小遣い稼ぎ
魔物の討伐から帰った俺は冒険者ギルドで豪遊した。
遊びの金の元手はギルドマスター。流石にタダでドラゴン退治をさせるのはよくないと思ったのか結構な金をくれたので、速攻で使っている。
「ドラゴン? 俺にかかればワンパンよ、ワンパン」
テーブルの上に乗り、エールを片手に拳をシュッシュッと振って見せる。
ギルドの酒場にいる冒険者たちには全て俺の奢りで酒を配っている。
「ほんとかぁ?」
「マジだってマジ。チョー楽勝ー」
俺はエールを飲みほしテーブルから椅子に向かって飛び降りると、近くを歩いていたウェイトレスのケツを一揉みして──
「一番いい酒もってこい、金はあるんだ!」
そう言うなりトレーが俺の顔面を直撃する。
「ドラゴンより強いね。参ったぜ」
ぎゃはははと周りの冒険者が大笑いする、俺はケツを揉んだ手の匂いをウェイトレスに見えるように嗅いでみせ、次に近くの冒険者に嗅がせてみる。
「臭いまでドラゴン級だぜ!」
俺が言うと冒険者は再び大笑いし、直後にウェイトレスの投げたトレーが俺の頭に直撃する。
「サイテー!」
「ひひ、ブレスより効くぜ。ま、ドラゴンののろまなブレスなんか当たりはしないけどさ」
俺もなんだからおかしくなって大笑い。周りもつられて大笑い。いいね、酒の席ってのはこうじゃねぇとな。
「……おい」
声がした方を見るとゼルティウスが立っていた。
すると周りがシンと静かになる。嫌だねぇ、盛り下げる奴はさぁ。
「ちょっと、用足し行ってくるわ。俺の分も飲んでていいよ」
俺とゼティはそのまま冒険者ギルドを出た。
何が言いたいかは理解している。ここで煙草でもありゃ一服するんだけどなぁ。
「何を遊んでいる。この世界を脱出する手段を考えないのか」
そう言われてもなぁ。
「手掛かりがなにもねぇんだもん。どうしようもねぇじゃん」
「何かするべきことがあるだろう」
そりゃああるよ。
「余った金でジャケットを買いたいね。後姿がビシッと決まる奴」
靴の完成は明日だったかな。忘れずにとりにいかないと。
「貴様っ」
あ、怒った? 駄目だよ、そんなにすぐ怒っちゃさ。
怒ったって簡単には殺せないんだし、無駄だよ無駄。
「そう興奮すんなよ。俺もこの世界から出られなかったり、使徒を呼べなかったり、色々と困ってるんだから、何とかするさ。キミができないぶん、代わりに俺がなんとかしてやるから、それまでS級冒険者として、この世界を楽しめばいいじゃん」
この野郎、俺が呼ばれる二週間前くらいからこの世界にいて冒険者ギルドで大活躍していたらしい。そんでもって史上最短で冒険者ランクS級になったとか。
「ひゅーひゅーかっこいいー、S級冒険者ゼルティウス様ぁ」
剣が抜かれるが紙一重で躱す。
本気だったら首が落ちていただろう。
ポロポロ落ちても平気な仕様にはなってるけど、何のためらいもなく首を刎ねようとするのはやめてほしいよね。
「ま、お互いしばらくは気楽に過ごそうや。なんかあったらキミにも出張ってもらうからさ」
そう言い残して俺は酒場に戻っていった。
そして──
「うーん、気楽に過ごしすぎたな」
今日も他人の家の屋根の上で目を覚ます。
金を使いすぎてすっからかんだわ。俺ぁニューヨーク生まれの浅草育ちだから、宵越しの銭は持たない主義なんだよね。だから、昨日の宴会の奢りで全部使っちまったわ。
「ま、ないものは稼げばいい」
俺はそれよりも靴屋へ向かうことにした。
頼んでいた靴が仕上がっていることだろう。
「パーフェクト!」
つま先から甲までのライン、踵の高さ。いいね、いいね、いい仕事してるよ。
安い買い物じゃないけど、やっぱりカッコいいものを身につけなきゃね。一目見てちょっと違うぞコレってやつが大事なのよ。
さて、新しい靴になって気分爽快。
今なら何でもできそう。今日は小遣い稼ぎでもしようかなって気分にもなってきたぞ。
──俺は街の裏通りに向かう。
据えた臭いするひどい場所だ。まともじゃなさそうな奴がうずくまってブツブツ言っているが、俺の狙いはそいつらじゃない。
裏通りを歩いているとたまに羽振りのよさそうな奴を見ることがある。俺はそういう奴をターゲットにし──すれ違いざまに腹に蹴りを入れた。
問答無用、一言も話さずいきなり蹴る。これが大事。
──で何か言う前に、相手の横顔を靴底で踏みつけ壁に押し当てる。こうすると何も言えなくなって静かでいい。人間時代からお金が無くなるとこうやってたから、慣れたもんさ。
「なんか、儲かってそうだね、お兄さん」
俺はそこでようやく顔を踏んでいる足をどける。
すると、直後に何か言うので、言わせないために顔の真横の壁を踏みつける。
「俺、無駄話好きだけど。たまにしたくない日もあるの。今日とかさ」
怖がるなよブラザー。今から俺たち金を貸しあう兄弟だろ。
「なぁ、ブラザー、羽振りがいいみたいじゃん。ちょっと金を貸してくれない。いつか返すからさ」
そういや、俺って借りた金一度も返したことねぇや。テヘペロ。
「て、てめぇ、俺をなんだ──」
俺は顔の横を全力で再び踏みつけた靴がいいせいか壁に足の痕がついている。
やっぱり良い靴だと人を蹴るのも楽しいね。
「兄弟よぉ。俺、難しい話したかぁ? 金を貸してくれるいいんだって、キミの商売は邪魔しない。金だけで終わり、なのになんで余計な話をするかなぁ」
お、話が通じないイカレ野郎だと思ってブルってやがる。
「か、金はまだねぇ。今日の仕事はこれからだから。ぶ、ブツが欲しいならやるよ」
言いながら、男は俺に紙袋を渡してきたの中身を見るとそこには色とりどりのラムネ菓子みたいな錠剤が入っていた。
「MDMAみたいだなぁ」
「魔増薬だよ。アンタも知ってんだろ?」
いや、知らんわ。
「現金じゃなきゃ興味なし。返すよ。迷惑かけてごめんね」
俺は男を立たせて体の埃を払ってやると用なしになった男に別れを告げて裏通りの更に奥へと足を進めた。
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