視線(ヴィセリエ)
※いまさらですがエックス垢を作りました。
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「ただいま戻りました~」
ヒトギンチャクを倒したアデルたちは陽が落ちる前にヴィセリエへと戻ってきた。城の城門まで行くと、兵士から報告を受けたクロースが出迎える。
「お帰りなさいませ、アデル様」
クロースは恭しく頭を下げる。
「アデル様、お留守の間に彩ティアマたちと破魔妖狐たちが到着しております。彩ティアマたちは身体が大きいため厩に、破魔妖狐たちは客間をあてがっております」
「あ、そうなんですね。ありがとうございます」
クロースにアデルは笑顔を返す。ヴィセリエにはすでにムラビットとハーピーたちも到着していた。ムラビットは町の重要施設から修復を始めている。ハーピーらも空からの偵察に協力してくれていた。
「あ、そうだ。彼女たちはどうしましょうか……」
アデルは馬の背から荷物袋を取る。中からキャロドレイクたちの声が聞こえた。
「とりあえずどこでもいいから、埋まれる所に案内しなさいよ!」
「乾燥はお肌の大敵なんだから!」
キャロドレイクたちがギャーギャーと騒ぎ立てた。他の馬にも荷物袋が括りつけてあり、中でキャロドレイクが騒いでいる。
「とりあえず中庭にでも埋めたらどうだ? 土を耕すだけなら私の魔法でもできる」
「それなら我々も手伝いましょう」
イルアーナの言葉を聞き、ロレンファーゼが申し出た。
「じゃあお願いします。さっさと埋めちゃいましょう」
「何よ、邪魔者みたいに扱って!」
抗議の声を無視し、アデルはキャロドレイクたちの入った袋をすべて担ぎ上げる。
「あ、クロースさん。イバのご飯をお願いします。ニンジン多めで」
イバはお座りをして尻尾を振りながらアデルたちを見つめていた。アデルの言葉を聞き、舌を出しながらクロースに近寄っていく。
「……どうぞこちらへ」
クロースは一瞬戸惑ったものの、イバを案内して城の中へ入って行った。
「私もごはん」
ポチがボソッと言う。
「はは、じゃあヒミコさんとポチはさきにご飯食べててください」
「わかりましたわ」
アデルが苦笑いしながら言い、ヒミコはポチを抱き上げて食堂へと向かった。残念ながら今のヴィセリエではおかずは一品しかなく、選ぶこともできない。
「では行きましょう」
アデルたちは中庭に向かって歩き出す。芸術を重視していたエターニア王国らしく、ヴィセリエ城は広く、凝った造りの中庭がある。ただ火トカゲのせいでその半分ほどは焼かれてしまっていた。
「どこがいいのかなぁ」
アデルは中庭を見回す。
「降ろしてよ、自分たちで探すわ」
キャロドレイクの一人が言うので、アデルは彼女たちを地面に降ろした。キャロドレイクたちは散開してトコトコと歩き回り、地面の様子をチェックして回る。
「ここ全然イケてない」
「こっちは美味しそうな地面だけど、風景が退屈よね」
「じゃあこっちは?」
キャロドレイクたちはショッピングでもするかのようにあちこちの地面を見ながら、ああでもないこうでもないと話始めた。
(これは……もしかしてめちゃくちゃ時間がかかるやつか?)
アデルの心に不安が広がる。
「そこに住むわけでもないのに、あまり時間をかけないでもらえるか?」
そこにイルアーナが口を出した。
「女の子の土選びは時間がかかるの! わかるでしょ?」
「そうよ。変な土で寝ちゃったら、次の日セットが全然決まらないんだから!」
「さっさとしろ!」
騒ぐキャロドレイクたちをイルアーナが睨み付ける。
「きゃぁっ!」
キャロドレイクたちは悲鳴を上げながら近くの地面に潜った。土魔法でも使っているのか、一瞬で頭まで地面に埋まる。
「ははは……すぐに水を用意しますね」
アデルは苦笑いを浮かべると、近くの井戸に向かう。籠城に備え、中庭には井戸が掘ってあった。アデルはバケツで水をくみ上げ、キャロドレイクたちのもとへ運んでいく。
「えっと……これドバッと掛けちゃっていいんですか? それともチョロチョロと?」
アデルは恐る恐るキャロドレイクたちに尋ねた。
「ドバッと掛けなさいよ、意気地がないわね!」
「わ、わかりました!」
アデルは思い切ってキャロドレイクたちにバケツの水をぶちまける。
「きゃーっ!」
「サイコー!」
まるでプールにでも入ったかのようにキャロドレイクたちははしゃぎ始めた。
「もっともっと!」
「わかりました」
キャロドレイクたちにせがまれ、アデルはまた井戸に走る。
「私も手伝いましょう」
それを見てドレイクが申し出る。
「あ、ありがとうございます」
アデルとドレイクは手分けしてキャロドレイクに水を掛けた。
「やれやれ……」
イルアーナは呆れたようにため息をつく。その横でロレンファーゼはそんなアデルを静かに見つめていた。
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