蛮族の町(ラパイソ)
「わぁっ、これは……」
背の高い草が生い茂る草原を抜け、アデルは歓声を上げた。
そこは畑になっており、まっすぐに伸びた背の高い植物が育てられていた。
「トウモロコシだ!」
嬉しそうにアデルは言う。そこはトウモロコシ畑だったのだ。
「あの甘くて歯に詰まるやつか」
ピーコがトウモロコシを見て言った。
畑を抜けて進むと粗末な家々が目に入った。木製の高床式で、屋根と壁の間には大きな隙間が空いている。屋根や壁は日差しと他人の視線を遮るための最低限のもので、風通しを最大限によくするための構造だった。
住居は粗末なものの、その数は意外と多い。街にはかなりの数の住民がいるようだった。また町の中央のほうには木製ではあるものの、大きく立派な建物もいくつか見える。
町は申し訳程度の木の柵で囲まれており、入り口には門番が数名立っていた。手には槍を持っているが、鎧等は身に着けていない。質素な見た目の服を着ているが、この暑さでは一番快適な格好なのだろう。
「と、止まれ!」
奇妙な一団に狼狽えながら門番が槍を構えて叫ぶ。
「通してくれ。彼らは我々の客人だ。女王にお話がある」
ラヒドがその門番に話をする。
「こいつらをか?」
門番は不審そうにアデルたちを見た。
「心配いらん。彼らの素性ははっきりしている。我ら砂漠の民が責任を持とう」
ラヒドが力強く言うと、門番たちは渋々引き下がった。
そしてアデルたちは町へと入る。町の名はラパイソという名前だった。蛮族たちの最大のコミュニティのようだ。
通りを進むアデルたちは人々から奇異の視線を向けられた。人々の肌は日に焼けているものの、あまり北にいる人間たちと変わらなかった。
「うひょーっ! ベッピンさんやなぁ!」
屋根の上で声がする。見上げると、コカトリスのシャモンが派手な羽色をした鳥をナンパしていた。
「アデルのカシラ! ワシらちょっとそこの森でデートしてきてもええですか?」
シャモンは照れ笑いを浮かべながらアデルに尋ねる。
「いいですけど……あんまり騒ぎを起こさないでくださいね」
「もちろんですわい!」
アデルが許可を出すと、コカトリスたちはジャングルのほうへと飛んでいった。
「ホッホゥ! いささか心配ですな」
ジェントアウルのセバスチャンが呟く。
「アデル様、ここは私もコカトリス殿たちについて参ります。危険な魔物でもいたら、私のような交渉役も必要でしょう」
「わかりました、お願いします」
アデルが頷くと、セバスチャンもコカトリスたちを追って飛んでいく。
(……美人の鳥目当てじゃないだろうな)
遠ざかるセバスチャンを見ながらアデルはそう思った。
しばらく街を進むと、海辺にある港が目に入った。港とは言っても海に向かって粗末な桟橋が幾本か伸びているだけのものだ。海にはだいぶ沖のほうまで人の姿が見えた。
(けっこう浅瀬なのかな……ん?)
アデルは奇妙なことに気付く。沖合に見える人影の横ではボートに乗った人々が漁をしていたのだ。
「あの……海で泳いでいる人がいるみたいなんですけど」
アデルは恐る恐るサラディオに尋ねる。
「あぁ、あれは海の民だ。漁師を守っている」
「海の民?」
アデルはその言葉に首を傾げた。
「ここからではわかりづらいが、彼らは大きな魚に乗っているのだ」
「海の民」は銛を持ち、マンボウに似た魚に跨っていた。この魚はたいした戦闘力があるわけではないが、海の魔物の嫌いな匂いを放つことで身を守っていた。人々が漁をしている間は、彼らが沖合に並び魔物の侵入を防いでいるのだ。
「へぇ、そうなんですね」
アデルは頷いた。
「砂漠の民、草の民、海の民……もしかして森の民もいたりするんですか?」
「あぁ、いるぞ」
アデルの言葉に今度はサラディオが頷く。
「草の民のように、森に罠を巡らせ町を守っている。森の奥までは危なくて行けないがな」
サラディオは少し険しい顔になって言った。
「へぇ。やっぱり危険な魔物がいるんですか?」
「危険な魔物もそうだが……」
サラディオはイルアーナたちのほうに視線を向けた。
「この森にもいるのだ。ダークエルフがな」
「えぇっ!?」
サラディオの言葉にアデルは驚愕した。
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