好物(ヴィセリエ)
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中庭でキャロドレイクたちと別れたアデルたちは厩へと向かう。そこに彩ティアマたちが待っているからだ。彩ティアマに食べられないように馬は別の場所へ移動させている。
「おお、やっと来たティマ!」
黒い大トカゲ、彩ティアマが厩から顔を覗かせる。彩ティアマは五人だけだった。
「どうもどうも。よく来てくださいました」
アデルはペコペコと頭を下げる。
「運の良い男ティマ。我々の力があれば、怖いものはないティマ!」
彩ティアマのイルマーがそう言いながらアデルに近寄り、背中をバンバンと叩く。そのあたりの仕草は人間と同じなようだ。
「ははは……ご希望の温泉は代替の場所がわかったので、町の復興が終わったらムラビットさんたちに掘ってもらいます」
アデルは苦笑いしながら言う。彩ティアマたちには協力の見返りとして、温泉のある土地を要求されていた。
「助かるティマ。これで安心して卵を産めるティマ」
「卵?」
アデルは首をかしげる。
「我々は卵を温泉で温めるティマ。そうするとより強い子が生まれるティマ」
(本当に温泉卵なんだ……)
イルマーの話を聞き、アデルは顔を引きつらせる。
「ところで……イルマーさんが卵を産むんですか?」
「なにか問題ティマ?」
「い、いえ、なんでもないです」
(イルマーさん、メスだったのか……)
アデルは顔をブンブンと振りながら思った。
続いてアデルたちは城の中へと入り、客室のある区画へと向かう。その区画には談話室があり、そこで破魔妖狐たちと会う手筈を整えていた。
(けっこうたくさん気配があるな……)
談話室の手前でアデルは思った。百近い気配が談話室にあるのを感じる。アデルは談話室の扉に手をかけた。
「失礼しま……うわっ!」
扉を開いたアデルは固まる。談話室の中には大勢のうっふん美女が並んでおり、入ってきたアデルに視線を送っていた。
「お待ちしておりましたわ、アデルさん」
破魔妖狐のアオバが進み出てアデルを迎える。
「ど、どうも……」
アデルはグギギギと音がしそうなぎこちなさで頭を下げる。
「何をしている」
「おわぁっ!」
イルアーナがアデルを押しのけて中に入る。続けてロレンファーゼとラズエルも中に入ってきた。
「ほほう、これはすごい光景ですな」
ラズエルは微笑みながら言うが、イルアーナとロレンファーゼは破魔妖狐たちに冷たい視線を向けただけだった。
「お気に召していただけたなら何よりですわ」
アオバが妖艶に微笑む。他の破魔妖狐たちもアデルを見つめていた。
(あれ……?)
そこでアデルは違和感を感じる。破魔妖狐たちの顔を見渡して、その違和感の原因に気付いた。
(顔が同じだ……)
美女に変身した破魔妖狐たちはほとんど同じ顔をしていた。顔つきに微妙な差はあるが、髪型が同じなら同一人物だと思ってしまうだろう。幻術で平均的な人間の顔に化けた結果、似たような顔になってしまっているのだ。
「アデル様に頂いた禁断の食べ物……みんなとっても気に入ったようです」
「ああ、それなら良かったです」
アオバの言葉にアデルは安堵した。
「でも控えめにしてくださいね。あれは健康に悪いですから……」
「何をやったのだ? 麻薬か?」
アデルにイルアーナが尋ねる。
「そ、そんなんじゃないですよ! 揚げチーズです!」
「揚げチーズ?」
イルアーナは首を傾げた。
破魔妖狐の協力を得るために、アデルは何をすればよいか考えた。そして好物をプレゼントすることにしたのだが、何が好物なのかわからない。そこでキツネの好物として油揚げを思いついたのだ。だが油揚げの材料となる豆腐がないうえ、そもそもキツネの好物が油揚げというのも日本の迷信だ。そこで豆腐の代わりになる白くて柔らかい物として、チーズが選ばれたのである。
しかし人間ほどの料理文化のない破魔妖狐にとって、揚げ料理は未知の食べ物だった。味わったことのないサクサク感に、破魔妖狐たちはみな魅了されてしまったのだ。
「あんな美味しい料理が食べられるなら、みんな喜んでアデル様に協力すると申しておりますわ」
「わぁ、良かったです!」
青葉の言葉にアデルは笑顔になる。
そのアデルの横顔を、ロレンファーゼはじっと見つめていた。
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