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空と妖精のコピオーネ (旧:妖精の戯曲、蒼穹の誓い)  作者: 天音色
第四章 過去を乗り越える物語
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第四章 29 恐魔獣討伐作戦

 それから、ユーリによる魔力探知講座が始まった。講座というか、あくまで質問コーナーみたいな感じ。とりあえずユーリが掴んだ感覚を伝えたりして、他の人たちにも核がわかるようにしてもらった。


 全員が全員出来るようにならなくても、一部が核の場所を掴んで周りに伝えればいいだけなので、ある一定の人数が出来るようになったところで講座は終わった。何しろ、そんなに時間が残っていない。

 でも、やっぱり流石というべきか、エドワルドさんたち優秀な魔法使いはすぐに習得していた。すごい。ユーリもびっくりしてた。



 ということで、いざ決戦の時だ。


 当日、わたし達は城の兵士たちや魔法使いたちに混じって、城下町へ繋がる門の前に立っていた。部外者が参加できるのはわりと特例らしい。まあ、王様に直接啖呵を切っちゃったわけだし、ここで退けないもんね。


「えーっと、みんな。こちらを向いて」

 

 集合から少し経ったとき、聞き覚えのある声が聞こえてきた。マリーの声だ。周りにわたしより背が高い人が多いからマリーの姿は見えないけど、声だけで少し安心する。


「とうとうこの日がやってきたわね。恐魔獣が現れてから今日まで、辛い思いをした人は多くいると思う。その悲しさや怒りを力に変えて、今日、魔法界に平穏を取り戻しましょう! 私も魔法界の未来に命を賭ける覚悟で挑みます!」


 マリーの力強い言葉に、周りの人たちが一斉に「うおおお!」と拳を突き上げる。わたしもその真似をしながら、人ごみの向こうにいるマリーに思いを馳せた。


 準備期間、マリーはずっと城中を走り回っていろんな人に声をかけていた。わたし達が講座を開きたいと言った時も、一番に動いてくれたのはマリーだ。お姫様であるマリーが率先して動いてくれることで、作戦参加者の士気も上がったような気がする。「命を賭けます」も本気で言ってそうだからちょっと心配だ。


 マリーの挨拶の後、わたし達はすぐに班に分かれて移動を始めた。


「アヤ君!」


 集合場所に向かおうとしたところで、リンに呼び止められた。リンはふよふよと飛んできて、わたしの頭に手を載せる。


「みんなを頼んだよ。君も無理しちゃだめだからね」

「わかってる。リンも気をつけてね。何かあったらテレパシー飛ばしてきてよ。反応できるかはわかんないけどさ」


 実は、リンだけわたし達と班が違う。六つある班のうち、リンは最高戦力の1班、リンを除いたわたし達は6班だ。待機場所も違うし、多分リンとは作戦終了まで会えない。


 リンはわたし達の中でもトップレベルで冷静だし、無茶なことはしないだろうってわかってはいるけど、それでも心配だ。……いや、リンの方が心配してるだろうな。わたしとユーリなんて治癒がなければすぐ死ぬし。


 リンは「うん」と目を細めて笑うと、小さな手でわたしの頭を軽くたたいた。それから、ふわりと飛び上がる。


「それじゃ、行ってくるよ。お互い頑張ろう」

「ん、がんばろ」


 わたしも拳を突き出すと、6班の集合場所へ向かった。


 集合場所には、既に愉快な仲間たちが勢ぞろいしていた。セイと話をしていたナオが、わたしに気づいて「遅い」と腰に手を当てる。


「あんたが最後。どこで油売ってたのよ」

「リンと別れの挨拶してきたんだよ。みんなのこと頼まれてきた」

「リン一人だけ別班ですもんね。作戦、上手くいくといいですけど」


 セイが眉を下げて言った。


 大まかな作戦はこうだ。


 まず、マリーが恵みの魔法を使って城下町の魔力の流れを安定させる。恵みの魔法が使えないと魔法使いたちが全く動けないから、この作戦の柱はマリーだ。


 そして、城下町の各地に散らばった班員たちがそれぞれ恐魔獣を迎え撃つ。各班に核を見抜ける人は最低二人はいるから、そこで核を見抜いて攻撃する。マリーが恵みの魔法を使い続けてくれる限り、魔法使いたちもちゃんと攻撃できる。


 城下町にいる恐魔獣は全部で五体。五体を六班で倒す、結構ギリギリな作戦内容になっている。


「とにかく核を撃って撃って撃ちまくればいいんですよね」


 エドワルドさんに修理・強化してもらった魔法銃を手にしたセイが言う。核を見つけた時のために、インク付きの弾を撃てる特別仕様だ。


「そ。恐魔獣が形を保てなくなるまでひたすら攻撃。まあ、わたしの一番の懸念は攻撃の回避なんだけどね。わたしの治癒は期待しないで、みんな気をつけて」

「でも、変な話よね」


 ナオが顎に指をあてて首を傾げた。


「『恐魔獣には核がある』なんて重要な情報、どうして伝わらなかったのかしら。絶対有益な情報なのに」

 

 それは、わたしも何度か思った。何なら話を聞いた人たちはみんなそのことについて疑問を持っているんじゃないかと思う。千年も時間が経ってしまえば、そういうこともあるんだろうけど。


 わたし達が話をしていると、「余裕そうだな」と班長がやってきた。エドワルドさんの三番弟子だという彼は、かなり顔が引き攣っている。昨日の激励会では「任せてくださいよ!」と乗り気だったのに。


「怖くないのか?」

「そりゃ怖いですけど、ここまでしっかり準備したなら後はやるだけって感じです。一回目は何の前触れもなしにコテンパンにやられたので、それに比べたら理不尽感も少ないし」


 しっかり対策を練ってきた分、怖いというよりはリベンジマッチという気持ちが強い。この作戦に成功しないと、魔法界の協力は得られないわけだし。


 わたしがそう答えると、班長は「そうか……」と頷いた。


 その時、わたし達を取り巻く空気が変わったような気がした。軽くなった、って表現したらいいのかな。とにかく、今まで重く纏わりつくようだった不快感が一瞬で消えた。


 ユーリが空を仰いで呟く。


「恵みの魔法……」


 わたしは城の方を見た。6班の持ち場は城からかなり離れたところにあるから、わたしの視力じゃほとんど見えない。でも、今ちょうど、城のバルコニーでマリーが恵みの魔法を使い始めたところだろう。


 魔法に疎いわたしでも、空気が一気に変わったのを感じとれる。ジェニやユーリが、恵みの魔法が途絶えて落ち込んでいた理由もわかる気がする。恵みの魔法がこんなにすごいなんて、思いもしなかった。


 と、不意に地面が揺れた。一瞬ふらついた後、「班長」と声をかける。


「これって……」

「ああ。来たかもしれない」


 班長は固い顔で正面の路地を見つめる。他の班員も、その視線を追って身構えた。


 ドォン、と音がして、すぐ近くにあった建物が崩れた。その向こうから重い足音を響かせて恐魔獣がやってくる。


「全員、覚悟を決めろぉ!」


 班長が少し裏返った声で叫び、先頭に立った。こういう時に何だかんだ前に立ってくれるから、この人が班長に選ばれたんだろうなと思う。


「みんな!」


 わたしはみんなを振り返った。お互いに顔を見合わせて、頷き合う。

 大丈夫。力を合わせれば、どうにかなる。


「それじゃ行こう!」


 リベンジマッチの開幕だ。




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