孤独と追放 第14話
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裁きの後、マレアルス神の元へ、亀様がゆっくりと歩み寄った。
「マレアルス様…姫様はもう…」
「……遠の昔のことだ」
そう言いながら、マレアルスはゆっくりと自らの手を見下ろした。
握られた拳が、わずかに力を帯びる。
「この手で……裁くことすら、叶わなかった」
その姿を、オルカ族長は静かに見つめていた。
***
セレナは、再びあの部屋へ戻されていた。
追放……。
もう海にはいられない。
椅子に腰掛け、遠くを見つめる。
何も変わらず静かな部屋。
不意に、窓の方から声がした。
「……セレナ」
振り向くと、そこにスプラッシュがいた。
セレナははっと息をのみ、窓へと泳ぎ寄った。
「こんな所で何してるの!?」
「セレナ、ここから逃げよう」
「ダメよ。そんな事したらスプラッシュまで」
言い切る前に息をのんだ。
スプラッシュの背後に、黒い影が差していた。
——次の瞬間。
その影が、腕に食らいつく。
水が大きく揺れ、スプラッシュの姿は一気に引きずられていった。
一瞬の出来事にセレナは何もできなかった。
黒い影は、凄まじい速さで海を駆けた。
あっという間に、城の海域を抜けていく。
「放せ、放せよ!セレナが!!」
腕を噛まれながらも、暴れるスプラッシュ。
黒い影はそんな事はお構いなしに城の海域から出ると、スプラッシュを放した。
「バカやろう!そんな事したらお前まで捕まるだろうが!」
低く響くその声に、スプラッシュははっと顔を上げる。
——クラウディオだった。
「もう城に近づくな」
「次は……甘噛みじゃなく、本当に食うぞ」
「セレナが……!」
食い下がろうとするスプラッシュを、クラウディオが睨みつける。
「今戻れば、お前も終わりだ」
「……っ」
スプラッシュは唇を噛みしめた。
歯を食いしばる。
「……くそっ!」
それでも——尾びれは、わずかに震えたまま、動かなかった。
***
扉が静かに開いた。
リーネは、言葉を失ったまま立ち尽くした。
セレナは、ゆっくりと立ち上がる。
「リーネ……」
「……聞いたわ」
その声は、いつもよりずっと静かだった。
「ごめん……」
セレナは、それ以上言葉が出なかった。
「どうして、言ってくれなかったの」
リーネは唇を噛んだ。
「スプラッシュも来てたのに…」
静かな部屋に水の流れる音が響く。
「お城に入るまでは一緒だったのに、はぐれちゃって……」
「こんな時にバカなんだから…」
リーネの言葉が微かに揺れる。
セレナは目を伏せた。
「……ごめん」
そう言うとセレナはリーネを抱きしめた。
リーネは一瞬、身を強張らせる。
「セレナもバカ……」
その声は押し殺していたものが漏れたようだった。
「なんでも一人で決めちゃうんだから…」
震える声のまま、リーネはそれ以上言えなかった。
セレナに会うのはこれが最後だと言うのに実感が湧かない。
一緒に育ってきたのに、どこですれ違ったのだろう…。
心の中は激しく動くのに、言葉に変えようとすると、唇が震え涙が溢れて止まらない。
セレナの形を確かめるよう背中に手を回した。
リーネが涙を拭いきれないまま、部屋の外に気配が落ちた。
「……リーネの面会時間はここまでだ」
低く、事務的な声だった。
リーネは涙を堪えながら、手を硬く結び静かに部屋を出ていった。
部屋は静まり返っていた。
さっきまで誰かの声があったはずなのに、その余韻だけが残っている。
セレナは椅子に座ったまま、動けずにいた。
追放。
その言葉は、水の中で彷徨っていた。
もう海にはいられない。
なのに、水の重さだけはまだここにあった。
手をゆっくりと見下ろす。
この手が何かをしたわけでもないのに、もうここには属していないような気がした。
窓の向こうで、光が揺れた。
――さっきまで、あそこにリーネがいた。
でも今は、もういない。
静かだ。
静かすぎて、自分の呼吸の音だけがやけに大きく感じる。
泡のように浮かんだ言葉は出せずに消えた。
理由が分からない。
何が正しかったのかも、何が間違っていたのかも。
ただひとつだけ分かるのは――
もう、元には戻れないということだけだった。
セレナはゆっくりと目を閉じた。
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残り1話で一章は完結になります。最後まで読んでいただけると嬉しいです。




