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空と妖精のコピオーネ (旧:妖精の戯曲、蒼穹の誓い)  作者: 天音色
第四章 過去を乗り越える物語
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第四章 13 わたしが手にした能力

「やっと? 遅かったなあ」


 コピーは伸びをして、わたしの方へ歩み寄ってくる。わたしもコピーへと歩み寄る。二人、初めて真っすぐに向かい合った。


「さっき、コピーは自分のことを矛盾した存在だって言ったよね。わたしもそう思うよ。わたしの願望と手にした力は食い違っていて、いい気分はしない」


 コピーはじっとわたしを見つめていた。本当に真剣に、わたしの出した答えを受け止めようとしているように見える。


「この能力は、一人だけじゃ使うことが出来ない。一人で戦える強さが欲しかったはずなのに、わたしは真逆の力を手に入れてしまった」

「うん」

「それを、コピーは欠陥って呼んだね。わたしも、ついさっきまではそう感じてた。出来損ないの能力だって。でも、今は少し違うような気がする」


 わたしはコピーに向かって笑いかける。


 ナオはきっと、わたしにあんなことを言いたくなかったはずだ。わたしの罪を再現しているならば、ナオはわたしの立場に立つことになる。理想を押し付けて、傷つける側に。

 わたしは全くかまわないし、むしろ目を覚まさせてくれたことに感謝をしているくらいだけど。それでも、ナオは真面目だからそんな気軽には受け止めていないだろう。


 ナオが、自分を傷つけてまで背中を押してくれたんだ。もう迷うことは許されない。


「この能力が、誰かの力を借りないといけないおかげで、わたしはたくさんの人に出会ったよ。獣人界でも、魔法界でも、妖精図書館でも。いろんな場所で、いろんな人に出会って、そのたびに元気づけられた。わたしに、一人じゃないよって教えてくれた」


 どうして、最初からこれを言えなかったんだろう。コピーの――いや、自分自身の言葉に惑わされて、わたしは今までのことを振り返るのが怖くなっていた。


「今だってそう。ナオがいてくれた。ナオがいなかったら、わたしはきっとまだ俯いていただろうね。……やっぱりさ、一人だけじゃどうしようもないことって、あると思うんだ」


 わたしは僅かな時間、目を閉じて思い出す。誰もいない町を走ったあの日を。世界に自分一人しかいないのだと、絶望したあの瞬間を。

 でも、足を踏み出してみれば、世界は広がって、自分は一人じゃないのだと気づかされた。


「もしも、わたしが本当に欲しかった力……自分一人で何でもできる能力を手に入れていたら、わたしは気づかなかった。いろんな人がわたしに向けてくれる優しさや、大切に思ってくれる心に、わたしは目を背けながら生きていたと思う。何だろうな、勘違いしてたんだろうね。誰かに頼ることと、迷惑をかけることはきっと必ずしも同義じゃないんだと、勝手ながら思うようになった」


 こんなことを話すのは、実を言うと恥ずかしかった。でも、今は胸を張って恥ずかしいことを言わないといけないんだと思う。今は別人みたいに分かれてるけど、コピーとわたしは同じなんだから。自分のポエムを聞かされるとか、即死級の拷問だろう。わたしなら死ぬ。


「この能力を手にしたから、わたしはいろんな人と出会えた。それは欠陥なんかじゃない。むしろ、わたしの欠陥を埋めるような能力だ。コピーはわたしが偽物の主人公だと証明する力じゃなくて。わたしが、本物の主人公になるための能力だよ」


 自分だけじゃどうしようもないから、誰かの力を借りながら前に進んでいく。それこそが主人公だ。思い返してみれば、わたしの目標であったルナだって、大勢の仲間たちと一緒に力を合わせていた。勝手にわたしが勘違いしていただけなんだ。

 一人だけで突き進んでいく主人公も、そりゃカッコいいかもしれないけど、それは初めにわたしが思い描いていた主人公じゃない。


 わたしはドンと胸を叩いて、コピーに向かって自信に満ちた笑みを浮かべた。


「継ぎ接ぎ人形上等。今は借り物かもしれない。でも、いつかは絶対にわたしのものにしてやるよ。いつか、わたしは胸を張って主人公だって叫んでやる。この能力で人間界を救った時には、きっとわたしは本物の主人公になれているはずだから」


 コピーはずっと黙ってわたしの話を聞いていた。やがて、困ったように眉を下げて笑う。


「でも、その分彩はいろんな人を自分の我儘に巻き込んでいくってことだよ。ナオもリンもセイもユーリも、彩が巻き込んだせいで傷つくかもしれない。それは、彩の美学には反しない?」

「多分、それはその考え方自体が間違ってるんだと思う」


 コピーの問いに、わたしはきっぱりと答えた。


「何ていうか、何ていったらいいんだろうな……。これはさっきナオと話したからこそ感じたことなんだけど、みんなは、わたしがみんなのことを巻き込んだなんて言ったら怒るんじゃないかな。わたしはみんなを信じてるよ。みんなは、わたし如きの言葉に惑わされるような人たちじゃない。自分の意志で何かを決定できる人たちだから」


 上手く言葉に出来ないけど、例え事実だとしても、巻き込んだって考えること自体が自分勝手な気がする。わたしの勝手な思い込みかもしれないけど、それでも、何となく。


「『巻き込む』って言葉を否定したうえで、みんなが傷つくことはわたしとしても許せないよ。だからわたしは頑張る。美学ってのが何なのかはよくわかってないけど、それでも、この考え方なら反しないような気がするから」


 そう言って、わたしは宙を掴むように手を握った。開いた手の中にあったのは、わたしが普段身に付けているものと変わらない、青色のリボンとヘアピン。


 ここでは、わたしの欲しいものが手に入るらしい。わたしはコピーに歩み寄って、さっきナオがそうしてくれたように、髪に手を伸ばした。


「だからさ、そのためにはコピーに協力してもらわないといけないんだ。わたしはもっと強くなりたい。随分と遠回りしたけど、これがわたしの願いだよ」


 わたしはコピーの髪を結んだ。これでお揃いだ。あっけにとられた顔のコピーがどこか間抜けで面白くて、わたしはつい笑う。


「さっき、コピーは自分のことを許せるかって聞いたよね。正直許せるか許せないかで言ったら、許せない。過去の自分のことを許せるはずがないし、許しちゃいけない。でも、もうこれからは目を背けたりしないよ。過去の自分を捨てようとは思わない。ねえ、コピー。コピーがわたしの一部なら、わたしに力を貸してほしい。もう二度とあんな風に誰かを悲しませないように、一緒に頑張ろうよ。そのためには、その力が必要なんだよ」


 わたしはコピーを見つめて、まっすぐに言った。


「その力を、自分を嫌わなくていい。この能力は欠陥じゃない。お願い。わたしのために、力を貸して」


 コピーはぎゅっと口を引き結んだ。それから少しだけ俯いて、すぐに顔を上げた。顔の前に手を持ってきて、ぱんぱん、と手を叩く。


「わかったよ。彩の決意は」


 雨が止んだ。コピーはわたしを見て、泣き出しそうな顔で笑う。でも、涙は流れていなかった。


「彩、ありがとう。わたしを欠陥じゃないって言ってくれて。認めてくれて。一緒に頑張ろうって言ってくれて」


 空を覆っていた分厚い雲はいつの間にか消えて、日の光が差し込み始めていた。優しくて、眩しい光だ。あの日見られなかった光だ。


 「屈んで」と言われ、わたしはコピーの前にしゃがみ込んだ。コピーはわたしの肩に手を乗せて、わたしの頭に自分の頭をごつんとぶつけてくる。痛い。


「彩、頑張るから。一緒に頑張ろうね」


 コピーは、そう祈るように囁いた。



 目を覚ました。視界いっぱいに広がる天井に、戻ってきたんだとわかった。わたしは勢いよく体を起こす。


 すると、


「遅かったじゃない」


 布団を畳んでいたナオが、わたしを見てにやりと笑った。少しお疲れの様子のリンは、眼鏡をくいっと上げてわたしを見上げ。セイはぱあっと顔を輝かせて立ち上がり。あくびをしていたユーリは、首を傾げて少し笑った。


 戻ってきた。いつもの、わたし達が。


 わたしはベッドから飛び降りると、みんなに向かって元気よく笑った。


「おはよ!」



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