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成り行き英雄建国記 ~辺境から成り上がる異種族国家~  作者: てぬてぬ丸
第十四章 真相の章

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ホコリ(ヴィセリエ)

 ラーベル教会が転移門を開いた地下室は、兵士たちが進めるように家具はなく、天井も高めに作られていた。それでも大柄な救命騎士たちの頭は天井スレスレだ。地上階に通じる扉は両開きの扉となっているが、それでも救命騎士が並んで通るには狭すぎる広さだった。


 床にはうっすらと白いホコリのようなものが積もっている。救命騎士たちが足を踏み入れると、それが舞い上がった。それは空気の流れに乗り、転移門の向こう側にいる者たちにも届く。ズラリと並んだ救命騎士たちはそれを吸い込んでも身じろぎもしなかった。救命騎士たちの数はおよそ千体。さらに武装した神官たちが五百名ほど付いている。彼らがいるのはどこかの屋内のような薄暗い場所だった。スペースからすると相当大きな建物だろう。


「ゲホッゲホッ! まったく、掃除くらいしておけよ」


 ホコリのようなものを吸い込んだ神官が咳き込みながら言う。


「この地下室のおかげでダルフェニア軍の連中に気付かれずに侵入できるんだからな。さっさと奴らを排除して、ホコリまみれの地下室から移動しないで済むようにしよう……ヘックション!」


 他の神官がくしゃみをしながら言った。


「ん? 妙だな……ここに転移門を設けたのは最近の話。手入れをしていなかったとはいえ、これほどホコリが溜まるか……?」


 神官たちの様子に気付いた司祭が訝しむ。


 その時、地上へと続く両開きの扉が開かれた。扉の前にはクロスボウを持ったゴブリンが並んでいる。


「一斉発射!」


 エルフのラズエルの号令が響き、ゴブリンの持つクロスボウが放たれた。数人の救命騎士の身体に突き刺さる。しかし上手く頭部に命中したのは、一番前にいた救命騎士だけだった。


「待ち伏せか……!」


 司祭が顔を歪め、ゴブリンたちを睨む。


「おっと、これは想定以上の戦力ですね……」


 ゴブリンたちの後ろから地下を覗き込んだラズエルが呟く。


 エルフたちは転移門の出口が神殿以外の場所にも作られていることに気付いていた。エルフたちは転移門が開かれた際にすぐに対応できるよう準備を整えていた。そして今、異常な魔力を感知し敵を待ち構えていたのだ。


「だがその程度の戦力では我々は止められぬぞ! 進め!」


 司祭は余裕の表情で命令を下す。倒れた仲間など気に留めず、救命騎士たちがゴブリンたちへと迫った。


「後ろに下がってください」


 ラズエルはゴブリンたちを後ろに下がらせる。その声に焦りの色は見えなかった。


「樽を!」


 ラズエルが命じると、すぐに階段から三個の樽が転がってくる。その樽は救命騎士たちの足元へと迫った。


「また火樽か!」


 それを見た司祭が顔を歪める。タイファの町では仕掛けられた火樽によってラーベル教の兵が大勢、火傷を負わされていた。


 救命騎士はその樽を障害物と認識して蹴り飛ばす。樽は壁に当たり、弾け散った。だがその中身は油ではなく、白い粉だった。


「なっ……!?」


 司祭はそれを見て驚く。その粉は地下室の床に積もっていたホコリのようなものに似ていた。白い粉は舞い上がり、地下室内に充満する。そしてそれはラーベル教の神官たちの元までも漂ってきていた。


 他の樽も救命騎士たちによって破壊される。さらに大量の粉が舞い上がった。そしてそれまで平然としていた救命騎士たちが、突如バタバタと倒れ始める。


「ど、どうした!?」


 司祭が狼狽える。そうしているうちにも救命騎士たちは倒れ続け、地下室にいた救命騎士たちは全員倒れてしまった。


「ゲホッ……うぐっ……!」


 救命騎士だけではない。転移門の中にいたラーベル教会の神官たちが口を押えてしゃがみ込む。口を押えた手の隙間からは血が流れ出ていた。


「まさか、その粉は……!?」


 司祭の顔が青ざめる。


「ええ、毒ですよ」


 ラズエルは微笑みながら答える。空気の壁を作っているのか、ラズエルたちがいる側へは毒の粉は飛んでいなかった。


「救命騎士とやらが平然としてるので効かないのかと心配しましたが、痛覚などが無いから苦しんでいなかっただけなのですね。安心しました」


 ラズエルは倒れた救命騎士たちを見下ろしながら言う。救命騎士の身体は強化されているとはいえ、その機能は脳以外ほとんど普通の人間と変わらない。毒を摂取すれば当然、その機能に疎外が生じる。そして咳やくしゃみで反射的に毒の粉を防ごうとしない分、まともに毒を摂取してしまうのだ。


「い、急いで門を……」


 司祭は口を袖で覆いながら命令を出そうとする。


致死吹風フェイタルブロウ!』


 だがその前にラズエルの魔法が発動した。地下室に風が巻き起こり、毒の粉を大量に含んだ風が転移門の向こう側へと吹き込む。


「う、うわぁっ!」


 ラーベル教の神官たちは悲鳴を上げて逃げ惑う。だが後退を命じられていない救命騎士たちはバタバタと倒れていった。


「ええい、こうなれば……火竜だ! 火竜を出せ! 地下室ごと毒を焼き払うのだ!」


 司祭が後ろに下がりながら大声で叫ぶ。


「おっと。火トカゲですか。それはまずいですね」


 ラズエルは眉をひそめる。どこからか火トカゲの叫ぶ声が聞こえてきた。


「仕方ありません、諦めましょう」


 ラズエルの背後から静かな、しかし力に満ちた女性の声が響く。エルフの女王、ロレンファーゼだった。


「そうですね、彼らの本拠地に踏み込むのはまた別の機会にしますか」


 ラズエルは肩をすくめる。その前にロレンファーゼが一歩進み出た。


次元閉鎖クローズ!』


 ロレンファーゼが魔力を放つ。それは転移門の端に命中した。


「しまっ……!」


 司祭の声が唐突に途切れる。転移門が閉じたのだ。


 転移門とは異なる二点を歪めた時空でつないだ際、その時空が閉じようとするのを防ぐ「つっかえ棒」のようなものだ。一目でそれを見抜いたロレンファーゼは、そのつっかえ棒に魔力を当てて外すことで、転移門を強制的に閉じたのだった。


 静寂を取り戻した地下室には救命騎士たちの死体と、破壊された樽の破片が転がっている。そのうえにわずかに白い粉が積もり始めていた。大半の粉はラズエルの魔法によって転移門の向こう側へと送り込まれたようだ。


「これでしばらくは手を出してこないでしょう。ですが……」


 ロレンファーゼが呟く。


「あの広大な空間。そして漂っていた異常な魔力……あそこは一体どこなのでしょうね」


 ロレンファーゼは転移門が消えた壁をしばらく見つめていた。

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