表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空と妖精のコピオーネ (旧:妖精の戯曲、蒼穹の誓い)  作者: 天音色
第四章 過去を乗り越える物語
130/163

第四章 26 秘密の約束



 では、ありがとうございましたということでわたし達がジェニの元を去ろうとすると、思い出したようにジェニが声をかけてきた。


「そういえば、恐魔獣に対して具体的な策がないんだったな? マリーから聞いたぞ」

「あー……そうなんだよ。ジェニは何か知ってたりする?」


 わたしが振り向いて聞くと、ジェニは眉間に皺を寄せて考え込んだ。


「私の記憶が確かなら……恐魔獣について研究された書物が、城にあったはずだ。そこにいろいろ書かれていたような気がするが……。すまない、昔のことだから記憶がはっきりしない。ただ言わないよりは良いだろうと思ってな」


 ジェニが小さく首を振る。ジェニはそう言っているけど、小さな情報でも喉から手が出るほど欲しい状況だ。ありがたい。


「じゃあ、城に帰ったら探してみよっか。どんな風なタイトルだったか覚えてない? 形とか大きさとか」

「魔獣とか恐魔獣とか書いてある、わかりやすい表題だったような気はするよ。ただ、多分これを読んだのは大人になってからだから、あまり覚えていないんだろうな」

「え、大人になってからのことは覚えてなくて、子供の頃のことは覚えてるの? 普通逆じゃない?」


 ジェニが何歳まで生きたのか知らないんだけど、普通は死ぬ時期に近い方が覚えてるものじゃないんだろうか。ひどいボケ方してたとか?


 わたしの失礼な思考を読み取ったのか、ジェニはすぐに答える。


「私が残留思念だという話はしたか? もっと詳しく言うと、私は17歳の頃の残留思念なんだ。その頃に……何というか、大きな心残りがあって。死んでからも残っていた心残りが、今こうして魔法界の片隅に留まっている。だから、記憶がはっきりしているのは17歳辺りなんだ。大人になってからのことはあまり覚えていない」


 なるほど。そういうことだったのか。ってことは、何だかんだわたしとジェニは同年代なんだね。より親しみやすくなってきた。


 わたしは「ありがとう」と伝えると、マリーを振り返った。


「じゃあ、城に帰って探してみよっか。リンも誘って……って、リンは忙しいか。暇そうなセイとユーリに……」

「待て」


 突然、ジェニがわたしの話を遮った。ジェニは青色の瞳を見開いて、「それは誰だ?」と聞いてくる。ああ、そういえばジェニはユーリのこと知らないんだっけ。


「ジェニに会った後に、獣人界で知り合ったのよ。魔女に魔力を奪われて、魔法が使えない魔法使い。今度連れてきましょうか?」

「……いや、いい。伝え忘れていたことがあるんだが」


 ジェニは小さく首を振ると、人差し指を立てた。


「私に会ったことは、誰にも言わないでほしい。城の人はもちろん、その新しく増えたお仲間にも、だ」

「えっ、なんで!?」

「さっき言ったように、私は残留思念――心残りなんだ。実のところ、自分でもどんな条件で消えてしまうのかわかっていない。出来るなら危険を避けたいと思ってな」

「ああ……」


 そっか、今のジェニって、いつ消えるかわからない不安定な存在なんだ。納得して、わたしは頷く。

 

「わかったよ。ナイショにしておく」

「ありがとう。助かるよ。これで、私から話すことはもうないな」


 ジェニは腕を伸ばして伸びをする。ナオが「私たちもお暇しましょうか」とわたしの顔を覗き込んだ。


「そうだね。ジェニ、恵みの魔法も魔獣の情報もありがとう。本当に助かったよ」

「ジェニ様の愛した魔法界は、私たちの手で救ってみせます!」


 マリーも意気込んでそう言う。ジェニは「頼もしいな」とくすぐったそうに笑う。

 それから人差し指を軽く唇に当て、片目を閉じてウィンクした。


「くれぐれも、私のことは秘密にしておいてくれよ?」



************************



「話が違うだろ」


 話を聞き終えたユーリが、顔いっぱいに「不機嫌です」と表明しながらそう呟いた。


「帰ってきたら、相手が誰なのか教えてくれる約束だった。そうだったよな」

「あはは……そうだったかも?」


 わたしは乾いた声で笑って誤魔化そうとする。リンが助け舟を出すように口を開く。


「仕方ないじゃないか。マリー姫が恵みの魔法を覚えて帰ってこられたんだから、これ以上のことはない。むしろ感謝すべきだよ」

「そうよ。約束を守れなかったことは謝るけど、何をそんなに執着してるの? 普段何でもどうでもよさそうにしてるくせに。あ、相手は魔女じゃないわよ」

「んなこと、わざわざ言われなくてもわかってるよ」


 ユーリが吐き捨てるように答える。セイがわたしに「あの二人仲悪いんですか?」と耳打ちしてきた。まあ、仲がいいことはないだろう。


 そうしている間にも、ナオがユーリを見て妖しく目を光らせた。


「それじゃ、何か心当たりがありそうね? 向こうはアンタに知られたくなさそうだったけど」

「…………」


 ユーリが黙り込んで、軽くナオを睨んだ。なんか、二人の間に火花が見える。セイが二人の間に顔を突っ込んで、「ストップです」と両腕を広げた。


「なんでそんな険悪なんですか。もっと穏やかに行きましょうよ。今のあたしたちの敵は魔獣なんですから。それ倒し終わったら、バチバチしてもいいですけど」

「駄目だよ。なるべく穏便に頼むよ」

「じゃあお互い距離を取るなりして穏便に済ませてください。あたしたちが疲れます」


 最年少に注意されたのが効いたのか。二人は息を吐きだすと、臨戦態勢を解いた。ユーリがわたしの方を向いて、小さく頭を下げる。


「ごめん。危険を冒して出向いてくれたのに、突っかかったりして。ちょっと冷静さを欠いてた」

「本当にね」

「あ?」

「ナオ、マジで煽らないで」


 ナオの小さな呟きも聞き逃さず、ユーリが殺意の目をナオに向ける。ここまでこの二人が露骨にバチバチしてるのも珍しい。相性があるから、仲良くしてほしいとは思わないけどさ。


「で、マリー姫は今どこにいるんだい?」

「王様たちに報告に行ってくれてるよ。それと、城に魔獣についての書物があるって話を聞いたから、それを探すのもお願いしてる」

「あたしたちは行かなくていいんですか?」

「一応私たちは部外者だから。あまり城内をうろつくと、良い顔はされないわよ」


 ナオがソファに腰を下ろす。つまり、今のわたし達に出来るのはマリーが帰ってくるのを待つことだけだ。


 各自時間を持て余してしりとりでも始めようかとしていたその時、部屋の扉が開いた。


「お待たせ。あら、暇そうね」


 部屋に入ってきたのは、もちろんマリーだ。マリーはソファでダラダラしているわたし達を見ると、おかしそうにくすりと笑う。


「おかえり。暇ですいません」

「気にしないで。私、部屋でじっとしているより動いている方が性格に合ってるの」


 すごい。わたしは部屋でじっとしている方が性に合ってる。最近はあんまりのんびりできてないけど。


「どうでしたか? 資料は見つかりましたか?」

「うーん……。それが、微妙なところなの」


 セイがソファに詰めてスペースを開け、マリーがそこに座った。働き者のお姫様は、困ったようにため息を吐く。


「彩たちが来る前から、何度も探したんですって。既にいくつか魔獣に関する資料が見つかっているの。ただ、そのどれもが特にパッとしない内容で……。私も目を通させてもらったんだけれど、これといって目新しいものはなかったし、あの方が仰っていたものなのかもわからないの」


 確かに。魔獣が出現してから、城の人たちが調べていないはずがないんだ。それに、わたし達が王様たちから貰った情報だって、そういった資料から得たものだと思うし。何よりマリーの言う通り、ジェニが話していたものかどうかジャッジできない。


「内容もほとんど聞けなかったし、特定が難しいわよね。あの人が言うんだから、きっと重要な情報があるんだろうけど」

「あの方だのあの人だのまどろっこしいな」


 ユーリがぼやく。気を抜いたらジェニってぽろっと言っちゃいそうだから、気を引き締めないと。


 うーん、と考え込むわたし達の中で、一人がその小さな手を上げた。


「この城には、もうなさそうなんだよね?」


 リンがマリーに尋ねる。マリーは少し唸ったのち、諦めたように頷く。


「ええ。一応、まだ探させている途中だけど……」

「見つかるか可能性は低い、と。それなら別の場所を当たってみようか」

「別の場所って、どこですか?」


 セイがきょとんとする。リンは眼鏡の位置を直すと、不敵に笑った。


「もちろん、我らが妖精図書館だよ」


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ