異世界の剣士
剣を振れば斬れる。当然のことだ。
世界が変わってもそれは同じ。だからやることは変わらない。
剣士ゼルティウスは長剣を振り抜き、多頭の蛇竜ヒドラの首を一太刀ですべて刎ねた。
「俺を呼ぶよりも先に取るべき手段があったのではないか?」
ゼルティウスは感情のこもらない声で近くにいた兵士に尋ねる。
「わ、われわれでは手におえない相手でしたので……」
「……鍛錬不足だな。感謝の前に己の身を恥じろ」
ゼルティウスはそういうと剣を鞘に納め、近くの野営地に向かう。
殺伐とした気配を放つゼルティウスに近づくものは一人もおらず孤独に酒を煽り、野営地のベッドに横になった。
そしてよこになったと同時に思うことは一つ。
なぜ、自分がこの世界にいるのかというただ一点。
そう、ゼルティウスはこの世界の人間ではない異世界の人間である。
それが気付けばこの世界に召喚されており、冒険者として魔物退治の日々を送っている。
最高の剣士と仲間内でもてはやされたのは少し前、今では雑魚を相手に日銭を稼ぐ毎日。ふざけている。自分にはこんなことをしている時間はないというのに。
ゼルティウスには目的があった、それは故郷を滅ぼした仇敵を殺すこと。そのために、仕えたくもない相手に仕え、百年以上の寿命と若さを得た。だが、その代償が見知らぬ異世界で雑魚を刈る仕事とは、我慢にも限界がある。
「ゼルティウス殿、早い時間に申し訳ありません」
気付けば朝を迎えていたゼルティウスは「しばらく待て」と返事をし、剣の手入れを始めた。剣身の歪みや傷、刃こぼれを丁寧に確認し、自ら研ぐ作業に移る。
ゼルティウスが使っている剣はなまくらだ。一山いくらのなまくらの中に、名作を一本混じらせるという武器屋からあえてなまくらを選んだ。
舐めている、ふざけている、殺してやろうか。ゼルティウスのその時の感情はその三つだった、戦士は武器に命を懸ける。なまくらをなまくらとして売るのは良い、遊びのように名品を混ぜておく理由が分からない。真に目の肥えた客を見つけるため? それなら最初から、それ用の棚を作っておけばいい。
訳が分からない、腹が立つ、殺す。
まぁ、その時は近くにいた冒険者のとりなしで死人は出なかったが、ゼルティウスは基本的に武器屋を信用していない。
そもそもゼルティウス自体が剣を愛するあまり、刀工としてある種の極致に達した人種であるからして、市場に出回る剣などは信用に値しないものだと思っている。
「いい出来だ」
研ぎを終えたゼルティウスはうっとりとなまくらとして売られていた剣を見る。
その輝きはどんな名剣にも勝るものであった。
「用向きを言え」
研ぎを終えたゼルティウスが天幕を出るなり、何人もの兵が集まりゼルティウスに訴える。
「巨大なワームが発見されました。ゼルティウス殿にはなるべく早急に対処をお願いしたく」
「……そいつは何か悪さをしたのか?」
「いえ、なにも、しかし我々はその存在に危機感を抱き、何も手につきませぬ」
「ゴミども」
吐き捨てるように言うとゼルティウスは剣を持ち歩き出した。
様々な異世界を歩いた経験があるが、ここまで胸糞が悪いのは久しぶりだとゼルティウスは思う。
報告にあった場所に向かうとそこには確かに家ほどの大きさの蚯蚓竜がいた。ゼルティウスの経験上。ワームは土地を耕し豊かにするものである。自分がヒドラを斬って安全を確認したから現れたのだとも予想がつく。
斬るべきか
斬らざるべきか
斬った方が後の世に不幸が訪れる、斬らなければ自分が責められるか。
「……どうでもいい話だ」
ゼルティウスはなまくらの剣で空を斬った。
直後にワームが首が落ちる。巨体が何の抵抗もなく。
どうせ自分はまた別の世界に渡る。この世界の住人など知ったことか。
何も知らず、自分の都合で物を語る傲慢な輩などなおさらだ。
仕事を終えたゼルティウスは野営地に戻り酒を飲み、横になる。
そのまま眠ろうかと思った矢先だった、急な伝令がゼルティウスの意識を覚醒させる。
それは冒険者ギルドからの帰還命令。
普段ならば下らないと放っておいたゼルティウスだが今回に限ってはそうではなかった。
制裁対象:アスラカーズ
この文字だけでゼルティウスのやる気はありえないほどに高まった。
絶対に放っておけない名前。今となっては最も付き合いが古い知り合いであるが、最も気に入らない相手。その名前が書かれていたのだった。
アスラカーズ七十二使徒
序列七位 剣魔ゼルティウス
それが異世界を渡り歩く剣士ゼルティウスの本当の姿。
そして、今、その魔人がアスラカーズの首を刎ねるため領都へと足を進めるのだった。
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