淡い恋 第6話
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あの岸壁を目指し、尾鰭をゆらゆらとなびかせながら泳ぐ。
水面から顔を出して、辺りを見回す。
「確か…このあたりよね」
ポロン、ポロン、ポロン――。
「あっ、やっぱりここだ」
頭上から降り注ぐ心地よい音。
セレナは水音も立てず、そっと耳を澄ませる。
同じ旋律が、何度も繰り返されていた。
それは美しく、どこか祈りを捧げているようで――
波音と合わさり、煌めく光の粒が海に降り注ぐように音が耳をくすぐった。
セレナはその調べに合わせるように、海面をゆらゆらと漂う。
その旋律に誘われるように、
「んんん~んんん~んん~」
とハミングをし始めた。
弾き手の方にもかすかにこのセレナのハミングの音が聞こえてきた。
***
気のせいだろうか。それとも、こんな夜更けに誰かが歌っているのか。
周りに人の気配はない。
海の方から……。
いつもよりも指がなめらかに動き、ライアーハープの練習が心地よく捗っているように感じていた。
やがて練習を終え、ハープの音が止むと、あの不思議な音もふっと消えた。
満月に照らされたデッキには、岸壁に打ち寄せる波の音だけが静かに響いていた。
「今日はいい夜だ。練習がはかどった…。あの声のおかげか…。」
青年は小さな声で、ライアーハープに向かってそっとつぶやいた。
***
ライアーハープの音が止むと、セレナは何とも言えない心地よさの波に、そっと包まれているのを感じた。
ほんの少しハミングを添えただけなのに、胸の奥がじんわりと熱を帯びて、高鳴っていく。
――これは、いったい誰が奏でていた音なのだろう?
こんなにも素敵な音色を生み出す存在に、セレナの心は強く惹かれていた。
あの夜以来、満月の夜が明けて待ち遠しくなっていった。
***
「セレナどうしたの、最近ぼーっとする事が増えてない?」
リーネが心配そうにセレナの顔を覗きこんだ。
「あ、うーうん。ちょっと考え事してたの」
「えー、何?何?隠し事?もー白状しなさいよー!」
とリーネはセレナの脇腹をくすぐった。
「ギャハハ、もーやめてよ」
身をよじり、笑いながら
「それよりも、リーネ最近スプラッシュとはどうなの?」
「スプラッシュ?なんでスプラッシュなの?」
頬を赤らめてリーネは少し驚いた様子で聞いてきた。
セレナはリーネの目線の先にいつもスプラッシュがいる事に気がついていた。
「だって最近、身体も大きくなったし、たくましくなってきたじゃない?スプラッシュいいねってウワサ聞くよ」
セレナは横目でそっとリーネを見た。
リーネは顔を赤らめたまま、視線を落としながら
「スプラッシュとは……そんなんじゃないってば」
と、か細く呟いた。
「えっ? そうなの!? うかうかしてると誰かに持ってかれちゃうかもよ〜」
セレナはいたずらっぽく笑いながら、リーネの肩に自分の肩をトンと軽くぶつけた。
リーネはハッと顔を上げて
「それはイヤ…」
とまた小さく呟き視線を落とした。
「そうだよね…。」
セレナは優しく言うと、リーネの肩に押しつけるように肩を当てた。
しばらく海を見つめ、穏やかな海風に吹かれていた。
その横でリーネの緑の尾鰭が、光を受けてふわりと揺れた。
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