移動(ヴィセリエ・スターティア)
ヴィセリエの状態も落ち着き、アデルはミドルンへと戻ることになった。途中でスターティアに立ち寄り、ハーヴィル解放軍の様子を見ることになっている。
「早く出発しなさいよ!」
「ちゃんとお水は持ってきてるんでしょうね!」
荷馬車ではキャロドレイクたちが騒いでいる。キャロドレイクたちはミドルンで「ツンデレカフェ」を開くことになっていた。客はお金を払って彼女たちとおしゃべりし、水をあげるのだ。「そんな店に客が来るわけがない」とイルアーナは反対したが、アデルは「絶対に大丈夫です! 古来より確固たる需要がありますから!」と譲らなかった。
また千羽犬のイバに破魔妖狐たち、五人の彩ティアマのうちイルマーを含めた3人が同行することになっている。これらの特殊戦力はアデルの元でないとなかなか真価を発揮できないからだ。または破魔妖狐たちは女性型魔物で構成される諜報部隊「黒蝶」に加わることになっている。
「アデル王」
出発の準備をしているアデルの元にライナードがやってくる。
「あっ、ライナードさん。お疲れ様です」
アデルがペコペコと頭を下げる。先にアデルに頭を下げられてしまい、ライナードは苦笑いを浮かべながら一礼した。
「私はこれよりロズマルクのエスカライザ様の元に戻ります。兵の指揮は今後ヒルデガルド様が、クロース殿は副官の座に付きます」
「はい、よろしくお願いします」
クロースにもう一度アデルが頭を下げる。ヴィセリエが落ち着いたことで、ライナードは元々仕えていたエスカライザの元に戻ることになった。
アデルとライナードが話していると、そこにラズエルを従えたロレンファーゼがやってくる。
「あ、ロレンファーゼさんにラズエルさん。どうもどうも」
またアデルは頭をペコペコ下げる。
「私たちも一度森へと帰ります。また何かあれば連絡をください」
ロレンファーゼは微笑みながらアデルを見つめた。そんな柔らかい表情を見せるのは初めてのことだ。ロレンファーゼはアデルに歩み寄ると、右手を差し出す。
「は、はい。ありがとうございます。大変助かりました」
アデルは少しドギマギしながらロレンファーゼと握手をする。
「メルディナにもよろしく伝えてください」
「はい」
ラズエルに言われ、アデルは返事をする。メルディナは当初、暗殺者としてアデルのもとへ送られてきたが、その後はエルフとの連絡役としてアデルのそばで働いていた。
「アデル、行くぞ」
イルアーナがアデルに声をかける。アデルはライナードやロレンファーゼたちに別れを告げると、用意された馬へと跨った。
「ほう、これは楽ティマ」
馬車から彩ティアマたちが身を乗り出し、風景を楽しんでいる。何かに乗って移動するという経験が無く、新鮮なようだ。千羽犬のイバは空中で偵察兼散歩をしていた。
「もっと静かに走れないの!」
「そろそろ水掛けてよ、鮮度が落ちちゃうわ!」
キャーキャーと騒ぐキャロドレイクたちに破魔妖狐が水をかける。破魔妖狐たちは変身して人間社会に紛れることも多いらしく、馬車に乗った経験もありだいぶ落ち着いていた。
アデルたちは街道沿いの町や村などに立ち寄り、様子を見る。彩ティアマやダークエルフなどを見て、住民たちは固まっていた。流石に神竜王国ダルフェニアの噂は聞いていたが、実際に異種族を見るとさすがに恐怖を感じるようだ。イルアーナは人間に姿が近いものの態度が怖がられており、むしろ破魔妖狐たちのほうが親しみを持たれていた。
そうこうしながら馬車は走り続け、旧ハーヴィル王国の首都であるスターティアへと辿り着いた。アデルたちが来ることは事前に連絡してあり、偵察によりアデルたちが近くにいることも把握していたため、城の前ではクロディーヌにサラディオ、ウルリッシュと言ったハーヴィル勢の面々がアデルを待っていた。
「アデルさ~ん!」
近付いてきたアデルを見てクロディーヌが笑顔で手を振る。すっかり髪が伸び、誰が見ても王女とわかる美しい顔立ちを際立たせていた。だが言葉遣いや仕草にはまだ幼さが残っている。
「あー、どうもどうも」
アデルも笑顔でクロディーヌたちに近づき、馬を降りる。そしてペコペコと頭を下げた。
「これはまた……奇妙な仲間を増やしたようですな」
老騎士ウルリッシュがアデルの後ろの馬車を見ながら言う。
「ははは……」
アデルは苦笑いを浮かべ、頭を掻いた。
「そちらはどうでしたか?」
アデルが尋ねる。クロディーヌたちにも旧ハーヴィル領内の異種族を探すようにお願いしていた。
「たいした発見はなかった。オークの一団とハーピーがいるという噂くらいだな」
サラディオが答える。
「へぇー、いいじゃないですか。早速交渉しましょう」
アデルは笑顔で言った。オークは手先が器用で職人としての資質が高いうえ、戦闘力も高い。そのうえ統率も高く集団戦闘でも貴重な戦力となる。ただし従わせるのは労力が必要だろう。ハーピーは空中からの偵察要因として重宝され、しかも非武装の人間程度なら運べる輸送力も魅力だった。
「そう言えばサラディオさん、王位をクロディーヌさんに譲ったそうですね」
「あぁ。クロディーヌの方が民のことを考えるのが得意だからな。俺はどうしても国を強くすることばかりを考えてしまう」
サラディオは自嘲するように言った。
「へぇ。でもそれも大事だと思いますけどね。特に国が安定するまでは。軍事力が無いとみんなの生活を守れませんから」
「え?」
アデルの言葉を聞き、サラディオは固まった。
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