわけで顔面偏差値の基準が厳しいのよ。
まぁ、この女の子も、大陸一とか言われるレベルなんじゃない。知らんけど。
「なんか御用でございますかね」
俺が言うなり美少女のとなりに座るメイドが立ち上がろうとしたので腹に蹴りを入れて座らせなおした。
「殺伐としてんなぁ」
「貴方が原因だとご理解はしていらっしゃるのかしら」
「さぁ、どうだと思う?」
挑戦的な目で見つめると美少女は呆れた様子で目をそらした。
「わたくしはラスティーナと申します」
「俺はアスラカーズ。ただいま無職。仕事は恐喝かな」
クスっとラスティーナが笑う。
面白いこと言ったつもりはないんだけどね。
「貴方の噂はかねがね」
「良い噂? 悪い噂?」
「すべて悪い噂です」
そりゃよかった。良い人で生きてないもんでね。
「ただ、貴方の実力を疑う人は誰もいませんでした。特に人を相手とした技術ではおそらく右に出る者はいないだろうと冒険者ギルドの方々も口にしていました」
そりゃ嬉しいね。で、俺を褒めて終わりじゃないだろ?
「貴方にお願いがあります」
OK、いいよ、何でも来い。
ラスティーナと名乗った女は紙袋を取り出し、中身を取り出す。
すると、そこには色とりどり錠剤があった。
「これが何かご存じですか」
「魔増薬だろ? ここ最近、その売人から金借りてっから見た目は知ってる。けど、効果はしらんね」
「効果は魔力の増加、気分の高揚、幻覚、強い依存性まであります」
そりゃ怖い。
「私はこの薬の蔓延を防ぐために貴方に協力を願いたいのです。
「具体的には?」
「魔増薬を製造しているアジトの壊滅に協力してほしいのです」
いいね、違法薬物製造拠点の襲撃か。俺の好きな展開になってきたぜ。
──それから数十分後
「オラぁっ! 取り締まりだ、馬鹿野郎!」
俺はドアを蹴り飛ばしラスティーナが当たりをつけていた魔増薬の製造拠点に突入していた。
魔増薬というのは魔力を増やすとともに高揚感や幻覚症状を与える危険な薬なんだとか。まぁ、大麻や、LSD、MDMAとかと同じに考えていいだろう。
「なんだ、なんだ」
と狼狽える奴の顔面にパンチを一発。
後の面倒は全部ラスティーナが見てくれるらしいの俺は暴れるだけだ。
しかし、製造工場にしては化学薬品臭さがねぇなぁ。たぶん、作ってるんじゃなくてどこからか運ばれてるだけだぞ、これ。
「テメェ、なにも──」
膝を蹴り飛ばし、足を逆方向に直角に曲げる。
倒れた相手の頭をスコンと蹴飛ばし、次の相手へ。
次は剣を持った相手だが。ゼティとやったあとだから欠伸が出る。
価値なしなので鉄槌打ちで剣をへし折り、上段蹴りを叩き込んでやった。
「弱すぎ、つまらんわ」
──十分もかからず施設の制圧は終わった。
ラスティーナは自分の騎士を待機させていたようだが無駄に終わった。
「これ、この街では作ってねぇよ?」
俺は馬車の窓を開けてこちらを見るラスティーナに伝える。
「どっかから運び入れなきゃ売人どもにあれだけ行きわたらねぇよ」
設備を作るにしても貧弱だ。このあたりの地図を見せてもらったが大規模な薬品製造に適した建物はない。
そして俺がぶちのめして金を借りた売人は潤沢にヤクを持っていた。製造で供給できる量じゃない。
「…………それだけわかれば結構です」
俺は金の入った袋をラスティーナから受け取る。
これで今回の契約は終了だ。
この女は何かを調べているんだろうが、まぁどうでもいい。
暇があったら先回りしてやるのも面白そうだが、それよりも俺は新しいシャツが欲しい。
「毎度、また何かあったらよろしくね」
俺はそれだけ言って、その場から立ち去った。
まぁ、今回の一件だけで、全てに決着がつくわけもなく、俺はここから大好物のトラブルに巻き込まれていくのだった。
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