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成り行き英雄建国記 ~辺境から成り上がる異種族国家~  作者: てぬてぬ丸
第十四章 真相の章

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王位(スターティア)

誤字報告ありがとうございました。

「ええい、くそっ!」


 苛立った声とともに何かが壊れる音が廊下まで響く。


 そこは旧ハーヴィル王国の首都スターティアにある城の執務室だった。中ではハーヴィル王を名乗っているサラディオ・パトリシャールが報告書を睨みつけている。


 それは各所からもたらされた報告だった。住民の数や予想される収穫量、兵士の数などが記載されている。しかしそれはサラディオが望む数字とは程遠いものだった。


「サラディオ様」


 音を聞きつけて心配したのか、老騎士と女性が部屋を訪れる。軍団長”白獅子”ウルリッシュとサラディオの妹”賢姫けんき”クロディーヌだ。


「物音がいたしましたが……ご無事ですか?」


 ウルリッシュが落ち着いた様子で尋ねる。すでに周囲の状況からサラディオが誰かに襲われたわけではないことは把握していた。


「あぁ、大丈夫だ。下がれ」


 自身の苛立ちを押さえるようにサラディオが言う。


「お兄ちゃん……やっぱり一年で独立するのは無理じゃない?」


 クロディーヌが心配そうに言った。


 サラディオは一年で旧ハーヴィル王国領を立て直し、新ハーヴィル王国として神竜王国ダルフェニアのカザラス帝国との戦いに参戦する目標を立てていた。だがそれは到底無理な目標だった。


 アデルが短期間で神竜王国ダルフェニアを発展させられたのは、敵味方の戦死者を抑え、後に敵兵を味方に取り込めていたからだ。また戦いの多くは短時間で決着し、戦場となった場所や町への被害が少なく、兵糧の消費も抑えられている。もしどこかの町で一か月も戦が続けば、その周囲の農村も住民は避難し生産に悪影響が出るだろう。


 兵たちに略奪を禁じていたのもプラスに働いている。もしすぐには領地化できない都市において略奪を許可するのであれば、物資が手に入り兵の士気は上がり相手の国力は下がるという一石三鳥の効果が望める。だがその都市を領地化するのであれば、略奪を許可してしまうと生産力が下がり貧困により治安が悪化、国家への憎しみや反抗心の増長などマイナス面が多い。もちろん入植や奴隷化が目的である場合などは話が変わってくるのだが。


 一方でハーヴィル独立を目指すサラディオは行き詰っていた。


 アデルのやったように他国を取り込むというようなことはできず、人的資源に関しては自然増を待つしかない。だがそれも働き手の多くを兵士などとしてすでに取られており、子供や女性、老人が多めとなっているため緩やかな増加しか期待できない。兵士を減らせば人口増加や生産力の向上が期待できるが、軍事力を神竜王国ダルフェニアに頼ることになる。


「やらなければならないんだ。いつまでもアデル王に頼ってなんていられない。俺たちはハーヴィル王国なんだ」


 サラディオが抑えた声で言う。サラディオが目指すのはかつての栄華を極めたハーヴィル王国だった。それには神竜王国ダルフェニアに依存せず、独立国として力を示さなければならない。もしこのまま彼らの軍事体制が整わないまま神竜王国ダルフェニアが大陸を統一してしまえば、誰もが新ハーヴィル王国を神竜王国ダルフェニアの傀儡と見なすだろう。


「別に……もっとアデルさんを頼っても良いんじゃないの?」


「馬鹿を言うな!」


 クロディーヌの言葉にサラディオは机をドンと叩く。クロディーヌはビクッと肩を震わせた。


「俺たちはハーヴィルを復興するんだろう? でも何をやった? カザラス軍を追い出したのはアデル王だ! 俺たちはただお情けで国を返されただけ。誇り高きハーヴィルの末裔が、それでいいのか!?」


「お兄ちゃん……」


 苛立つサラディオをクロディーヌは憐れむような目で見る。


 南方で一人となってしまったサラディオにとって、ハーヴィル王国だけが自身のアイデンティティであり、その再興だけが生きる目的だった。サラディオの目に宿る炎は熱意というよりは執念に近い。


「……おっしゃる通りです、サラディオ様」


 険しい顔でウルリッシュが口を開く。


「クロディーヌにも言ってきましたが、ハーヴィル再興は我々の悲願。なんとしてでも成し遂げたい目標です。ですが……」


 ウルリッシュはそこで首を振る。


「それはあくまでも我々の問題です」


「なに?」


 サラディオは怪訝な表情でウルリッシュを見つめた。


「王家こそ国の象徴。我々が戻れば、ハーヴィルの民は歓喜し、受け入れてくれる……私もそう思っておりました。しかしアデル王を見ていると疑問が湧いてきました。アデル王は平民です。だが彼を皆がリーダーと認め、慕っています。私も、クロディーヌもそうです」


「うん……アデルさんはこう言ってた。血筋ではなく、みんなが王になって欲しいと思う人が王になるべきだって」


 ウルリッシュの言葉にクロディーヌも賛同する。


「俺が王にふさわしくないって言うのか!」


 サラディオが立ち上がって怒鳴る。


「そうだよ、今のお兄ちゃんじゃね!」


 だがクロディーヌも負けじと声を張り上げた。


「だってお兄ちゃん、どうやったらみんなが幸せに暮らせるかじゃなくて、これ以上アデルさんに頼ったらカッコ悪いみたいな、そんな話ばっかりしてるじゃん! そんなんじゃアデルさんに勝てるわけないよ! アデルさんに張り合いたいなら、まずはハーヴィルの人たちに『お兄ちゃんのほうがいい!』って思ってもらえるような王様にならないと!」


「なっ……!?」


 サラディオは言葉を失う。実際、新ハーヴィル王国として独立するよりも、このまま神竜王国ダルフェニアに併合されたほうが良いという声も多い。サラディオたちを支持しているのは旧ハーヴィル王国の貴族や騎士たちがほとんどだった。


 サラディオはガックリと肩を落とす。その時、部屋の扉がノックされた。


「入れ」


 サラディオが弱々しい声で言うと、一人の兵士が入ってきて敬礼する。


「アデル王よりご連絡です。領内にいる魔物や異種族の場所を報告せよ、と」


 兵士は報告しつつも、部屋内の異様な様子に目を泳がせていた。


「うん、わかった。私が対応するね」


 意気消沈したままのサラディオを見て、クロディーヌはそう言って兵士と一緒に部屋を出て行った。


 部屋に残ったサラディオとウルリッシュの間にしばらく気まずい沈黙が流れる。


「……ウルリッシュ」


 その沈黙を破ったのはサラディオだった。


「はい」


「俺は……ハーヴィル再興を諦めない」


 静かな口調で、しかしはっきりとサラディオは呟いた。


「ご立派な判断です。ですが……」


「悪いが、お前は軍団長の座を降りてくれ」


 サラディオは立ち上がると、ウルリッシュの肩に手を置く。


「俺が軍団長になる。お前は補佐を頼む」


「ということは……」


 ウルリッシュが見つめると、サラディオは頷いた。


「王位はクロディーヌに任せる。今のハーヴィルには、あいつのほうが必要だろう」


 サラディオはそう言うと、少し寂しそうに笑って見せた。


お読みいただきありがとうございました。

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