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空と妖精のコピオーネ (旧:妖精の戯曲、蒼穹の誓い)  作者: 天音色
第四章 過去を乗り越える物語
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第四章 36 今度こそ

「こっちの準備は終わったわよ」


 わたしがナオたちの元へ到着すると、ナオがそう言って遠くを見た。視線の先には恐魔獣がいる。どうやらまたこっちへ戻ってきたようだ。まだこっちとは少し距離があるけど。


「なので、彩先輩がアイツをおびき寄せちゃってください! これ以上待ちぼうけで余計な時間は過ごしたくないですから」

「わたしが? あー、まあいいよ、任せて」


 わたしは足元へ視線を落とした。この崩壊した家には小さな子供が住んでいたのだろうか、子供向けのボールのおもちゃが瓦礫と一緒に転がっていた。触ると音がなるタイプのやつだ。

 どの世界でも子供が喜ぶのは似たようなものなんだな、とか思いながらも振りかぶる。


「『念動力』」


 ぶんっ、と投げたボールは不自然な軌道を描いて恐魔獣へと飛んでいく。そして……遠くてよく見えないけど、多分、命中した。


「当たった、のよね……?」


 マリーがそう首を傾げた瞬間、恐魔獣がこちらを向いた。どろどろの体を引きずりながらこちらへとやってくる。完全に標的にされている。


「当たってる当たってる当たってる! みんな、早く準備して!」

「わかってるわよ。セイ」

「はいっ」


 ナオとセイが互いに頷き合って、呪文を唱え始める。隣でマリーも恵みの魔法を使い、セイの肩に手を乗せた。


「こうしてセイに魔力を送るわ。必要になったら声をかけてね」

「わかりました。なんだかお手軽な感じですね」

 

 そうしている間にも、圧倒的なスピードで恐魔獣が迫ってきていた。不気味で動きづらそうな見た目をしているくせに、スピードは原型をとどめていたころよりも速くなっている。でもまだバリアは見えない。


「ナオ、かなり近づいてきてるよ!」

「知ってる。慌てないで見てなさい」


 ナオがそう言ったのと、恐魔獣がわたし達の眼前まで迫ってきたのはほぼ同時だった。


 シャンッ、と軽やかな音が聞こえて、わたしは思わず瞑っていた目を開いた。


「あ」


 視界はうっすらと緑色がかっていて、見えない壁にぶつかった恐魔獣がわたし達の目の前で動きを止めていた。隣のナオやセイは普通だから、バリアの向こうが緑色になっているって感じだろうか。


 魔法がちゃんと成功したことが嬉しくて、わたしは思わずナオに飛びつく。


「さっすがナオセイ姉妹! 失敗しないね……って、うわっ!?」

「いちいち反応が大きいのよあんたは……」


 大技を成功させたナオは、真っ青な顔をしていた。百人が見たら二百人が大丈夫じゃないだろうと心配するほどの顔色。わたしはぱっとナオから距離を取った。


「いや、だって明らかに顔色が……」

「今は私の体調なんて気にしないでよ。倒れるギリギリまで耐えるんだから」


 ナオは唇を噛んで正面の恐魔獣を睨みつける。


「勝負はここからですね」


 セイが言う通り、攻撃が通じなかったことに気づいた恐魔獣は、さらに攻撃を仕掛けようとしていた。無数の目から光線を出してバリアの破壊を試み始める。光線がバリアに当たるたびにビリビリと空気が震えて、立っているだけでもやっとの振動だ。


 今わたしが攻撃をしても、バリアに跳ね返されるだけで意味はない。とりあえずとナオを支えて踏ん張っていると、セイが苦しそうな声を上げた。


「マリー、魔力くださいっ。このままだとすぐに魔法切れちゃいます……!」

「わかったわ。上手くいくと良いんだけど」


 マリーは頷き、少し緊張した面持ちで目を閉じる。マリーの手から光の粒が溢れ、セイの体の中に溶けるように消えていく。あの光が魔力だろうか。


「! ありがとうございます、マリー。これならもう少し頑張れる……!」


 光を吸収したセイがにっと歯を見せて笑うと同時に、薄れていた緑色の光がまた濃くなった。バリアが強化されたのだろう。

 ただ、魔力を供給したといっても量はそこまでではないらしく、今もセイは苦しそうに肩で息をしている。慣れない技を使ったマリーの横顔も疲労気味だ。


 長くは持たないな、と思っていると、突然ひときわ大きな揺れがわたし達を襲った。見れば、恐魔獣が自分の体をバリアにぶつけたところだった。バリアにぶつかった衝撃で、恐魔獣の目玉の一つがぼとりと地面に落ちる。


 そして、その捨て身の攻撃の威力はすさまじいものだった。


 ビシッと嫌な音がして、バリアに亀裂が走る。すぐにナオとセイが魔法をかけ直して亀裂を塞いだけど、相手は攻撃の手を緩めようとしない。


 体当たりするたびにバリアが崩れかけ、恐魔獣の体が弾け飛ぶ。修復してもすぐにまた視界に亀裂が走る。

 繰り返されるその不毛な勝負が、永遠に続くはずもない。

 回数を重ねるごとに亀裂は大きくなっていき、やがて修復が間に合わないほどにまで追い詰められてきた。


「っ……」

 

 ふいに、ナオが額を押さえて俯いた。わたしはすぐにナオの顔を覗き込む。


「ナオ!」


 すぐに顔を上げたナオは、鼻血を滴らせながら恐魔獣を睨みつけていた。


「……もう、限界。自分にもダメージを負うほどの攻撃をこれだけ食らっていれば、十分でしょ」


 ナオはゆっくりと手を上げた。腕を伸ばし、細い指で恐魔獣を指さす。もうドロドロになって原型をとどめていない恐魔獣に、ナオは不敵な笑みを浮かべる。


「なかなか良い攻撃だったわよ」


 次の瞬間、わたし達を守っていたバリアが砕け散った。今までバリアが受け止めていた分の攻撃を跳ね返された恐魔獣は、勢いよく吹っ飛ぶ。べちゃりと音を立てて地面に落ちた。


「恵みの魔法を使うわ! 今のうちよ!」


 マリーが叫んで、指を組んで一心に祈り始める。奴が動けない今が最後のチャンス。このバリア作戦は二度は使えない。魔法使いたちは……と振り返ろうとしたとき、ユーリの声が聞こえた。


「彩、こっちだ!」


 わたし達の後ろでは、大勢の魔法使いたちが手を天に突き上げていた。その手のひらからは細かな光の粒が放たれている。さっきもマリーが使っていた、魔力の粒だ。


 集団の先頭に立ったユーリが、わたしに向かって叫ぶ。


「全員の魔力を変換してぶつけるらしい! 変換はもう出来てる! あとはお前が恐魔獣にぶつけるだけだ!!」

「わたしが? トドメもらっていいの?」

「何を気にしてるんだよ。いいからさっさとやれ!」


 まさかそんな大きな役目が回ってくると思っていなかったから驚いた。でもすぐに頷いて、同じように手を天に突き上げる。


「ありがとう、みんな! 『念動力』!」


 魔力――光の粒が、みるみるうちに恐魔獣の上へ集まっていく。無数の光の粒はくるくると回りながら、だんだんとある形を作り上げる。


 ここに集結した魔法使いたちの魔力は、神々しい光の剣へと姿を変えた。


「なかなかしぶとかったけど……」


 わたしは恐魔獣を真っ直ぐに見据え、高く突き上げた腕を振り下ろす。


「これで終わりだっ、恐魔獣!!!」


 わたしが腕を振り下ろしたのと、光の大剣が恐魔獣の体を突き刺したのは同時だった。体を貫かれた恐魔獣は、もともと体の半分ほどを失っていたのもあり、もう微動だにしなかった。そのままどろどろと体が溶けていき、数分も経たないうちにその姿は消えてしまった。


 消えたところを確認しても、小さな欠片さえ見当たらない。今度はスライムみたいな不気味な残骸もないみたいだ。


「アヤ君!」


 振り向けば、リンをはじめここにいる全員が不安げな顔でわたしを見ていた、わたしは満面の笑みを浮かべて、ピースを突き出す。


「完全勝利!!!」


 わっ、と辺りが歓声に包まれた。安堵したようにその場に座り込む人、喜んで互いにハイタッチをする人、泣き始める人。とうとう待ちわびた瞬間を迎えた人々は、それぞれ違った反応を見せていた。


「良かった……」


 ナオもほっとしたように微笑むと、そのまま倒れこんだ。隣にいたセイが慌ててナオを支え、バラバラになっていたわたし達もナオの元に駆け寄る。


「ナオ!?」

「……大丈夫、眠っているだけみたいだ。大技を使って疲れたんだろうね」


 ナオの額に手を当てたリンが、わたし達を見上げて笑う。目を閉じて眠るナオの顔は穏やかだ。ナオ大活躍だったし、今はゆっくり休んでもらおう。


「あ、雲が」


 ふいに、マリーが空を指さした。その指先を追うと、今まで空を覆っていた分厚い雲の切れ間から光が差し込んだところだった。雲はみるみるうちに流れていき、澄みきった日の光が戦いを終えた王都を明るく照らし始める。


「眩しいわね」


 大きな青色の瞳に青空を映して、魔法界の姫はそう微笑んだ。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 熱い……なんて熱い戦いなんだ! みんな、とくにナオちゃん。お疲れさまです。 なんだかんだで彩ちゃんを信頼してるナオちゃんが好きです。
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