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空と妖精のコピオーネ (旧:妖精の戯曲、蒼穹の誓い)  作者: 天音色
第四章 過去を乗り越える物語
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第四章 28 恐魔獣の弱点

 それから五日後、わたし達は会議室に呼び出された。会議室には大きな机と椅子が並んでいて、いかにもって雰囲気だ。ここで偉い人たちが話し合ったりするんだろうなあ。


 少し気後れしながら扉の前で立っていると、学者たちと話をしていたリンがわたし達に気づいた。微笑んで「入りなよ」と手招きしてくる。四つ並んで空いていた椅子に座った。


 会議室にいるのは、マリー、ノーランさん、エドワルドさん、その他知らない人たちが二十人弱。まだいくつか椅子は空いていたけど、呼び出したのはわたし達で最後だったらしい。中央の人――髭が長いから便宜上ヒゲと呼ぼう――が部屋を見回した。


「えー、それでは、過去の文献からわかったことを発表します。新たにわかったことは一つだけです。が、これが非常に重要なことだと考えられますので、きちんと聞いてください」


 ヒゲは一つ咳ばらいをすると、緊張した面持ちで口を開いた。


「恐魔獣には、核と呼ばれるものが存在することがわかりました。これから詳しいことを説明します」


 ヒゲが指示棒を掴み、その先で真っ白な壁を叩く。すると、まるでプロジェクターで映し出したかのように絵が壁に浮かび上がった。恐魔獣の絵だ。


「ご存じのように、恐魔獣は魔力で構成された怪物です。動物が魔力の影響を受けて狂暴化する通常の魔獣とは異なり、体全体が魔力で構成されています。なので、奴らの体内では絶えず魔力が流動しています」


 指示棒が、恐魔獣をぐるりと丸で囲んだ。それから、体の中心にある立方体を指し示す。


「しかし、魔力が完全に体内を巡っているわけではありません。どうやら、必ずどこかで魔力が滞っているようなのです。その滞っている部分、魔力が特に凝縮されている部分を核と呼びます。そして、この核を直接攻撃すると、恐魔獣は形を保てなくなり、溶けます」


 指示棒の先で立方体を鋭く突くと、恐魔獣の絵がどろりと溶けた。溶けかけのアイスみたいな感じだ。マリーが身を乗り出して尋ねる。


「溶ける? 溶けるとどうなるの?」

「文献によると、ほとんどの攻撃をしなくなるそうです。そこからはただ恐魔獣が消滅するまで攻撃すればよい、と」

「ここに来て決定的な弱点来たなあ」


 早い話、兎にも角にも核を潰せってことだ。ぼんやりと呟くわたしの右隣で、ナオが目を鋭くする。


「でも、そんなに簡単な話なら、ここまで苦労しないはずよね」

「その通りです」


 どうやら聞こえていたらしい。ヒゲがこちらを向いて、大きく頷いた。


「恐魔獣の核は、捉えることが非常に困難なようです。魔力が凝縮されている部分を察知しなければならないようなのですが、それがどうにも……。さらに、威力にもよりますが、基本的に一度魔法を命中させた程度では破壊できないとも書かれていました」


 まあ、そう簡単にもいかないだろう。わたしは左隣のユーリを覗き込んだ。


「魔力が凝縮されている部分、だって。どう? ユーリの魔力探知でわかった?」

「……出くわした時に気づかなかったってことは、まあわからなかったってことだろうな」

「なるほどね。後でもう一回外に行って確かめてみよう」

「え、嫌だ」


 とはいっても、こっちサイドで魔力探知が出来るのはユーリしかいないわけだから、必然的に頑張ってもらうことになる。申し訳ないけど働いてもらわなきゃ。


「ひとまず、核を破壊するのが恐魔獣討伐の鍵だということがわかりました。核を見つける方法はこれから見つけていきましょう。何か知っていることや思いついたことがあれば僕たちに声をかけてください。質問も遠慮なくお申し付けくださいね」


 そんな感じで、今回は解散になった。わたし達はすぐに席を離れて、会議室を出る。リンはまだヒゲたちと話があるみたいだったから、とりあえずわたし達四人だけだ。


「おい、今からどこへ行くつもりなんだよ」


 城の廊下を駆け足で進んでいると、ユーリが聞いてきた。


「もちろん、外へ出て魔獣を見に行く。暇してる間に外を散歩して、ちょっといい場所見つけたんだよ。城から近いところにあるから安心して」

「なんでそんな危ないことしてるのよ。ま、今回に限っては褒めるけど」

「ありがとう。そう言ってもらえると危険を冒した甲斐があったね」

「それより拒否権ないの? すっげぇ行きたくないんだけど」


 あるわけがない。


 そうしてわたし達は城を出て、城下町に下りた。最近の散歩でわたしが見つけたのは、城から歩いて十分ほどのところにある建物だった。やたら目立つ四階建ての店。そこの店主から鍵を借りてきたので、今は自由に出入りできる。


 何より店に小さな展望台があって、遠くまで見渡せるところがいい。


 わたしは店のドアを開けて中にみんなを入れると、四階まで登った。多分、城よりはこっちの方が恐魔獣もよく見えることだろう。わたしはユーリに双眼鏡を手渡して尋ねる。


「どう? わかる?」

「んー…………?」


 ユーリは唸りながら、ずっと双眼鏡を目元に押し付けている。ナオが「もう一つない?」と手を出してきたので、棚からもう一つ出して渡す。ナオもわたしの隣で双眼鏡を覗き込んだ。


「魔力探知、コツはないの?」

「コツっていうか、慣れるしかない。でも、今回は別に恐魔獣の魔力を辿るわけじゃないし、魔力の強い部分を見つければいいんだろ? 魔力の判別の必要がないから、魔力探知よりは簡単なような……駄目だ、全然わかんねぇ」


 ユーリは諦めたように双眼鏡を下ろした。その場に足を投げ出して座り込んで、疲れたようにため息を吐く。


「大体あたしも得意なわけじゃないんだよ。たまたまお姫様の時は上手く行っただけで。セイもやってみろ」

「あたしもですか? 出来るかなぁ」


 どこかワクワクしているような口調で、セイは棚から双眼鏡を持ってきた。ユーリもまた双眼鏡で外を見始める。わたしはそもそも魔法やら魔力やらの概念がわからないので、応援係だ。


 一時間ほど経った頃だろうか。「あ」とユーリが呟いた。


「見えた」

「見えた? どんな感じ?」

「あー……なんだろ……。なんていうか、淀んでる感じ」


 ユーリは双眼鏡を下ろすと、その場にごろんと寝ころんだ。目を閉じたまま話す。


「多分これ、魔力探知がそこまで出来なくてもわかるタイプのやつだな。二人も少しやればわかるよ」

「ってことは、ユーリだけに頼らなくてもいいってことか。それならエドワルドさんたちに教えられる?」

「教えられるかはわからないけど、逆に魔法使える人の方がわかりやすいかもしれないな。セイ、何かわからないことがあったらすぐに聞け」


 私は無視なの、とナオが不機嫌そうに呟いた。

 

 今、城にはエドワルドさんのような優秀な魔法使いが集まっている。多分その人たちならわかるだろう。そして、その人たちがわかるようになれば、魔獣討伐はかなり楽になるはず。


 そういえば、ジェニも今の魔法界は魔力が淀んでいるとか話してたような。ジェニだったら核も簡単に見つけられるのかな。まあ、ジェニの存在をバラしたら迷惑をかけちゃうから、そんなことは頼めないんだけど。


 結局、日が暮れるまでには二人とも見つけられなかった。ただ、セイの感覚だと「あと少しって感じです」とのことなので、見つけるまで時間はかからないだろう。


「んーっ、疲れましたね。あたしたちは純粋な魔法使いじゃないし、余計に難しかったりするんでしょうか」

「そこまで関係しないんじゃないか? あたしだって魔法の才能は人並み以下だったし」

「大変って言われる魔力探知が出来るなら、人並み以下じゃないんじゃないの?」

「言ったろ、一回死にかけたから出来るようになったって」


 時刻は夕暮れ時だけど、分厚い雲に覆われた空は一切の変化を見せない。茜色に染まる空がこの時間帯の魅力だって言うのに。


「アンタに魔力探知教えた人、どんな人だったの?」


 独り言のようなナオの呟きに、ユーリが振り向いた。思案するように視線を斜め上に向けてから、ふっと笑う。


「お前らと同じ。秘密、だよ」


 

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