海の中で遊ぶ人魚たち 第1話
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その昔、深く青い海に、ひときわ美しい声をもつ若き人魚がいた。
名前はセレナ。
セレナはときおり、人の目にふれない岩陰にそっと身を潜め、歌を口ずさんでいた。
その歌声は海風に乗って陸まで届き、人々はその正体を知らないまま不思議そうにささやき合った。
「この歌声は、いったいどこから……」
セレナはその声を、海の中から静かに聞いていた。
セレナ イメージ
近ごろ、人魚たちの間では“人間の真似ごと”が流行っていた。
髪を結ってみたり、船から聞こえてきた音楽を口ずさんだり、水面に映る光の中で舞踏会ごっこをしては、海の中で笑い転げていた。
また、沈没船を探検し、彫刻やアクセサリー、日用品を手に取っては、
「これ、何に使うんだろう?」
「台に乗ってるこの人、妙なポーズしてるね!」
などと話して楽しんでいた。
ある日、人魚の仲間が一枚の奇妙な木の板を見つけてきた。
それは、色とりどりの形がくり抜かれた、不思議な模様の並ぶ板だった。
「見て見て、この模様たち、なんだか不思議じゃない?」
「ほんとだ!同じ場所にあったのに、模様が全部ちがうね〜!」
「さっき見た彫刻の台座にも、似た模様があった気がする…」
「うーん、さっぱりわからない。ねえ、クラウディオに聞いてみよう!」
仲間たちは板を手に、物知りなオルカ族のクラウディオのもとへ向かった。
「ねえ、クラウディオ。これ、沈没船で見つけたの。何かわかる?」
クラウディオは板を見るなり、低い声で答えた。
「これは“文字”ってやつだ。」
「文字?」
人魚たちは目を丸くしながら、身を乗り出した。
クラウディオは続けた。
「ああ、人間は”音”をこの形にして、意味を持たせるんだ。」
「音に、形があるの?」
クラウディオは、海底に沈んだ絵画を指さす。
「例えば、あそこにある絵を見てみろ。」
一枚の絵に人魚たちは釘付けになった。
「隅にあるあの模様、あれは“名前”を表してるんだ。」
「名前?自分の?」
「そうだ。人間たちは、自分の作った物に自分の名前を残すんだ。」
「へー、変わってるね」
「人間って、そんなことするの!?」
と、目を輝かせる人魚たち。
クラウディオは続ける。
「彫刻の台座や食器にも、同じような模様が刻まれているだろう?」
とクラウディオは少し誇らしげに続けた。
その言葉に、セレナが興味深そうに声を上げた。
「じゃあ……私の名前を人間の文字で表すと、どうなるの?」
セレナが木の板を差し出すと、クラウディオは流木の先をくわえて器用に指し示した。
「こうだな――S・E・R・E・N・A」
「ありがとう、クラウディオ!」
セレナは嬉しそうに、その文字を何度もなぞった。
「S・E・R・E・N・A……これが、私の名前……」
すると、いたずら好きのスプラッシュが、後ろからひょっこり顔を出す。
「なぁなぁ、セレナ。それ、覚えてどうするの?」
セレナはニッと笑って、言った。
「ひ・み・つ♪」
スプラッシュはその言葉に目をキラリと光らせ、ニコっと笑う。
「なんだよー。教えてくれてもいいのに……」
そう言うと海底を見回し
「いい事を思いついた!」
スプラッシュは勢いよく海の中へ潜っていった。
1話を最後までお読みいただき、ありがとうございました。




