第四章 32 決着…?
走って6班の担当場所に戻る。さっきまでは無事だった建物も崩れかけたりしていて、かなりの壊滅状態だ。同じ場所で二体も恐魔獣が暴れていたら、こうなることは仕方ないかもしれないけど。
だんだん6班の人たちの声が近づいてきた。この細い路地を抜ければ、みんなのいる場所に出る。わたしが「お待たせー!」と元気に登場しようとしたその瞬間。
突然飛んできた石像が、わたしの両側の建物に激突した。ちょうど路地を抜けようとしていたわたしの鼻先数センチの距離で、石像は建物に阻まれて止まる。
「たっ、助かった……」
生きた心地がしないまま、わたしは呆然と呟く。あと一歩足を踏み出していたらアウトだった。間違いなくあの石像に押しつぶされていただろう。両側の建物がコイツを止めてくれたのもラッキーだった。
ただ、石像も高さ十メートルはありそうな大きなものなので、特別耐久力が高いわけでもない二階建ての店はミシミシと軋む音を立てていた。さらに、石像が狭い路地の出口を塞いでいて通れそうにない。
向こうからは悲鳴や叫び声が聞こえてくるけど、あまり聞き取れない。邪魔されたけど、今はとにかくここを抜けないと……。
念動力で石像を動かすのもな、と考えながら辺りを見回していると、少し戻ったところに店への裏口があった。すぐに駆け寄ってドアノブを捻る。鍵はかかっていない。入れる。
「お邪魔します!」
わたしは裏口のドアを開けると、そのまま店内に足を踏み入れた。中は雑貨屋のようで、床には壊れた小物なんかが散乱している。
半開きの従業員専用のドアの向こうに階段が見えたので、従業員じゃないけど階段を駆け上った。ベランダに出て何とか屋根の上によじ登る。
滑りそうだし怖いし四つん這いじゃないと進めない。でも、屋根の上だと大分辺りが見やすくなった。
わたしは屋根の上を這って、みんなの様子を見る。
「みんな、大丈夫!?」
屋根から身を乗り出すと、下の様子がよく見えた。ここから少し離れた辺りは、ほとんど更地状態だ。右脚に核がある恐魔獣が狂ったように暴れている。あの暴れ方を見たら、石像が飛んできても無理はないだろう。血を流しながら戦っている人も大勢いる。
すぐに応援に、と飛び降りようとしたとき、ふとわたしの目に留まったのはもう一体の魔獣の方だった。
やけに大人しくしていたもう一体は、静かにその目を紫色に光らせる。あのビーム攻撃だ。向こうで戦っているみんなからは、暴れている方の魔獣が壁になって見えていないだろう。このままだと間違いなく攻撃を食らってしまう。
「させるか!」
わたしは叫ぶと、ポケットの中のあの鉱石を掴んだ。宙に放り投げて、紫の目に向かって叫ぶ。
「『念動力』!」
十個弱の鉱石を、紫の目をめがけて飛ばした。鉱石たちは真っすぐに恐魔獣の目へと向かっていく。十個弱あるうちの二個を両目に命中させればいいだけ。いける。
わたしは恐魔獣をじっと睨んで念じ続ける。その目から光線が放たれる直前、鉱石は見事に両目にはめ込まれるように命中した。紫色の光が、鉱石に封じられてだんだんと鈍くなっていく。
「よし!」
ギリギリ成功した。喜びのガッツポーズだ。
目をやられて苦しむ魔獣に気づいたのだろう。不思議そうにきょろきょろしていたセイが、あっとわたしを見つけて指を指してきた。
「彩先輩!」
「お待たせ! 任せられてた3班の人は治癒してきましたよ。多分もうそろそろ――」
わたしがそう話していると、辺りが一瞬緑色の光に照らされた。満身創痍の3班の人が、その光に気づいて顔を輝かせる。
「本当だ……! 全員喜べ! 拘束魔法が来る!!」
彼が安堵と喜びの混じった声を上げたちょうどその直後、さっきよりも強い緑色の光が恐魔獣二体に直撃した。あまりの眩しさに、思わず目を瞑る。
さっきまでの混乱が嘘のような、静寂が訪れた。
ゆっくりと目を開けると、まるで時間を止められたかのように恐魔獣たちが固まっていた。脚を振り上げたり口を大きく開けたりしていて、今すぐに動き出してもおかしくない。でも、その体はうっすらと緑の光に覆われていた。
「……これが、拘束魔法……?」
ナオが呆然として呟く。3班の女の人は「ええ!」と大きく頷くと、周りの人たちを見回した。
「長くは持たない。今この瞬間に核を壊してしまいましょう!」
「おう!」「はい!」とそれぞれの返事が重なる。わたしも屋根から飛び降りると、ナオたちの元へ駆け寄った。
魔法使い組は何か計画していたらしく、フォーメーションを組んで詠唱の準備をしている。わたし達は特に何も指定されていないから、好きに攻撃させてもらうことにしよう。
「全員、俺の声に合わせて攻撃しろ! せーの!!!」
班長の振り絞るような号令に、班員たちの詠唱が重なる。わたしもそれに合わせて『風魔』を使った。ナオもセイもユーリも、今の自分の最大火力の攻撃を繰り出す。
大規模の魔法が炸裂し、辺りがまた白く眩んだ。砂埃が視界を遮って、何も見えなくなる。
でも、結果は見るまでもなくすぐにわかった。まだ何となくしかわからないけど、魔力の流れっていうんだろうか。そういうのが確実に変わった気がする。間違いない。
確信を抱いて、わたしは『風魔』で砂埃を払う。わたし達の目の前にあったのは、スライムのような震える二つの物体だけだった。
「やった……」
思わず呟いていた。すぐにセイが飛びついてきて、わたしの両肩に手を載せてぴょんぴょん飛び跳ねる。
「やった! やりましたね彩先輩ーっ!」
「うん……。うわー、わたし達倒せたんだー……」
喜ぶ、というよりは安堵の思いでわたしは呟く。ナオも「良かったわね」とわたし達の方へ一歩歩み寄った。
「は~~~~~~~~っ」
班長が大きくため息を吐き出しながら、地面に座り込んだ。耳に手を当てて、わたし達を見回す。
「どうやら俺たちが最後のようだぞ。他の班も、みんな核を壊せたらしい」
「えっ、すごいわね。私達でもかなり良い戦いをした方だと思ってたんだけど」
「こっちは二体相手にしてたからな。でも、これで全部倒し終えたってことだ」
ユーリは大きく伸びをすると、辺りを見回した。壊れていない建物なんてないくらいの壊滅状態だけど、ここで恐魔獣が闊歩することはない。静かな王都が戻ってきた。
「まだ何となく信じられないよな。まさかこんなに決定的な弱点があったなんて」
「それがわかってなかったら今回勝てなかったもん。そういう記録はちゃんと残しておいてほしいよねー」
わたしも相槌を打って王都を見回す。他の班員たちもほっとしたように、座り込んでは互いに会話している。
良かった、とわたしがもう一度呟いた時。
わたし達の背後で、ぐちゃりと何かが蠢く音がした。




