名前(ヴィセリエ)
誤字報告ありがとうございました。
「彩ティアマと協力ですか……面白いことを考えますのね」
彩ティアマとアデルのやり取りを見てた破魔妖狐は興味深げに言った。
「破魔妖狐さんもいかがですか?」
アデルは破魔妖狐に尋ねる。
「そうですわねぇ……興味をそそられますけど、私の一存では決められませんわ」
体をくねらせながら破魔妖狐は答えた。
「破魔妖狐さんたちも何人かいらっしゃるんですか?」
「もちろん。ただ正式に協力すると決めるまで、人数は明かせませんが」
「そうですか……他の皆さんは近くに住んでいらっしゃるんですか?」
「申し訳ありません、それもお答えできませんわ」
破魔妖狐は妖艶な笑みを浮かべて質問をかわす。
「う、う~ん。じゃあどんなことが出来るかだけでも……」
「そうですね……こんなのはいかがですか?」
言うや否や、破魔妖狐の姿がボヤける。
「え?」
ポカンとするアデルの前に見知らぬ美女がいた。その妖艶な美女は潤んだ瞳でアデルを見つめている。薄茶色の長髪を片側に流し、黒い瞳の下には色っぽい泣きボクロがあった。着物は肩口まで開け、大きなプリン山がこぼれそうになっていた。
「は、破魔妖狐さん!?」
「気に入っていただけました?」
「うひぃっ!」
破魔妖狐はアデルの腕に抱きつくように腕を絡める。ぷにゅ体験とともにアデルの体を電撃のような興奮が駆け抜けた。
「つまり変身できるということだな!」
イルアーナが無理やり破魔妖狐を引き離す。
「ええ。私たちは力はか弱いですが、幻術に長けております」
微笑みながら破魔妖狐が言う。
彼女が言う通り、破魔妖狐は幻術に長けていた。ラミアなどの女性型魔物と違い、一瞬で姿を変えることが可能だ。ただしその姿はあくまでも幻である。アデルが先ほど感じたぷにょんも実際の感触ではなく、幻覚だ。この幻術を駆使し、破魔妖狐はたびたび人間の都市に潜入していた。
ちなみに破魔妖狐たちはあまり美女に化けているという自覚はない。彼女は平均的な人間に化けているつもりだ。しかし人間はもっとも平均的な顔を「美しい」と感じるという説がある。平凡な容姿に化けようとした結果、人々の目を引くような美女になってしまっているのである。その理屈だとお胸の方も平均的になるはずなのだが、何者かの意図によって大きくなってしまうのだった。
「そ、そうですか。それはえろ……すごいですね」
深呼吸を繰り返し興奮を抑えながらアデルが言う。
「ワン!」
そこに千羽犬が寄って来てアデルの足にまとわりついた。
「あっと、後回しにしてごめんね」
アデルはしゃがみ込み、千羽犬の頭を撫でる。
「君は……何かできる?」
アデルが尋ねると千羽犬は少し考え、小首をかしげる。
「ワン!」
「そっか。偉いねぇ」
一声鳴いた千羽犬の頭に、アデルは猫なで声を出しながら頬ずりする。
「『求めるのであれば、俺がお前を守護してやろう』だって」
その時、ポチがボソッと呟く。
「え?」
アデルはキョトンとしてポチの顔を見つめた。
「何が?」
「だから、その犬が言った言葉」
ポチに言われ、アデルは千羽犬を見つめる。千羽犬はつぶらな瞳でアデルを見上げていた。
「それ……この子が言ったの?」
アデルが尋ねるとポチは黙ってうなずく。
「そうなんだ……他に仲間は?」
「ワン!」
アデルの言葉を理解しているかのように千羽犬が鳴く。
「『俺は一匹狼だ。だが世界には仲間がいるかもしれぬ。探すのを手伝ってくれるなら協力しよう』だって」
「そ、そっか……」
アデルは千羽犬を見つめる。相変わらず千羽犬は、かわいらしい表情でアデルを見上げていた。
「じゃあ……よろしくお願いします」
千羽犬の言葉遣いを聞き、なんとなく撫でにくくなってしまったアデルは立ち上がって頭を下げる。
千羽犬はイバ、彩ティアマはイルマー、破魔妖狐はアオバと名乗った。イバを除く二人は一度仲間のところへ戻ることになった。
こうしてアデルは新しい協力者たちを手に入れたのであった。
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