思春期 第7話
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そこへ、白波を立てながら何者かが近づいてくる。
セレナとリーネは、その水しぶきの向こうをじっと見つめた。
やがて、水面からひょっこり顔を出したのは――スプラッシュだった。
「牡蠣取ったんだ。おやつに食べよぜ」
そう言いながら、スプラッシュはセレナとリーネが腰掛けていた岩場へ軽やかに上がる。
リーネの横にある空いたスペースにどさっと座ると、手にしていた牡蠣をふたりに手渡した。
スプラッシュはいつもより静かな2人に
「腹でも痛いのか?」
と心配そうに聞いて来た。
相変わらずリーネは黙ったまま俯く。
「うーうん。違うのネックレスが上手く作れなくてリーネに相談してたの」
とセレナは明るく返した。
リーネは手渡された牡蠣のカラを外そうとしてるが、緊張からなのか中々剥くことができなかった。
その横でセレナは美味しそうに牡蠣を頬ばる。
「かして」
とスプラッシュはリーネに言うと牡蠣を受け取り剥いてリーネに渡した。
「ありがとう」
ちょっと恥ずかしそうにリーネはお礼を言った。
「あっ、いっけなーい。私夕食のロブスターを狩る係りだった」
セレナはそう言うと勢いよく海に飛び込み、ふたりの方に向きを変えた。
「また3人で遊ぼうね」
大きく手を振ると海に潜って行った。
海の中でセレナは笑みを浮かべ、リーネの恋が上手くいくよう祈った。
「最近、アイツ単独行動多いよな」
「そうだね…」
「お前やっぱり、何かへんだぞ」
いつもより口数の少ないリーネにスプラッシュが顔を覗き込んだ。
顔を赤くして俯くリーネ。
「おい、顔が赤いぞ。やっぱり調子悪いんじゃないのか?」
とリーネの肩に手を回し様子を伺う。
スプラッシュは肩の華奢さに少しドッキとしていた。
「大丈夫…。私、帰るね」
リーネはそう言うと海に飛び込んでしまった。
リーネ自身もなんでそうしたのか分からない。
ただ、その場から逃げたかったのだ。
「なんだよ。2人ともどうしたんだよ…。」
スプラッシュは少し戸惑い空を見上げていた。
空が金色に染まり、静かに黄昏が訪れていた。
モヤモヤを抱えたスプラッシュは物知りなクラウディオに相談しようと海に飛び込んだ。
海へ潜るとスプラッシュは気を晴らすようにクラウディオのいる北へ勢いよく泡を弾きながら泳いで行った。
少し北へ向かった先にクラウディオがいた。
「なんかさ、リーネの様子がおかしいんだよ。顔真っ赤にしてるし、俺が話しかけると逃げるし……。病気か?」
クラウディオはゆっくりと目を開け、遠くの海流をじっと見やった。
「思春期だな」
「……思春期?」
「成長して大人になる過程だ。お前も最近、体がたくましくなってきただろう?」
スプラッシュは自分の腕を思わず見下ろした。
「心も大人になるということだ」
クラウディオはそれだけ言うと、また目を閉じた。
「そう……なのか?」
スプラッシュはわかったような、わからないような顔をしていた。
***
自室に戻ったセレナは、宝箱から赤い珊瑚の欠片をいくつか取り出した。
ひとつひとつ手に取り、大きさや形を確かめながら並べていく。
「んんん~んんん~んん~」
気づけばば、口からあのメロディが零れていた。
あの夜、波の上で耳にした音色。
指が自然と動いて、珊瑚を糸に通していく。
「んん~んんん~……」
ひとつ、またひとつ。
丁寧に、丁寧に。
満月はいつだっけ。
あと何日だろう。
セレナは手元を見つめながら、それでも心はあのデッキの下にいた。
波の音と、あの音色と。
「……できた」
手のひらの上に、赤い珊瑚のブレスレットが静かに輝いていた。
***
その夜の夕飯は、セレナの狩った大好物のロブスターだった。
セレナは大きな爪をパっきりと割り、夢中で頬張りながらふと思い出したように腕を差し出した。
「ねぇねぇ、お母さん見て。これ作ったの」
口をもぐもぐさせたまま、自分の手首をくるりと返してみせる。
赤い珊瑚のブレスレットが、灯りを受けてほんのりと輝いた。
母は目を細めた。
「あら、素敵ね!」
セレナは母に褒められニコッと笑みを浮かべ
「お母さんにあげる」
セレナはそう言い、ブレスレットをそっと外して母の手首に巻きつけた。
「可愛いでしょ?」
「ええ、とっても」
母はブレスレットをそっと持ち上げ、しばらく静かに眺めた。
赤い珊瑚のひとつひとつを、指先でそっとなぞるように。
娘の手が作ったものだと思うと、胸の奥がじんわりと温かくなった。
子供と大人の間を行ったり来たりする、愛おしい年頃の我が子。
セレナはそんな母の様子には気づかず、またロブスターに向き直った。
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