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空と妖精のコピオーネ (旧:妖精の戯曲、蒼穹の誓い)  作者: 天音色
第四章 過去を乗り越える物語
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第四章 18 囚われのお姫様

「異空間?」


 セイが首を傾げる。わたしは思わずぱちんと指を鳴らした。


「なるほど! 城下町に魔獣がとどまっているのも、あそこに魔獣が集中しているのも、使われている空間魔法に反応してるってことだったんだ!」


 まさに灯台下暗し。一番近い城下町で、お姫様は異空間に囚われているんだ。

 ナオが小さく首を傾げる。


「そういえば、空間魔法は妖精の得意分野って話だったわね」

「うん。以前読んだ本によれば、妖精の魔力は魔法使いの魔力とは少し違っているらしいからね。ボクと似たような魔力というなら、間違いなく妖精のものだろう」

「……ん? となると、一つ重大な疑問点が浮かび上がってくるわけだけど」


 頭に浮かんだ一つの疑問に、わたしは眉間を寄せる。リンも思い詰めたような表情で頷いて、わたしの後を引き継いだ。


「うん。もしこれが本当なら、魔女側に妖精の協力者がいることになる。妖精は界を越えられるから、魔女が他の界にも干渉できるようになって……」

「詳しい話は後回しだ」


 リンの話を遮って、ユーリがバサリとマントを翻した。


「妖精の協力者がいようが、魔女が界を自由に行き来出来るようになろうが、今やるべきことは変わらない。まずはお姫様を助けて、難しいことはまた後で考えればいいだろ」

「あたしもその通りだと思いますよ。今のあたし達には、推測するまでの情報が足りません。わざわざ難しいこと考えて体力を減らす必要なんてないです」


 セイもツインテールを揺らして賛成する。確かにその通りだ。今の状況じゃ、何を考えても推測どころか空想の域をでない。


「じゃあ、とりあえずあの魔獣の群れに突撃しようか」


 そう声をかけて、わたし達はまた屋敷の中に戻った。階段を降り、長い廊下を駆け抜けながら、わたしはリンに尋ねる。


「リン、異空間をこじ開けることは出来る?」

「……うん、出来ると思う。やってみせるよ」

「異空間をこじ開けるってことは、空間魔法を使うってことよね。となれば魔獣たちも反応する」


 一足先に階段を降り終えたナオが、顎に手を当てた。わたしはまだ五段ほど残った段を一気に飛び降りて、ナオの隣に着地した。


「だから、わたし達が魔獣を引き付けるしかない。バトルだよバトル。すっごく嫌だね。気が進まないね」

「恐魔獣と戦うにあたって、一番厄介なのがあの鳴き声みたいなやつだな。あれを食らったらあたしと彩は終わる」


 先頭を歩いているユーリが、ため息をついた。


 鳴き声みたいなやつ。あの頭が割れるような高音だろう。わたしとユーリは能力耐性がないから、あれをモロに受けると、まともに動くことが出来なくなる。前回の敗因の一つに、いきなりわたしとユーリが動けなくなったこともあるんじゃないだろうか。


「あれをどうにかしないといけないってことですね。でも、どうにかする方法ってありますか?」


 セイがこてんと首を傾げた。わたしはじっと床を見つめて考え込む。


 ヒントはある。恐魔獣の行動を思い出せ。


 あの鳴き声は、能力耐性で効き方が変わる。わたしが死にそうになっているとき、ナオは全く影響を受けずに動き回っていた。


 玄関ホールに辿り着いたところで、わたしは足を止めた。


「ユーリ、魔獣って能力持ってたりする?」


 わたしが聞くと、ユーリは少し考えたのちに首を振った。


「いや、持たないと思う。奴らは暴走した魔力の集合体みたいなものだ。魔力が能力を持つはずがない」

「じゃあ、あの鳴き声は魔力で干渉してきてるって確定してもいいわけだね」

「追加。多分あれは、外部の魔力がわたし達に干渉してきてるのよ。私達の周りの魔力っていうの? それが震えていたような気がしたから」


 ナオが補足してくれる。耐性がある分、冷静な分析が出来たのだろう。わたしは死にかけてたから、震えていたなんて全然感じなかったけど。


「じゃあ、周りの魔力量を減らせばいいんじゃない?」


 周囲の魔力の振動が原因なら、その量を減らしてしまえばいい。そうしたらダメージも軽減されるだろう。

 わたしがそう提案すると、セイがやれやれと言った風に首を横に振った。


「魔力量を減らすって……魔法を使うってことですよね? 彩先輩、知ってますか? 今の魔法界では魔法が暴走しやすいんですよ」

「それくらい覚えてるよ。暴走前提でやるの。たとえ魔法が暴走したとしても、魔力は消費されるでしょ?」

「暴走の原因は魔力の流れがおかしいことだとユーリ君が言っていたから、周りの魔力量を減らして流れを緩やかにしてもらえれば、ボクの空間魔法も成功しやすくなるとは思う」


 リンが自分の小さな手のひらを見つめながら呟く。ナオが少し目を伏せて考え込んだ。


「暴走前提で使う魔法……。失敗しても、周りに影響がない魔法がいいのよね。私達が覚えてる中で、そんな魔法って……」


 全員そろって考え込む。それから全員ほぼ同時に、「伝達魔法!」と叫んだ。


「そうだ、伝達魔法! あれなら暴走しても大した影響がないはず! 別に声を届けるために使うわけじゃないから、暴走しても何も関係ないし」

「頭の中に声が響くので、耳がおかしくなる心配もないですもんね。代わりに頭がおかしくなったりしませんよね?」

「全員の頭がおかしくなれば、何も怖くないだろ。満場一致で決まりだな。伝達魔法を使う。あたし使えないけど」


 ユーリが玄関の扉に手をかける。ナオがユーリの隣に並んで、わたし達を振り返った。


「リンに異空間を開いてもらうために、私達は魔獣をおびき寄せる必要がある。魔獣をおびき寄せるのは、彩とユーリに任せてもいい? 私とセイでお互いに伝達魔法を使いあうから。セイ、いい?」

「もちろんです。お姉ちゃんに使えばいいんだね」


 セイが大きく頷き、わたしとユーリは顔を見合わせた。

 わたしとユーリで魔獣をおびき寄せる。かなり無理がある気がする。めっちゃ死にそう。でもわたしもあんまり魔法使えないし、ここはナオとセイに任せるのが適当なんだろうな。


「行こう。『幻惑』」


 わたしがそう唱えると同時に、ユーリが玄関の扉を開けた。幻に身を包んで、淀んだ空気の中に足を踏み出す。


 庭の中ほどまできたところで、不意にセイがしゃがみ込んだ。


「どうしたの、セイ。体調でも悪いの?」

「ううん。これ、何だろうなって思って」


 セイが拾い上げたのは、黒くて丸い石のようなものだった。リンがすかさず「それはね」と眼鏡を輝かせる。


「魔法界の特殊な鉱物だよ。魔力を吸って、とても固くなったものなんだ。高級品だからあまり見られないんだけど、やっぱり貴族の家は違うね」

「へえ、そうなんだ。高級品なら一個もらっとこ」

「あたしもー」

「ちょっと、他人の敷地でやめなさいよ」


 ナオには注意されたけど、こっそりポケットの中にいくつか潜り込ませておいた。固いという割には軽い。もしも人間界に帰れる日が来たなら、記念に持って帰って博物館とかに寄贈するのもいいかもしれない。なんて。


 鉱石も拾えたことだし、とわたし達はまた歩き出した。ウェスコイド家とは比べ物にならないほどの広さだ。庭だけであそこの敷地分はあるだろう。


 荒れ果てた庭を突っ切って、ねじ曲がった門の隙間から屋敷の外へ出る。散乱した瓦礫を踏みつけながら進んだ。角を曲がるとそこはもう、恐魔獣たちの巣窟だ。


 息を吸って、吐いて。呼吸と心を落ち着ける。

 

 ここにいるのは三体。下手したらもっとおびき寄せられてくる可能性もある。


 わたしは足元の瓦礫を一つ拾い上げると、恐魔獣の群れを真っすぐに見据えた。


「じゃあ、お姫様を助けに行こう」


 そして、右手を振りかぶり、瓦礫を群れに向かって投げつけた。



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