第四章 35 ナオとセイの必殺技
そういえば、とナオの話を聞いて思い出す。図書館で見つけた資料を解読するまで、ナオとセイが新技の練習をしていた。確かに「最悪クロスとの決戦までに完成」と言っていたから、勝率が低いというのも納得だ。
もちろん、その上で反対はない。むしろナオの作戦に乗るしかないこの状況だ。わたしは力強く頷く。
「勝率とかなんでもいいよ。詳しく話してほしい」
「ありがと。私がやろうとしているのは、空間魔法に私の能力――彩に言わせれば『反射』を上乗せするってこと。わかる?」
「……えーっと」
わたしは小さく首を傾げる。
「バリアみたいな感じ?『反射』ってことは、空間魔法で創り出したバリアが受けたダメージをそのまま相手に跳ね返すみたいな」
「多分そういうこと。狭くて薄い空間魔法を自分たちの周りに張り巡らせて、しばらく攻撃に耐えるの。限界が来たら反射を使って、彩の言うバリアが傷ついた分をそのままお返しする。血のつながってる私とセイなら、空間魔法と反射をリンクさせられるっていうのは既に検証済み。だけど……」
「空間魔法の制御が難しいんです。一般的な空間魔法と違って、この場合は完全に空間を切り離しません。それ自体は失敗みたいな感じなので難しくはないんですが、その不安定な状態で耐久力を持たせるのが難しくって……。すぐに魔力が底をついちゃうんですよね」
セイは大きくため息を吐いた。リンも考え込む。
「ボクが首を突っ込んだらバランスが崩れて上手く行かないだろうしね。何せ二人が姉妹だから出来る荒業だ。ボクもそんな使い方をしたことがないから、助言は出来ないし……」
「………………え」
ふいに、マリーが目を大きく見開いた。辺りをきょろきょろと見始める。
「どうかしたのか?」
「声が……今、声がしたわよね。それとも誰も聞こえていないの?」
「ナオとリン以外の声は聞こえてないけど」
急に何を言いだしたのかと思いながら答える。マリーは「そう」と答えたけど、その声はどこか上の空だ。
虚空を見つめているマリーを見て、わたし達は顔を見合わせる。
「え、え、突然どうしちゃったんでしょう?」
「恐魔獣に脳みそハイジャックされたとかじゃないよね」
「そんな恐ろしい技使う? クロス並じゃない」
「――心配しなくて大丈夫よ」
わたし達がひそひそと言いあっていると、マリーがわたし達を見た。マリーの目は真剣ながら、きらきらと輝いている。
「天啓があったの」
しかしその口から飛び出してきたのは、キラキラした目とはかけ離れた胡散臭い言葉だった。わたしは思わず自分の耳を疑った。
「え? なんて?」
「天啓。あの方から言葉が届いたの。魔法が十分に使えない状況だから、ハッキリとは聞き取れなかったけれど、私にはわかるわ。これならナオとセイの悩みも解決できるかも」
「ああ……」
字面だけだとマジでヤバい狂信者みたいだけど、今ので何となくはわかった。多分ジェニだ。ジェニが魔法でマリーに何かを伝えた。この状況でかなりの距離を隔ててマリーに言葉を送れる存在は、わたしの記憶だとジェニくらいしか思いつかない。マリーがあの方って呼ぶのもジェニしかいないだろう。
納得したわたしは、「女神さまはなんて言ってた?」と尋ねた。
「今は魔力が過剰に溢れている状態だから、過剰な分を私がもらい受けて、ナオとセイに渡せば良いって。それなら魔力の枯渇問題もどうにかなるわ」
マリーは得意げにウィンクをする。流石、美人はウィンクを使いこなしてるな。
「へえ。そんなことも出来るのかい?」
「出来るみたい。私もやったことがないからわからないけど、やるだけやってみたいと思う。だって二人が頑張ってくれるんですものね」
マリーはナオセイ姉妹に微笑みかけた。お姫様からの信頼を受けた二人は、少し嬉しそうな顔をする。
「マリーの言う通りです! 失敗なんて余計なこと考えてる暇はありません。成功することだけを考えないと!」
「そうね。じゃ、早速計画を整理するわよ」
ナオは頷くと、真剣な顔で口を開いた。
「まず私とセイで、受けたダメージを蓄積させる空間を作り出す。マリーは恵みの魔法を使いつつセイに魔力を補給して」
「バリアの効果範囲はどれくらいなの?」
「かなり狭い。ここにいる全員を入れるのがやっとってところね。それと、私の『反射』だけじゃ確実にアイツは仕留められないわ」
「それでも隙なら作れるだろう?」
リンがナオに尋ねる。
「まあ、どれだけ向こうが攻撃してくるか・私たちが耐えられるかにもよるけど、一瞬くらいなら? 攻撃がまったく効かないわけないでしょうし、流石に向こうも怯むでしょ」
「それなら、その隙をついて私が魔法の範囲を拡大するわ。恐魔獣の力が弱まれば辺りの魔力の流れも少しは落ち着くはず。魔法を使える範囲を広げて、外にいる魔法使いたちにも攻撃をしてもらいましょう」
マリーが手を合わせて提案した。なるほど、ナオたちが恐魔獣を怯ませた隙に、魔法使いたちと一緒に攻撃してトドメを刺そうってことか。
「じゃあ散らばってる魔法使い組にここへ来てもらわないとね。エドワルドさん達に頼んでこよっか。特にやることないからわたしが行ってもいいよ」
「ダメ。彩はここにいて。あんたがいた方が何か起きた時対応しやすいでしょ」
思っていたより強めに引き留められて、ちょっと驚いた。
「そうかな。ナオがそう言うなら従うけど、役に立てる気しないよ?」
「中心にはあんたがいてくれた方が落ち着くのよ。能力いくつか持ってるし」
「ふーん……いや、いいんだけどさ」
なんか釈然としない。過大評価って感じだ。わたしが内心首を傾げていると、「じゃあ」とユーリが声を上げた。
「あたしが外に出てるよ。別にあたしはいなくてもいいだろ」
「確かにユーリに任せる仕事はないから、お好きにどうぞ。こっちでも外でも好きな方を選んで」
「じゃあ外に出る」
一歩退いたユーリに続いて、リンもユーリの肩に乗る。
「じゃあボクも。何か頼みたい事があるなら、代わりに頼んでおこうか?」
「いや、わたしも頼みに行くだけ行く。二人に任せるのちょっと不安だし」
ほぼ初対面のユーリと妖精のリンに任せるよりは、わたしが出て行った方が良いだろう。わたしは名乗り出て二人についていく。
1班の人たちの中心にエドワルドさんは立っていた。わたしが「エドワルドさん」と声をかけると、すぐにこっちを振り返った。
「ああ、どうかしたのか?」
「作戦が固まりました」
ということで作戦の概要を説明して、最後の攻撃のために散らばっている魔法使いたちを収集してほしいと頼む。
「恐魔獣はわたし達で引き付けるので、王都は自由に動き回れるはずです。急なお願いにはなってしまうんですけど、合図と同時に最大火力で攻撃できる手段とかも考えておいてもらえますか? 攻撃できるなら手段は問いません」
「その程度なら容易いな。動ける班員で王都を走ればすぐに集められるだろう。それに、有効な攻撃手段にも心当たりがある」
エドワルドさんは髭をなでながらそう呟くと、わたしを見た。
「では、頼んだぞ。こんなことまで頼むことになるとは思っていなかった。すまないね」
「気にしないでくださいよ。わたし達としても、ここで一つドカンと大きな成果を上げて、王様に認めてもらいたいんです」
わたしは胸を叩くと、ユーリとリン、エドワルドさんに背を向けた。体を捻って三人に向かって笑いかける。
「よっし、じゃあ行ってきます!」
走り出した。向こうで、セイが両腕で大きくマルを作っている。準備完了ってことだろう。わたしは意気込んで速度を上げる。
往生際の悪い恐魔獣め。今度こそ、わたし達が絶対に仕留めてやる。




