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空と妖精のコピオーネ (旧:妖精の戯曲、蒼穹の誓い)  作者: 天音色
第四章 過去を乗り越える物語
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第四章 25 恵みの魔法の継承

 翌日の朝いちばんに、わたしとナオ、マリーの三人で城を出発した。どうしてこの三人なのかというと、理由はいたって単純、リンにそうするよう言われたからだ。

 どうやら兵士たちに頼まれて、負傷者たちの治癒をすることになったらしい。その手伝いにセイとユーリがほしいということだった。


『アヤ君の幻惑があれば、大抵のことは切り抜けられるだろう。今回は戦う必要はないし、何かあればすぐに逃げればいい。逃げるには人数が少ない方がいいだろうしね』


「とは言ってたけど……」


 わたしは足元に気をつけながら、ため息を吐いた。


「不安は不安だよね。だってお姫様の護衛がわたしとナオとか不安要素しかなくない?」

「そうね。もしマリーに何かあったら、私たち多分無事じゃ済まないから。……よく考えてみると、私たちかなり危ない綱渡りしてる?」

「そんな、考え過ぎよ」


 マリーが両手を振って、困ったように笑う。


「でも、よく許可が下りたわよね。まだ戻ってきて一日も経ってないのに。王様、相当マリーのこと大切にしてるでしょ?」

「そうね。お父様はかなり口うるさくて……。でも、魔法界が大変な時にじっとしているなんて考えられないから、認めてくれないのならお父様とは二度と口を利かないって言ったの」

「やるな、マリー」


 そんなこと言われたら、王様も認めるしかないのだろう。強すぎる、娘特権の切り札だ。


「ジェニ姫がまだいらっしゃることが知られたらまずいんでしょう? だから護衛もつけないでって言ったのよ。お父様は何か言いたそうだったけれど、これを付けることを条件に認めてくれたわ」


 マリーは得意げに笑って、ぱっと右手を広げた。その薬指には金色の細い指輪が嵌っている。


「指輪?」

「そう。これを付けていることで、いつでも私の居場所がわかるんですって。これだけ魔力が満ちている中で、本当に効果があるのかはわからないけど……」


 ナオが隣で小さく頭を振っている。魔法も使えないのに、そんな小道具使えるはずがないだろと言いたげだ。正直わたしもその通りだと思う。


 前方に魔獣の姿が見えた。「『念動力』」と唱えて、ピッと横に人差し指を動かす。魔獣のすぐ隣の瓦礫が浮き上がり、近くの壁に勢いよくぶつかった。それにつられて、魔獣が動き出す。

 

「まあ、ジェニのいる崖は王都の関所の内側だし。ちゃっちゃと済ませて帰ってこようか」


 そう二人に声をかけて、魔獣が去って空いた道へと歩みを進めた。



 崖へ着いたのは、翌日の明け方だった。王都周辺の地図が頭にインプットされていたマリーのおかげで、想定よりもかなり早く到着した。


 枝があちこちに刺さりながらも、どうにか茂みを脱出したわたしは、リンに借りた時計を見る。


「もう朝か……。長い一日だったなあ」

「そうね。でも、これでジェニに会える」


 同じように先に脱出していたナオが、マリーに手を貸す。マリーはワンピースを葉っぱだらけにしながらも、目をキラキラと輝かせていた。


「ジェニ様にお会いできるなんて……! 夢みたいだわ」

「そういえば、私達もジェニのことをお姫様だったって知ってから会うのは初めてね。やっぱり敬った方がいいと思う?」

「向こうから明かしてこなかったってことは、向こうも別にお姫様扱いしてほしくないってことだよ。難しいことは考えないでいこう」


 オーガもマリーもジェニも、よくよく考えたら王族にタメ口ばっか利いてる気がする。みんな良い人たちでよかった。


 わたしはマリーに向かって頷くと、メガホンのように口元に手を添えた。王都を出たから、それなりに声を出しても魔獣の心配はない、はず。

 息を吸って、呼びかける。


「おーい、ジェニ! 彩でーす!」


 ざわり、と木々が揺らいだ。ひやりと冷たい風が辺りを駆け抜ける。マリーの髪が風になびいた。


「――気配を感じるとは思っていたんだが」


 ふいに、声が降ってきた。すぐ近くの木の枝に腰掛けたジェニが、腕を組みながらこちらを見下ろしている。


「目に見えないから勘違いかと思ったよ。もうそろそろ姿を見せてくれてもいいんじゃないか?」

「ごめんごめん。一応、魔獣の警戒のためにね」


 わたしは謝ると、すぐに幻惑を解いた。ジェニはわたし達を捉えると、「やっぱりそこにいたか」とニンマリ笑う。気配だけでわたし達の居所まで捉えるのは、やっぱりただものじゃない。


「久しぶりね、ジェニ」

「久しぶり。また会えて嬉しいよ。それと」


 ナオに挨拶をしてから、ジェニは木から飛び降りた。マリーと向かい合い、どこか照れくさそうに笑う。


「初めまして。私の子孫……で合っているかな」

「はい。今の魔法界の姫です。ジェニ様、お会いできるとは思っていませんでした。光栄です」

「あはは、まさか千年前の姫が幽霊になって出ているとは思いもしないだろう。私も子孫の顔を見られるとは思っていなかったから、嬉しく思うよ。顔がここまで似ているとは思っていなかったが」


 ジェニの言う通り、マリーとジェニは瓜二つだった。髪の長さや服装は違うけど、顔立ちだけ見ればまるで鏡映しにしたかのように似ている。


「それで、今日はどんな用件で来たんだ? 私に出来ることならなんでもするよ」


 ジェニは軽く胸に手を当てる。頼もしい言葉だ。わたしはマリーをずいと前に押し出した。


「マリーに『恵みの魔法』を授けてほしいんだ。魔法界のこの現状を打開するためにも」

「…………やっぱり、伝わっていないのか?」


 わたしのお願いに、ジェニの表情が曇った。

 ユーリの話だと、確かこの魔法はジェニが使い始めた魔法だったはず。その魔法が受け継がれずに途絶えてしまったというのは、ショックな話かもしれない。


「はい。伝わっていません」

「はあ……そうか。もちろん、今から使い方を教えよう。一度途絶えた魔法を復活させられるというのは、なかなか出来る経験じゃないからな。魔法界の姫なら出来るはずだ」


 ジェニは元気づけるようにマリーの肩を叩いた。いや、幽霊だからその手は思いっきり肩をすり抜けていたんだけども。


「そんなに時間はかからないとは思うが、その間二人は休んでいていいぞ」


 そう言われ、わたしは思わず両手を突き上げた。

 昨日の朝から歩き詰め、さらに魔獣に警戒して常に気を張ってて、幻惑も使い続けていた。わたしが寝たら幻惑も解けちゃうから、眠ることも出来なかったし。


 ジェニが座っていた木にもたれかかるように座り込み、隣を叩く。


「ナオ、ちょっと座って。肩貸して。今から寝るから。子守歌歌ってくれてもいいよ。あ、ナオの足も疲れてるだろうから、ひざまくらは遠慮しておくね」

「別に誰も膝枕するなんて言ってないでしょ、気持ち悪い」


 何だかんだ言いつつ、ナオは隣に座ってくれた。その肩に頭を乗せながら、目を閉じる。自分で思っていたよりも随分疲れていたらしい。目を閉じるとすぐに眠りに落ちた。



 彩、と名前を呼ばれる声で、わたしは目を覚ました。目をこすりながらナオに尋ねる。


「何、どーした……?」

「私! 教えてもらったの! 恵みの魔法!」


 答えたのは、ナオではなくマリーだった。相当嬉しいのだろう。マリーはわたしの肩を掴んで揺さぶってくる。寝起きの頭には堪えるやつだ。


「脳が揺れる……。ホントに? まだ昼すぎだよ」

「本当に決まってるでしょう。魔法の使い方を教えてもらっただけだもの」


 マリーが小さく頬を膨らませる。子供っぽい仕草だ。ズボンについた土を払って立ち上がった。


「教えてもらっただけで、出来るの?」

「恵みの魔法は、素質があれば簡単に使える魔法だからな。素質が王族の限られた人だから複雑に思われているのかもしれないが」

 

 ジェニは腰に手を当て、どこか満足げに答える。マリーもウキウキでわたしに話してきた。


「恵みの魔法って、私の魔力を放出して魔力の入れ替えをする魔法なんですって。この魔法を使えば、今の魔力が過剰な状態もどうにか出来るはずよ!」

「魔力の入れ替えって、そんなこと出来るの?」

「ああ。そのままにしておくと、今のようにどうしても魔力の淀みが気になってくる。それを綺麗にするための恵みの魔法だ」


 ……魔力の淀みってなんだ。今、相当魔力淀んでるってことなのか? わからない……。とりあえず頷いておこう。


 わたしが「なるほど」と頷くと、ジェニが姿勢を正した。


「彩、ナオ、マリー。感謝する」


 突然感謝された意味がわからず、わたしは首を傾げる。


「お礼を言うのはわたし達の方なんだけど」

「今の魔法界は恐魔獣のおかげで見るも無残な状態になっている。せっかく私も現世に留まっているのだから、どうにかしてこの状況を打開したいと考えていたんだが……。何しろここを離れることが出来ないし、残留思念だから恵みの魔法もロクに使えはしない。毎日どうすればいいのか考えて暮らしていたんだ。こうして魔法界に貢献できることを、とても嬉しく思う」


 そう言ったジェニは、優しく微笑んでいた。わたしは「どういたしまして」と答えた。


「私に協力できることがあれば、何でも言ってくれ。喜んで力になろう」


 千年前のお姫様の言葉は、半透明の癖に頼もしかった。

 


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