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成り行き英雄建国記 ~辺境から成り上がる異種族国家~  作者: てぬてぬ丸
第十三章 跋扈の章

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決まり(ラパイソ近郊)

※コカトリスの語尾が「じゃ」という設定をすっかり忘れていました。


 一本の大木の上で、シャモンとダークエルフはしばらく見つめ合った。ダークエルフは森の民のように素肌を包帯で覆っている。着ているものも粗末で、動きやすさと通気性を重視したものだった。


「……ロック鳥の雛か? だいぶブサイクだが」


 ダークエルフが首をかしげながら呟いた。


「誰がブサイクじゃぁっ!」


 その言葉にシャモンが翼をばたつかせながら抗議する。


「全身の毛穴に羽突き刺して、本物の鳥肌にしたろかじゃ!」


「こっちの言葉を理解している……新手の魔物か?」


 ダークエルフはショートソードを構えながら呟いた。最初、ムラビットたちの言葉をイルアーナが理解できなかったのと同様、シャモンの言葉はそのダークエルフには通じていないようだった。


 ダークエルフは素早く身体の前で手で印を描く。


「飛ばれては厄介だ……『風刃裂波ウィンドスラッシュ!』」


 ダークエルフが魔法を発動させた。いくつもの風の刃がシャモンに襲い掛かる。それはシャモンの翼を狙っているようだった。


『蛮々石衣バンバンジイ!』


 シャモンも咄嗟に土魔法を発動させ、自身の体を石の鎧で守る。こういう時のためにコカトリスは普段から砂浴びをして羽の中に砂を貯えていた。


 ダークエルフの放った風の刃はシャモンの石の鎧を破壊するが、その身体にダメージは与えられなかった。


「土魔法か……厄介だな」


 ダークエルフがシャモンを睨みつける。


「……!」


 その時、ダークエルフの体のすぐ近くを何かが通過した。ダークエルフは右腕に何かが触れたような感覚を覚える。


「虫か?」


 ダークエルフはおのれの右腕に視線を向ける。包帯がはらりと解け、一カ所に浅い切傷が出来ていた。


「これは……」


 ダークエルフが状況を理解しようとする。しかしその視界が歪み、意識が遠のいた。


(……毒?)


 ダークエルフの体勢が崩れ、木の枝から落ちていった。しかしその落下地点にはすでに何者かが素早く走り込んでいる。


「よっと……」


 それはアデルだった。かなりの高さから落ちたダークエルフを簡単に受け止めている。その上、全身をクッションのように使い衝撃を和らげていた。


 ぷにっ……


 ダークエルフの身体を受け止めたアデルの腕に、何か柔らかい感触が伝わる。


(こ、これは!? まさか伝統のラッキースケ……)


 アデルがその感触に気を取られた瞬間、ダークエルフが肘を突き出した。


「ベッ!?」


 顎を肘で打ち抜かれ、アデルの頭がのけ反る。その間にダークエルフはアデルから距離をとっていた。


(短剣は……)


 ダークエルフは朦朧としつつも自分の武器を探す。ショートソードはアデルの足元に落ちていた。木から落ちた時に手放してしまったようだ。


「アデルのカシラ! ソイツはワシの獲物じゃ!」


「シャモンさん! ご無事で何よりですけど、戦いじゃなくて話し合いが目的って言いましたよね!」


 シャモンが地面に降りて来てアデルに怒鳴った。アデルは顎を抑えつつシャモンに怪我がないことを確認する。アデルもたいしたダメージを負っている様子はなかった。


「大丈夫か、アデル!」


 そこにイルアーナが駆けつけて来る。神竜や他の者たちもその後ろについていた。


(毒か……)


 どうにか意識を保ちながらダークエルフは自分の腕の傷口を見る。


(もはやここまでだな……)


 ダークエルフは周囲に目を走らせる。そして近くの茂みに咲いているアシッドフラワーを見つけた。


「……!」


 躊躇なくダークエルフは最後の力を振り絞ってアシッドフラワーに向かって跳んだ。もはや着地する力もなく地面に倒れ込む。顔を上げるとアシッドフラワーが酸を噴き出そうと花弁を膨らませているのが見えた。


 次の瞬間アシッドフラワーは切り刻まれ、いくつもの破片となる。そしてアシッドフラワーは自らの酸によって枯れていった。


(くっ……!)


 ダークエルフは悔しそうにそれを見つめた後、意識を失った。


「あのー……大丈夫ですか?」


 倒れたダークエルフにアデルは声をかける。しかし返事はなかった。


(森の民さんたちに似てる格好だな……)


 アデルはその姿を注意深く観察した。巻いている包帯にも森の民と同様、虫よけのハーブの汁が染み込ませてあるようだった。


「死んだのですかじゃ?」


 シャモンがアデルの後ろからダークエルフをのぞき込む。


「いえ、意識を失ってるだけ……のはずです」


 アデルは腰に付けたポーチを確認しながら言った。そこにはいくつかの毒液の入った小瓶が入っている。これを使用したのはフレデリカたちの傭兵団と戦った時以来だった。アデルはシャモンと戦うダークエルフを見てこの毒液をつけたクナイを投げ、ダークエルフの腕に傷を負わせたのだ。


「毒を使ったのか」


 倒れたダークエルフの腕を見てイルアーナが呟く。


「すぐに意識を失うはずだが……こいつらは毒に耐性があるのかもしれんな」


 イルアーナはそう言いながら倒れたダークエルフの傍らにしゃがむと、顔を覆う包帯に手を伸ばした。


「あ、あの、やめたほうが……」


 アデルが慌ててそれを止める。


「なぜだ?」


「よ、世の中には素顔を見られると、相手を殺すか愛するかしないといけないという決まりを持つ人たちもおりまして……」


「……なんだその決まりは?」


 アデルの言葉にイルアーナが眉をひそめる。結局、アデルはそのダークエルフが目覚めるのを待ち話を聞くことに決めた。


「ふむ……」


 そんなことを話しているアデルたちをよそに、ピーコは細切れになったアシッドフラワーを見つめる。


(自分に向けられた攻撃に咄嗟に反応するのはわかるが……他人を救うためにあの一瞬でこれか。末恐ろしいのう……)


 ピーコはアデルの背中を見ながらため息をついたのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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