甲羅に刻まれた歴史 第2話
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スプラッシュの目に、海藻の間で昼寝をしている亀の姿が映った。
彼は何かを思いついたように、亀をそっと持ち上げ、人魚たちのもとへ連れてきた。
「なあなあ、俺たちもこの亀の甲羅に“あの模様”を刻んでみようぜ!」
「スプラッシュ、それっ!海神様、マレアルス様の使いの亀だよっ!」
「見て、お腹に海神様のシンボルがあるっ!!」
「早く戻してきてー!!」
2人の人魚は口々に叫び、慌てふためいていた。
そのとき、スプラッシュが手にしていた亀の甲羅がブルブルと震え出し、次の瞬間、亀が頭、手足を甲羅からゆっくりと出した。
「小童ども……ワシを持ち上げて、何をしようとしておった?」
地鳴りのように響く重低音の声に、人魚たちは一斉に動きを止め、息をのんだ。
「へっ? 寝てたんじゃないの……?」
スプラッシュが情けない声でそうつぶやく。
「……ワシを誰だと思っておる?マレアルス様の使いが、ただの昼寝をしているとでも思ったか?」
亀はゆったりとスプラッシュの手から離れ、ぐるりと旋回すると、セレナたちをじっと見回した。
「お前たちの声も、動きも……すべて聞こえておったわい」
その言葉に場の空気が凍りつく。
クラウディオは小さくつぶやいた。
「……やっちまったな」
亀様と目が合うと、クラウディオは何も言わず、静かに海の警護へ戻っていった。
使いの亀の甲羅には、古木のような深いシワが刻まれていた。
「この甲羅は何万年の間、大海原の記憶を刻んでおる。おまえさんたちが気安く触れてよいものではないっ!よって、人目に付かぬよう三日間、海の清掃をせよ」
と一喝した。
その言葉に人魚たちも背筋をピンッと伸ばし声を揃えた。
「はいっ!!」
と返事をした。
使いの亀はその光景を見て
「よいな」
と念を押しゆったりとした動きで、海藻の間に去って行った。
「なあなあ、この後どうする?」
とスプラッシュが尻尾をパタパタさせ、あおみを帯びた鱗がキラリと光を弾いた。
「私は、お母さんにヒトデを取って来るよう言われているの」
リーネが答える。
「セレナはどうする?」
セレナの目が輝き、顔がパッと明るくなった。
「私、やりたいことがあるから一度帰るわ」
「そっかー。じゃあ、夜にサンゴの丘で待ち合わせな」
そう言うと、人魚たちはそれぞれの家の方向に泳いで行った。
***
人魚たちはサンゴや岩で出来た家に住んでいた。
その一角、サンゴの岩で出来た家にセレナは帰ると、自室に籠った。
作りかけの貝のブレスレットを手に取り、少し微笑んでからそっと置いた。
次に選んだ貝に、一文字ずつ丁寧に刻み込む。
「S・E・R・E・N・A…っと。次はこれを通して…。」
文字を刻んだ貝を指でつまんで順番に通していく。
最後に留め具を取り付けて。
「よーし!できたっ!」
できたばかりの貝のブレスレットを眺めながら、セレナは少し考え込んだ。
「ゴミに引っかかって壊れたらヤダし……置いていこーっと。」
小声でつぶやく。
ユニコーンカラーの輝きを放つ、二枚貝で作られたアクセサリーボックス。
角度により色が変わり、乙女の心の様だった。
セレナは、そこにできたばかりのブレスレットを大切にしまった。
その後、母に今日の出来事を話す。
「三日間夜、海の清掃をすることになったんだぁ…。」
口をとがらせ少し不満げに言うと、母はくすっと笑って答えた。
「あら、海の掟を破ると大変なのよ。お友達と遊ぶのもいいけれど、ちゃんと守らなくっちゃね。大変な罰もあるのよ。」
とセレナに顔を近づけてると、一粒パールのネックレスが揺れ茶目っ気たっぷりに言ってきた。
「もっと大変な罰もあるの?」
「そうよ。お母さんが子供の頃は、すべての亀の甲羅磨きをさせられたわ。」
「お母さんも同じ事してたんだ……。なんだちょっと安心した」
と少しほっとしたように言った。
母は優しく微笑み、窓の外を見つめながら、やわらかく言った。
「セレナ、そろそろ家を出る時間じゃない?」
セレナも母の隣に並び木枠で十字に仕切られた窓から外を見た。海流が風の様に心地よく入ってくる。
海面近くで発光性プランクトンがゆらゆらと揺れて、夜の海に神秘的な光を浮かべていた。
「本当だ! 行かなきゃ」
セレナは母と軽くハグを交わすと、明るい声で言った。
「行って来るね」
そして、にっこり笑って家を後にしサンゴの丘に向かった。
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