預かりもの(ヴィセリエ)
誤字報告ありがとうございました。
「ほら、場所的にも真ん中だし、ちょうどよくないですか?」
アデルは地図上で煉獄山地を指さしながら言った。
「そこは今も負の魔力が渦巻いていて、とても人が居られる場所ではないだろう」
イルアーナが眉をひそめる。
「いや、だから人目に付かないし攻められないから好都合なのかなと」
(だいたいラスボスって特殊な装備がないと行けない場所にいるもんな……)
アデルは話ながら思った。
「確かに負の魔力を中和、もしくは無力化する手段があるのであれば、可能性はありますね」
ロレンファーゼは地図を見つめながら呟いた。
「だがそれを確認する手段は? それこそ神竜にでも頼まなければ、煉獄山地の偵察などできぬだろう」
ようやくメインの鶏肉に手を付けながらイルアーナが言う。
「それはまだなんとも……それに偵察だけ出来てもしょうがないですからね。レイコさんとかデスドラゴンさんだけで壊滅できるならいいんですけど、そうでないならそこまで行ける道を探さないと」
アデルは考えながら言う。そもそも思い付きで言った話であり、そこまで深くは考えていなかった。
「しかしまずはイルスデンのラーベル教大聖堂を掌握すべきでしょう。あそこであれば何らかの手がかりはあるはず。それに兄上……ジークムントが意図を引いているのであれば、彼を確保することでラーベル教会も無力化できるかもしれません」
ユリアンネはアデルを見つめながら言った。
「そのためにも、まずはドローレン要塞か。もし煉獄山地に敵の本拠地があるのであれば、そこに攻め込むにもドローレン要塞は都合がいい」
「あー、やっぱりそうなるんですね……」
イルアーナの言葉にアデルは乗り気でなさそうに呟く。
アデルはそもそも戦いが好きではないが、特に軍勢同士の戦いは避けたがった。少人数であれば異種族や精鋭ぞろいのダルフェニア軍の強みを生かしやすいのだが、大軍の運用にはやはりカザラス軍に一日の長がある。ロスルーでの決戦もダルフェニア軍側が防衛側であり、神竜の力添えや奇襲を繰り返してどうにか勝利を得られていた。
「なんとか話し合いで解決できたらいいですけど……」
「そこは私やヒルデガルド、ヴェルメラの役目になるでしょうね」
アデルの呟きにユリアンネが答える。
「それでアデル殿は最終的に何を目指していらっしゃるのですか?」
話を聞いていたロレンファーゼが尋ねる。
「え?」
急な質問に、アデルは固まった。
「全ての人間の王となることですか? それとも異種族も含め、全ての頂点となるおつもりですか?」
「もちろんだ。アデルは王となるべく……」
「い、いやいや! 全然そんなつもりはないですよ!」
勝手に答えようとするイルアーナをアデルが慌てて止めた。
「成り行きでここまで来ちゃいましたけど……皆さんと平和に仲良く暮らせれば、僕はそれで満足なんです」
「お前がそれで良くても、それは将来に火種を残すだけではないか? 強い力を持ち、正しく人々を導ける知見を持つ者が世界を統一するべきだ」
アデルの答えにイルアーナが不満げに反論する。
「あぁ、そういう考え方はあるんでしょうけど……少なくとも僕は自分がそういう立場になれる自信は無くて……」
「もちろんお前一人に任せるつもりはない。私のように周りで支える者も当然必要だろう」
「私」を強調しながらイルアーナが言った。
「そうですか」
アデルたちの話を聞き、ロレンファーゼは少し考え込む。
「まだ不安はありますが……ここしばらくのアデル殿の言動を拝見させていただいて、あなたが力づくで世界を支配しようとするような方ではないことはわかりました。ひとまずこれをお預けしても良いでしょう」
ロレンファーゼはそう言いながら胸元から何かを取り出す。それは拳ほどの大きさの赤い宝石だった。ロレンファーゼの魔力に紛れてわからなかったが、その宝石からも強い魔力が漏れ出している。
「そ、それって……!」
アデルはその宝石を見て目を見開いた。
「紅の深淵――魔法帝国の力の源の一部と聞いています」
「どうしてそれを持っているのだ?」
イルアーナがロレンファーゼに尋ねる。
「これは昔、エターニア国王から我々に託されたもの。彼らが管理していく自信がないということで、より強く聡明な我々に預けてきたのです」
「へぇ~、そうだったんですね」
アデルは興味津々でその宝石――メモリーセーバーを見つめる。
「ちなみに、これにどんな魔法が入ってるとかってわかったりします?」
「いえ、我々の魔法とは根本的に異なるようで……」
「あ、やっぱそうなんですね」
アデルは少しがっかりしつつメモリーセーバーを受け取った。
お読みいただきありがとうございました。




