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15/15

別れ 第15話

ご覧いただきありがとうございます。

最後まで読んでいただけると嬉しいです。

セレナは目を開ける。


相変わらず、何もない部屋。


コポポポと、水流の音がする。


座ったまま、何もできずにいた。


窓からは緩やかに水流が入ってくる。


部屋の外に気配を感じた。


何だろう……。



ドアの方に目をやりじっと見る。



ゆっくりドアが開いた。

中に、母の姿があった。



セレナは、身を起こした。


「………お母さん」


張り詰めていた糸が、ふっと緩んだ。


「セレナ」


母は静かに名前を呼び、そっと抱きしめた。


その瞬間、セレナは母にすがるように飛びついた。


幼い子供のように、声をあげながら涙があふれていく。


「セレナ、大丈夫よ」

母は優しく頭を撫でた。



セレナは気持ちが溢れて、言葉にできない。


「顔を見せて」

母はセレナの頬を両手で包むと、そっと涙を拭いセレナを見つめる。



「あなたが何処にいても、私はいつでも味方よ」



「……お母さん……」



母は静かに首元のネックレスを外し、セレナの首にそっとかけた。



「私たちはいつでもセレナと一緒…」



セレナは不安そうにネックレスを見つめた。


「でも……これ、大切な物でしょう?」


母は静かに微笑むと、そっと手首を差し出した。


そこには、赤い珊瑚のブレスレットが揺れていた。


「私はね」


母は赤い珊瑚のブレスレットにそっと指を添えた。


「もう、ちゃんと持ってるの」



セレナは真珠のネックレスにそっと触れながら、涙の中で小さく笑った。


母はセレナの髪をそっと撫でた。

その手は、ほんのわずかに止まりかける。

幼い頃のセレナを思い出していた。


離れてしまう前に、この姿を焼き付けるように、母は娘を見つめた。


小さく頷く。


それでも指先は、しばらくセレナから離れなかった。


「……時間だ」


母の唇が名前を呼びけるように微かに動く。


けれど声にはならない。


ほんの一瞬だけセレナを抱き寄せた。

最後の温もりを胸に刻み

名残惜しむようそっと手を離す。


言葉にならないまま、母は視線を伏せるように背を向けた。


そして、ゆっくりと扉の向こうへ消えた。


そして、部屋には再び水の音だけが残った。



***


静かな部屋に、水の音だけが残っている。


セレナは、しばらく黙って座っていた。


胸元のネックレスに、そっと指を添える。


指先は、静かにそこに留まっていた。



「出ろ」


何もない部屋に、低い声が響いた。



セレナは静かに立ち上がると、扉へ向かった。



***


別の部屋へと、静かに通された。


そこには――

海の底であるはずの場所に、不自然な泉があった。


泉の奥、その中央に、マレアルス神が立っていた。


その傍らには、亀様が静かに佇んでいた。


セレナは、泉を挟んでマレアルス神の前に立たされた。


マレアルスが口を開く。


「人間を、治癒する——それは罪。

我ら種族の存続を脅かす」


重く低い声が、水を震わせるように響いた。


「知らなかったでは済まされぬ」


わずかな間が落ちる。


その沈黙すら、裁きの一部のようだった。


「——セレナを追放とする。」



杖をトンと鳴らすと、泉の水に波紋が広がる。



マレアルスは、ゆっくりと手を動かした。


その先にあるのは、泉。


セレナは、静かに目を伏せた。


尾びれが、わずかに水を掻く。


セレナが泉の中央へとたどり着く。


水は、ひどく静かだった。


マレアルス神の杖が、静かに下ろされた。



次の瞬間——


セレナの身体が、静かに沈みはじめた。


抗うこともなく、ただ水に受け入れられるように。


光が、少しずつ遠ざかっていった。


水の中は、不思議なほど音がなかった。


髪だけが、ゆるやかに広がっていく。


——次の瞬間、視界が白く滲んだ。



***


失ったものの代償は、大きかった……。

セレナの母は、やり場のない思いに打ちひしがれた。


城から出るとそこにはクラウディオがいた。


「海域の外まで送ろう」


クラウディオは短くそう言った。


その声には、わずかに滲むものがあった。


二つの影が、泳ぎ出す。


クラウディオがぽつりと話し始めた。


「……守れなかった」


母は首を横に振った。


「クラウディオ……あなたのせいじゃないわ」


クラウディオは悔しそうに奥歯を噛み締めた。


その横顔に、言葉を振り絞るように返した。


「最後……娘に合わせてくれて、ありがとう」


留めようとした感情が溢れ、頬に一粒の涙が伝う。


「亀様の計らいだ」

クラウディオは前を見たまま静かに言った。


***


満月の夜——


青年は、ライアーハープを抱えた。


迷いはなかった。


あの約束を、疑ったことは一度もない。


静かに弦へ指を落とす。


ひとつ、音が生まれる。


そして、次の音へ。


やがてそれは、想いをぶつけるような調べへと変わっていった。


強く、激しく、切実に。


すべてを、海へ。



音は夜に溶け、波へと消えていく。


満月は、静かに海を照らしている。


——海は、何も応えなかった。

ただ、静かに揺れているだけだった。


それでも青年は、誰かに会えると信じて弾き続けた。



第一章 END

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

一章はここで区切りとなります。

引き続き二章も書いていますので、お楽しみいただけたら嬉しいです。

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