表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空と妖精のコピオーネ (旧:妖精の戯曲、蒼穹の誓い)  作者: 天音色
第四章 過去を乗り越える物語
127/163

第四章 23 マリー姫の帰還

 マリーが記憶を取り戻したことで、異空間のバランスが崩れてしまったらしい。リンの誘導に従ってついていくと、簡単に異空間から脱出することが出来た。


「…………」


 変わり果てた城下町を見回して、マリーが唇を噛む。まるで目に焼き付けるように、城下町の惨状を見つめている。その横顔には、悔しさが滲んでいた。


 やがてマリーがこちらを振り返り、「戻りましょう」と言った。



「マリー様!」


 城に入った途端に、誰かが叫んだ。その声につられて、「マリー様……?」とざわめきが波のように広がっていく。


「マリー様、ご無事だったのか?」

「まさかこんなにひょっこり帰ってくるなんて」

「周りの子供らは誰だ? 見たことない顔だよな?」


 ざわめきだす民衆たちを見回して、マリーは首を傾げた。


「こんなにたくさんの人が、城に?」

「城下町があんな状態じゃ、どうしようもないでしょう。王様が機転を利かせてくださったのよ」

「お父様が……」


 ナオの返事に、マリーが少し嬉しそうな笑みをこぼした。それから、民衆に向かって恭しく礼をする。


「心配をかけてしまって、ごめんなさい。でも、私は大丈夫。この者たちのおかげで、御覧の通り傷一つないわ。もう皆に迷惑をかけるようなことはしない。ともに、この苦難を乗り越えましょう」


 マリーは胸を張って呼びかけた。民衆たちから歓声や拍手が起こる。


「流石は魔法界の姫だね。民からの信頼も相当厚いみたいだ」


 わたしの肩に乗ったリンが呟く。手を振りながら民衆の中を歩いていくマリー姫を見ると、やっぱり人を惹きつけるカリスマ性というのは、ある人にはあるんだなあと感じる。


「あなたたちも、早く! 玉座の間に行きましょう!」


 こちらを振り返るマリーの笑顔が、こんな状況の中でも眩しかった。



 玉座の間に入ると、その感動は城に入った時と比べ物にならないほど大きかった。


「マリー!」


 王様は、マリーの姿を見るや否や玉座を立ち、入り口のマリーを抱きしめた。お付きの兵士が、「王妃様にお伝えしなければ!」と奥の階段を上っていく。


「お前がいなくなって、私たちがどれだけ心配したか、わかってないだろう……」

「ごめんなさい、お父様。苦しいわ」

「お母様も、今お前が心配で寝込んでいるんだ。あとで顔を見せに行きなさい」

「わかりました。苦しいわ」


 びっくりするほど、普通の親子みたいだ。わたしはその様子を微笑ましく思いながら、脇に控えていたノーランさんに挨拶した。


「こんにちは」

「いや……驚きましたよ。本当にマリー様を連れて帰ってくるとは」

「見直してもらえましたか?」

「当然です。ありがとうございました」


 ノーランさんが頭を下げる。わたしはリュックの中から髪飾りを取り出すと、ノーランさんに返した。


「こちらこそ、髪飾りをありがとうございました。マリー様を見つけられたのは、この髪飾りのおかげです」

「あれ、まだ返していなかったんですか?」

「返せるわけないじゃないですか。これはノーランさんが預かったものなんですから。マリー様だって、ノーランさんに返してもらいたいはずです。部外者のわたしが介入できるはずはありませんよ」


 ノーランさんは髪飾りを受け取って、「そっか」と呟いた。ニヤニヤしそうになるのを堪えているような顔だ。


 記憶喪失のマリー姫、あなたの名前だけは憶えていたんですよ。


 そう言おうかとも思ったけど、そんなことを伝えなくても幸せそうだから黙っておく。


「君たち」


 王様に呼ばれ、わたしはマリーの方を振り返った。ようやくマリーから離れたらしい王様が、玉座に座ってわたし達を見回している。


「マリーを連れ戻してくれて、本当にありがとう。目立った外傷もないようで安心したよ。君たちを助けた私の目に狂いはなかった」

「それは……良かった、です」

「うん。君たちは私が思っていた以上の活躍をしてくれたから、褒美を与えようと思っている。おい」

「ハッ!」


 玉座の隣に控えていた兵士が、袋を抱えてわたし達の元へやってきた。一番前に立っていたナオに、その袋を渡す。


 袋を受け取ったナオは、小さく「重っ」と呟いた。それから恐る恐る兵士を見上げる。


「……中を見ても?」

「どうぞ」


 ナオは袋を開けた。中から零れ落ちたのは、大きな赤い宝石のネックレスだった。隣のセイが「わっ」と慌ててキャッチし、目をまん丸にする。


「こ、これ……」

「若い女の子たちばかりだったから、こういうものの方が嬉しいのかとも思ってね。もし要らないようだったら売ってくれればいいよ。大した量もないけど、人数分くらいはあるはずだ」


 王様が袋を手で示す。人数分って、こういう高そうなアクセサリー×5ってこと? 財力が恐ろしすぎる。


 袋を抱えたナオが、わたしへ視線を流した。自分がどういう表情をしていたのかはわからない。でも、ナオには伝わったようだった。


「セイ、それ袋に戻して」

「えっ? は、はい」


 突然の姉の言葉に、セイがまた目を丸くした。あまり状況を把握できていない様子のまま、ネックレスを袋の中に戻す。


 そして、ナオは袋を兵士に突き出した。


「これ、受け取れません」

「……は?」


 袋を突き返された兵士が、反感剥きだしでそう呟いた。ナオがわたしを見て、小さく顎を前に動かす。


 わたしはナオの隣に並ぶと、王様と向かい合った。


「これは受け取れません。非常に厚かましいことはわかっているんですが、わたし達には、王様にお願いしたいことがあるんです」

「私に?」

「はい。クロスってご存じですか」


 わたしの問いに、王様が唸る。


「言い伝えでは聞いたことがあるよ。確か、空の守護者たちを滅ぼした竜だろう」

「はい。ただ、クロスは言い伝え上の存在ではありません。実際に、獣人界と人間界を自分の手中に収めようとしています。このままいくと、魔法界の時間の問題かもしれません」


 王様が玉座に肘をついた。圧を感じる。この話をするのは何度目かだけど、何度話しても慣れるものじゃない。現に今も、握りしめた手のひらにじわりと汗をかいている。


「わたし達は、クロスを倒したい。獣人界の王にも協力していただけることになりました。どうか、王様にも協力していただきたいのです」

「ふむ、それは――」

「でも」


 王様が話す前に、わたしは無理やり言葉をねじ込んだ。多分不敬極まりない行為だ。すぐ隣の兵士がわたしを睨んでいるのがわかる。やめて、睨まないで。


 ごくりと唾をのんで、わたしは話し続ける。


「これは、あまりにも大きすぎる問題です。きっと王様も今のわたし達を、そこまで信じることは出来ないでしょう。こちらとしても、王様には信用していただきたい。そこで提案です」


 わたしは窓の外を指さした。胸を張って、王様に向かって叫ぶ。


「魔法界から恐魔獣を消し去る。そこまで成功させてから、改めてそのお願いをさせてください」

「……つまり、それを褒美としてほしいと?」

「はい」


 わたしは頷いた。王様はわたしの後ろを見て、「君たちも考えは同じなんだね?」と尋ねる。


「はい。彩の目的は私たちの目的ですから」

「重いよ」

「そうか。ふむ……」


 王様は指で短い髭を揉んだ。それから、にやりと笑って顔を上げる。


「能力者。妖精。面白いね。そこまで言われてしまったら、私としても腹をくくるしかない。いいよ、やってみなさい」

「お父様!」

「ありがとうございます」


 マリーが何かを言いかけたのを遮って、わたしは頭を下げた。王様は玉座からわたし達を見下ろし、悠然と笑った。


「期待しているよ」

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ