第5話 初めての報酬
第一階層ボス――ホブゴブリンを討伐した四人は、出口の転移ゲートへ向かっていた。
戦闘が終わった安心感からか、百華は何度も後ろを振り返る。
「本当に倒したんだよね……?」
「倒したな」
奏が答える。
「まだ信じられない……」
「私も」
舞も苦笑した。
つい数時間前まで、ただの高校生だった。
それが今は探索者として魔物を倒している。
不思議な感覚だった。
◇◇◇
光に包まれ、四人は現実世界へ戻る。
探索者協会港区支部。
ロビーには多くの探索者たちがいた。
仕事帰りらしいスーツ姿の探索者。
企業所属のチーム。
初心者らしい若者たち。
年齢も職業も様々だ。
「なんか急に現実に戻った感じだな」
旬が呟く。
「数時間前まで私たちもあっち側だったのにね」
百華が笑った。
◇◇◇
受付へ向かう。
「お帰りなさい」
女性職員が微笑んだ。
「初探索はいかがでしたか?」
「楽しかったです」
百華が答える。
本心だった。
母親を探すために探索者になった。
でも。
それだけじゃなかった。
仲間と戦う時間が純粋に楽しかった。
◇◇◇
「魔石の買取をお願いします」
旬が袋を差し出す。
職員が確認する。
そして。
少しだけ目を見開いた。
「ホブゴブリンの魔石ですか?」
「はい」
「第一階層ボス討伐、おめでとうございます」
四人は顔を見合わせた。
嬉しかった。
公式に認められた気がした。
◇◇◇
魔石鑑定室。
鑑定士が魔石を調べる。
数分後。
「間違いありません」
「第一階層ボスの魔石です」
協会の記録に登録される。
⸻
パーティー名:未登録
到達階層:1
⸻
記録されるのはそれだけ。
誰がどれだけ活躍したかは分からない。
協会が把握できるのは到達階層のみだった。
◇◇◇
「こちらが買取金額になります」
職員が端末を見せる。
「おお……」
旬が声を漏らした。
「すごい」
舞も驚く。
高校生のアルバイトなら一か月近く働いて得る金額。
それを半日で稼いだ。
「魔石は国家管理資源ですので」
職員が説明する。
「特にボス魔石は高価買取になります」
◇◇◇
協会を出た頃には夕方になっていた。
港区の高層ビル群が夕日に染まっている。
ダンジョンの中とは全く違う景色。
「これで探索者として初収入か」
旬が感慨深そうに言う。
「なんか大人になった気分」
百華が笑った。
「まだなってない」
舞が即座に突っ込む。
◇◇◇
その時。
街頭ビジョンにニュースが流れ始めた。
⸻
『日本最強民間パーティー・八咫烏』
⸻
四人の視線が自然と向く。
画面には五人の探索者。
その中でもひときわ目立つ青年がいた。
黒髪。
整った顔立ち。
爽やかな笑顔。
モデルのような雰囲気。
「天城蓮だ!」
旬が思わず声を上げる。
◇◇◇
天城蓮。
19歳。
日本最強民間パーティー『八咫烏』所属。
レベル70台後半。
日本最年少クラスのトップ探索者。
そして。
旬にとっては特別な存在だった。
◇◇◇
「そんなに好きなの?」
百華が聞く。
「好きっていうか……」
旬は少し考えた。
「憧れだな」
「憧れ?」
「中学二年の全国大会準決勝」
旬の視線が遠くなる。
◇◇◇
三年前。
全国中学校剣道大会。
神楽旬は準決勝まで勝ち上がった。
そして。
そこで戦った相手。
中学三年生。
天城蓮。
圧倒的だった。
技術。
速度。
気迫。
全てが一段上だった。
結果は完敗。
だが。
悔しさ以上に感じたものがあった。
「かっこよかったんだよ」
旬は素直に言った。
「負けたけど、あんな剣士になりたいって思った」
◇◇◇
舞と百華は顔を見合わせる。
「青春だねぇ」
「青春だね」
「なんだその反応」
旬が不満そうに言う。
◇◇◇
一方。
奏はニュース画面を見ながら首を傾げていた。
「有名なのか?」
「お前本当に何も知らないな」
旬が呆れる。
「探索者のニュースくらい見ろよ」
「興味なかった」
「今は探索者だろ」
「確かに」
奏は素直に頷いた。
◇◇◇
ニュースでは記者会見が続いていた。
「今後の目標は?」
記者が質問する。
天城蓮は穏やかに微笑んだ。
「日本の探索者全体を強くしたいですね」
「俺たちだけじゃなくて、若い世代もどんどん育ってほしいと思っています」
嫌味のない自然な言葉だった。
だからこそ人気がある。
実力だけではない。
人柄も評価されているのだ。
◇◇◇
「やっぱすげぇな……」
旬が呟く。
その目は完全にファンだった。
百華が小声で舞に言う。
「いつか会えるかな?」
「会えるんじゃない?」
舞も小声で返す。
その横で。
奏はニュースを見ながら思う。
(強そうだな)
それだけだった。
◇◇◇
その夜。
百華は自室で一枚の写真を見つめていた。
幼い頃の自分。
そして母。
桜木美咲。
自衛隊所属。
ダンジョン発生当日、黄の迷宮調査中に消息不明となった人物。
政府は死亡扱いにしている。
だが。
百華は諦めていなかった。
「待ってて」
写真を握りしめる。
「絶対に見つけるから」
その瞳には迷いがなかった。
◇◇◇
そして同じ頃。
東京・奥多摩。
一般人の立ち入りが禁止された山中。
厳重なフェンスの向こう側。
そこには日本政府最大の秘密が存在していた。
黄龍迷宮。
100階層を超えるとされる、日本最深部のダンジョン。
そして――
その内部では。
日本政府の極秘調査チーム、鳴神流の師範と弟子達で結成された探索者たちが今日も攻略を続けていた。
まだ誰も知らない。
百華の母親の失踪。
黄龍迷宮。
そして奏自身。
全てが一本の線で繋がっていることを。




