第6話 最初の壁
探索者登録から一か月。
四人はすっかり探索者としての生活に慣れていた。
朝起きる。
ダンジョンへ向かう。
探索する。
帰宅する。
その繰り返し。
高校卒業からまだ一か月も経っていないというのに、学生時代が遠い昔のように感じられた。
◇◇◇
港区にある探索者向けのカフェ。
探索帰りの四人は窓際の席に座っていた。
旬がステータスを眺めながら唸る。
「上がらねぇな……」
「私も」
舞が頷く。
「昨日も今日も変わらない」
百華も同じだった。
奏も静かにコーヒーを飲んでいる。
◇◇◇
現在のレベル。
⸻
【一ノ瀬 奏】
Lv3
⸻
【神楽 旬】
Lv3
⸻
【神門 舞】
Lv3
⸻
【桜木 百華】
Lv3
⸻
探索を始めた頃は順調だった。
しかし最近は違う。
第一階層を何周しても経験値がほとんど増えない。
明らかに成長速度が落ちていた。
◇◇◇
「初心者ダンジョンだからじゃない?」
舞が言う。
「レベルが上がると経験値補正がかかるって協会の資料に書いてあった」
「つまり?」
百華が聞く。
「弱い敵ばかり倒しても成長しにくくなる」
「ゲームみたいだな」
旬が笑う。
しかし探索者たちの間では常識だった。
強くなるにはより深い階層へ。
それが唯一の方法。
◇◇◇
その日の午後。
四人は協会の相談窓口へ向かった。
担当職員は資料を見ながら説明する。
「皆さんのレベルなら第二階層に挑戦しても問題ありません」
「危険ですか?」
百華が聞く。
「第一階層よりは」
職員は頷いた。
「ただし初心者ダンジョンですので、しっかり準備すれば十分攻略可能です」
◇◇◇
帰り道。
四人は自然と真剣な空気になっていた。
「第二階層か」
旬が呟く。
「ちょっと緊張するな」
「今までとは違うからね」
舞も同意する。
だが。
奏だけは少し考えていた。
「どうした?」
旬が聞く。
「怪我しないようにしないとな」
その言葉に。
舞が少しだけ笑った。
やっぱり奏らしい。
強くなることより。
仲間の安全を優先する。
◇◇◇
翌日。
四人は第二階層への転移ゲートをくぐった。
景色が一変する。
「森だ」
百華が呟く。
第一階層は草原だった。
しかし第二階層は違う。
鬱蒼とした森林。
視界も悪い。
木々が邪魔をする。
「嫌な地形だな」
旬が警戒する。
◇◇◇
ガサッ。
草むらが揺れた。
「来る!」
舞が声を上げる。
飛び出してきたのはゴブリン。
しかし。
第一階層の個体より一回り大きい。
筋肉量も違う。
◇◇◇
旬が前へ出る。
剣を振るう。
一撃。
だが。
倒れない。
「硬い!」
旬が驚いた。
今までなら終わっていた。
しかし第二階層の魔物は違う。
◇◇◇
舞が魔力弾を放つ。
命中。
それでもまだ立っている。
「やっぱり強い」
舞が眉をひそめた。
その間にも。
左右からさらに二体。
囲まれ始める。
「数も多い!」
百華が叫ぶ。
◇◇◇
百華が前へ出た。
拳を叩き込む。
吹き飛ぶ。
しかし別個体が接近。
蹴り。
迎撃。
「歌姫なのに!」
本人が叫ぶ。
「なんでこんな前衛なんだろ!」
「今さらかよ!」
旬がツッコむ。
◇◇◇
その時だった。
木陰からもう一体。
百華の死角。
「百華!」
舞が叫ぶ。
間に合わない。
そう思った瞬間。
奏が動いた。
◇◇◇
一歩。
二歩。
三歩。
気付けば百華の前にいた。
拳が放たれる。
ゴブリンが吹き飛ぶ。
一撃。
終了。
◇◇◇
「……」
「……」
「……」
三人が黙る。
奏だけが首を傾げた。
「どうした?」
「いや」
旬が言う。
「お前だけ難易度違わない?」
「そうか?」
「そうだよ」
百華も全力で頷く。
◇◇◇
探索はその後も続いた。
確かに第二階層は難しい。
だが。
成長の実感も大きかった。
強敵と戦う。
経験を積む。
そして。
少しずつ強くなる。
探索者としての本当のスタートラインに立った気がした。
◇◇◇
その日の帰り道。
街頭ビジョンにニュースが流れる。
⸻
『日本最強民間パーティー・八咫烏、三十五階層攻略成功』
⸻
旬の足が止まった。
「蓮さんだ」
画面には天城蓮。
穏やかな笑顔。
テレビ越しでも分かる圧倒的な存在感。
◇◇◇
「いつか戦ってみたいな」
旬が呟く。
その声は真剣そのものだった。
舞と百華が顔を見合わせる。
そして。
奏だけはニュースを見ながら思う。
(また強くなってるな)
相変わらず温度差があった。




