詫び入れ
屋根の上で朝を迎えた俺は軽く伸びをして立ち上がる。
特別製の体は睡眠も食事も必要ないが、気分転換の睡眠のおかげで調子は良好だ。
朝っぱらから俯いて仕事をしている連中ばかりなので屋根の上にいる俺には誰も気づかない。
「すげぇなぁ」
いつも思うよ。毎日毎日、刺激のない淡々とした生活を送っていけるというのは心から尊敬に値すると思う。俺なんかはそういう生活が無理で、早々にドロップアウトして無法の世界に入っちまったしな。同じことを毎日繰り返せるのは本当に尊敬するぜ。
「さて、今日は何をしようかな」
一番重要なことは、この世界から別の世界に渡ることができないという問題の解決だが、一朝一夕で解決できる問題でもないし置いておこう。
誰か俺の使徒と連絡でも取れれば何か状況は改善できそうだけど、それもすぐには無理そうだし、置いておこう。
後回しにしなけりゃいけない問題が多すぎて泣けてくるぜ。
「まぁ、なんかヒントでも見つかるまで遊んで暮らせばいいか」
結論は簡単に出た。どうしようもないので、遊んで暮らすのだ。
まぁ、なんか問題解決の糸口になりそうなものがみつかったら頑張るって感じで行こう。
「──というわけで遊びに来たよ」
俺はこの街で数少ない知り合いのいる場所である冒険者ギルドにやってきた。
頑張って消化したんだろうが小火の痕が残っている。けれど、酒場はやってるようなのでお邪魔させてもらうことにした。
「テメェ、何しにきやがった」
いきり立つ冒険者は駄犬のジョン。朝っぱらから騒がしいぜ。キャンキャン泣き喚くから駄犬なんだぜと諭しつつ、俺はウェイトレスのお嬢さんが運んでいたエールのジョッキを横取りし、喉を潤す。
「あの、ちょっと」
「注文したテーブルの奴にツケといて」
「殺すぞ、テメェ!」
みんな元気で嬉しくなっちまうぜ。
またやるか、腹パンゲーム。それともガチの喧嘩でもいいけどさ。
「喧嘩売りに来たのかよ」
「買ってくれる人がいるなら売ってもいいかな」
スッと背後から殺気が迫ってくる隠す気もないようで、鞘から剣の抜ける音がした。
「ちなみにいくらで売っているのかな」
後ろを振り向くとそこにはシュレイドとそのパーティーメンバーが立っていた。
こいつは上等。当たりを引いたぜ。
「キミ相手なら無料でもいいぜ? 出血大特価サービス。まぁ、血を流すのはキミらだけどさ」
シュレイドは笑みを浮かべているがバチバチに殺気を出している。ついでに周りの冒険者連中も同様に殺気立っている。
困ったもんだぜ。たった一日でこんなに敵が増えるなんて嬉しくて困っちまうよ。喧嘩する相手がいくらでもいるってのは最高だよね。
「さて、それじゃあ喧嘩を売ってもらおうか」
シュレイドがスッと剣を構える。それに応じてパーティーメンバーも同様に戦闘態勢に移る。周りの冒険者も同じように武器を手に取り始めた。
いいね、上等だぜ。
「ギルド内での私闘は厳禁なんじゃなかったっけ?」
揶揄うように言うとシュレイドはマジな顔で、
「私闘ではなく制裁だからね」
「おいおい、俺は冒険者でも何でもない一般人だぜ? 一般人を袋叩きにするのって外聞悪くない?」
パンピーボコすとかよくないと思うよ。まぁ、俺は全然構わんけどさ。
さて、やる気は十分みたいだし、では早速やろうかね。
「おい、貴様ら何をやっている!」
おっと、邪魔が入ったぞ。ギルドの二階からギルマスが叫び、階段なんてまだるっこしいものは使っていられないといった様子で、吹き抜けを飛び降りてきた。
「争うんじゃない! 馬鹿ども!」
白けるこというなよ、ギルマスさんよぉ。
俺は一瞬一瞬の燃えるような心の昂ぶりに従って生きてるんだぜ。
喧嘩を止められたら泣いちまうよ。
「昨日の今日でまた揉め事など起こしてみろ、今度こそ衛兵隊に牢屋へぶち込まれるぞ」
そりゃ怖い。でも、俺は牢屋暮らししたことあるから大丈夫。
おっと、ギルマスが俺の方を向いてマジギレの表情をしている。
「貴様、貴様、貴様ぁぁぁ! 貴様のせいでギルドは火事、冒険者どもは喧嘩騒ぎ、おまけに衛兵隊までやってくる始末だ! この責任、どう取ってくれるんだ!」
ついでに、冒険者の一人が手を挙げて発言する。
「昨日のゲームの賭け金が全部なくなってます。そいつがいる間はあったのにそいつがいなくなったら、全部なくなりました」
「窃盗までやってんのかテメェは!」
まぁまぁ、落ち着きなよギルドマスターさん。
俺は手癖が悪いもので、自分の予想外の動きを手が勝手にしてしまうんだ。
たとえばほら、こんな風に昨日借りていった賭け金を宙にぶちまけたりね。
「すまんねぇ、ちょっと借りてたから返すわ」
ぶちまけられた銀貨や銅貨を冒険者たちがみっともなく拾う中、シュレイドとギルマスは俺を睨み付けていた。
「はは、そんな怖い顔で見るなよ。興奮しちまうだろ」
マジで喧嘩したいなら、俺の望み通りだけど、そういうわけじゃないんだろ?
一斉に襲いかかってこないし、色々と考えがあるんだろう。
「貴様がどう考えているかは知らんが儂らは貴様をそのまま帰す気はない」
「おや、何か手土産でもくれるのかい」
何から何まで至れり尽くせりで感謝感激だぜ。
「ふざけんなボケェ!」
あ、キレた。いやキレさせちまった。
ソーリーソーリー、アイムソーリー。
「テメェがこっちに迷惑かけた分、働いて返せってんだよ、ボケカスが!」
迷惑って、腹パンで床にゲロぶちまけ、小火を起こし、衛兵隊とトラブルを起こさせただけじゃないか。そんなに迷惑は……まぁ、かけてるかもね。
「このすっとこどっこいが、脳みそはからっぽのようだが、少しは戦えるみたいじゃねぇか! だったら、魔物討伐だ! 魔物討伐をウチの冒険者の代わりに行ってこい」
少しじゃなくて、ここの冒険者の誰よりも戦えると思うけどね。
「迷惑料としてタダ働きだからな! ついでに死んできても構わねぇぞ!」
「こんな酷いこというギルドマスターっているの?」
「いや、キミがかけた迷惑を考えたらこれくらい言いたくなるよ」
魔物討伐ねぇ、まぁ魔物は嫌いだから関わりたくねぇんだけど、働けって言われた以上は働いてやってもいいかな。
実際の所は暇だから、暇つぶしがてらにさ。
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