第四章 14 王様からの依頼
再会の喜びもそこそこに、わたし達は王様のいる玉座の間へと向かわされた。先頭に立って歩くのは、わたし達の見張りをしていたお兄さんだ。
みんなは、わたしが幻惑の世界から帰ってくる前に、討伐隊に加わる旨の話を聞いていたらしい。それで、わたしの判断に委ねると判断してくれていたそうで。何というか、責任重大だ。
「みんな目覚めるの早かったね。いや、遅くはあるんだけど、思ってたより早かったというか」
歩きながらそう声をかけると、リンが「まあね」と得意げに眼鏡の位置を直した。
「ボクがアヤ君の次に起きたんだよ。だから、みんなに治癒を使って回った。それで目覚めるまでの時間が短縮できたんじゃないかな。まあ、アヤ君も結構長い間眠ってはいたし」
「そうなの? わたしが一番に目覚めたのもリンの遅効性治癒のおかげだし、治癒さまさまだなあ……」
「えへへ、役に立ててうれしいよ」
リンは嬉しそうに、少しだけ頬を赤らめて笑った。
お世辞とかでも何でもなくて、今回のMVPは間違いなくリンだろう。わたし達は声を揃えて「ありがとう」とリンにお礼を言う。
それから、わたしは前を歩いているナオの隣に小走りで並んだ。正面を向いたままのナオに、わたしはこっそり「ありがとね」と囁く。
「……何が?」
「まーたとぼけちゃってさ。本当に助かったよ。ナオがいなかったら、わたしきっと駄目だった。ありがと。迷惑かけてごめん」
「謝られるようなことなんて何もされてないわよ。少しでも、彩の役に立てたのなら良かった」
ナオが視線だけをわたしへ向けて、微笑む。その微笑みが妙に大人びて見えて、なんだか悔しい気持ちになった。
そこで、先頭を歩いていた男の人が足を止めた。わたしは危うくその背中にぶつかりそうになりながら、立ち止まる。
「ここが、王様がいらっしゃる玉座の間だ」
わたし達の目の前には、今まで見てきたどれよりも豪華で煌びやかな装飾の扉がある。迫力的にも、この先で王様が待っていることを確信できるような感じだ。
「この先に王様が」
「はい。くれぐれも失礼のないように頼みますよ」
男の人はわたし達に念を押すと、扉にそっと手を当てた。キィっと僅かに金属が軋む音がして、扉が開く。
扉の向こうに伸びるレッドカーペットは、部屋の奥の玉座へと続いている。その玉座には、小柄なおじさんが座っていた。
ナオと男の人がほぼ同時にサッと膝をつき、頭を垂れた。出遅れたわたしはセイと顔を見合わせる。
こういうときって跪くのか!? この前ライオネルに会いに行った時は殴り込みだったからわからないんだけど!
おじさん――不敬だから王様に改めよう――は、入ってきたわたし達を見て微笑んだ。弱り切った、疲れ果てたような顔だった。何歳なのかわからないけど、おじいさんみたいに見える。
「そんなに固くならなくていいよ。今は非常事態だからね。少しでも早く話を進めようじゃないか。ノーラン、ご苦労様」
「いえ、この程度大したことはございません」
ノーランと呼ばれた男の人が、顔を上げて答える。ナオは少し戸惑った様子ながらも立ち上がった。どうしてコイツはあんなに反応速度が速かったんだ。何だろう。昔王室とかに仕えてたのか。
わたし達は、ドアのすぐ前に横一列に整列する。王様は十メートルほど離れた玉座から、ゆっくりとわたし達を見回した。
「全員元気そうで何よりだ」
「王様のおかげです」
「うん。まだ万全な状態ではないと思うが、君たちには今すぐに働いてもらおうと思っているよ。ノーラン、事情の説明を」
「はっ」
ノーランさんが軽く頭を下げ、わたし達に向き直る。
「あなたたちには、姫様を見つけ出していただきたい。姫様というのは、もちろん我が国の……いや、魔法界の象徴、マリー姫です。ご存じですね?」
知らない。いや、存在自体は知っているけどどんな人かは全く知らない。曖昧に笑い返す。
「順を追って説明しましょう。始めに恐魔獣が現れたのが、ここ城下町。城下町で大量発生した魔獣は、稀に外へ出ていくものもいますが、ほとんどが城下町にとどまり続けています。外へ出ていった魔獣は、ベルラーナで発見されました」
「ベルラーナで……!?」
「はい。今は落ち着いて、あなたたちもご存じのようにエドワルド様がここへお越しくださいました。しかし、城下町の状況は変わっていません。もう何万人が死んだのか……」
ノーランさんの顔が憎々しげに歪んだ。浮かんだ憎悪を上手く取り繕えないまま、ノーランさんは続きを話す。
「奴らが現れてすぐ、王国魔術師たちが恐魔獣を排除すべく城下町へと出発しました。結果は惨敗です。戦っている間にも魔獣が増え続け、一斉攻撃を受けた王国魔術師たちは壊滅状態。一人だけ城へ戻ってきて、今も治療を受け続けています。そして、その王国魔術師たちの傍に姫様がおられました」
「えっ?」
疑問に思った瞬間、声に出てしまっていた。わたしは困惑しながらノーランさんに聞く。
「えっと、お姫様がそんな危険なところにいたんですか? どうして?」
「姫様は勇敢な人なんですよ。民が苦しんでいるのを放っておけない。そして魔法界一の魔法の使い手でもある。だから、我先にと飛び出して行ってしまいました……」
「本当に、我が娘ながら言うことを聞いてくれなくて困るよ」
今まで黙って聞いていた王様が、苦笑しながら言った。隣でユーリが笑ったような気がした。
ノーランさんは続ける。
「その時に、姫様は攫われてしまったんです。今もまだ姫様は見つかっていません。姫様は今この瞬間も、あの魔女の元で苦しんでいるのです……!!」
魔女。その言葉を聞いた瞬間に、わたしはハッとした。いや、みんなの様子を見るに、反応したのはわたしだけじゃないみたいだ。特に――
「魔女? 魔女に攫われたってことか?」
真っ先に食いついたのはユーリだった。ノーランさんは苦虫を嚙み潰したような顔で頷く。
「はい。さっき一人だけ生き残った王国魔術師がいたと話しましたよね。彼が命懸けで、これを伝えるために戻ってきたんです。『魔女が来た。姫様が攫われた』と」
「じゃあ、魔女がどこへ行ったかはわからないんですか?」
「はい。私達にも何とも……」
ノーランさんは悔しそうに顔を歪める。奥でじっと話を聞いていた王様が、ようやくと言ったように「これでわかってくれたかな」と口を開く。
「エドワルドから聞いたよ。君たちは魔女と戦った、と。適任だと思ったよ。助けてよかったと思わせてくれるような結果を期待しているね」
わたしは思わずにやりと笑ってしまった。優しそうな顔をしておきながら、しっかり圧をかけてくる人だ。ライオネルとは違う圧を感じる。ライオネルが一撃で首を撥ねるタイプなら、この人はじわじわと首を絞めてくるような人だ。
わたしはチラリと隣にいる仲間たちに視線を向けた。魔獣が蔓延る世界で、どこにいるのか、そもそもいるのかもわからないお姫様を捜しに行く。なるほど、まさしくRPGだ。
大丈夫。わたしには、コピーがついてる。
「はい。お任せください」
わたしは笑って答えた。こういう不安で前が見えない時は、とりあえず笑うしかないんだ。こんな状況、笑ってないとやってられない。
「必ず、お姫様を魔女の元から救ってみせますよ」
玉座に座った王様は、また気弱に微笑んだ。




