第2話 探索者協会
卒業式から一週間後。
東京駅。
平日の朝にもかかわらず、多くの人で賑わっていた。
巨大モニターにはニュースが流れている。
『アメリカ攻略チーム”フェンリル”、六十五階層到達』
『中国・龍牙攻略軍、六十階層攻略を維持』
『日本政府、探索者保護政策を継続』
ニュースキャスターの声が響く。
その映像を見ながら、神楽旬は不満そうに口を尖らせた。
「また叩かれてるな」
画面にはSNSの投稿が映し出される。
『日本遅すぎ』
『いつまで慎重論やってんだ』
『アメリカ見習えよ』
『税金の無駄』
そんなコメントばかりだった。
奏は興味なさそうにスマホを眺める。
「毎日同じだろ」
「いや気になるだろ普通」
「別に」
「お前はもっと世の中に興味持て」
「面倒くさい」
「駄目だこいつ」
旬が頭を抱える。
すると隣から笑い声が聞こえた。
「二人とも朝から元気だね」
百華だった。
今日は白いブラウスにロングスカートという私服姿だ。
高校の制服とは違う大人びた雰囲気がある。
「百華が言うか?」
「言うよ?」
「お前も結構テンション高いぞ」
「そりゃそうだよ」
百華は少しだけ笑った。
その瞳には期待と緊張が混じっている。
無理もない。
今日は人生で初めて探索者になる日なのだから。
そして。
母親を探す第一歩でもある。
「舞は?」
旬が辺りを見回す。
「あ、来た」
百華が指差した。
改札から神門舞が歩いてくる。
黒髪を揺らしながら近付いてくる姿は、朝の駅構内でも目立っていた。
周囲の男性たちが思わず視線を向けている。
だが本人は気付いていない。
「お待たせ」
「五分遅刻」
奏が言う。
「電車」
「言い訳だな」
「殴るよ?」
「暴力反対」
舞が軽く睨む。
奏は肩をすくめた。
いつものやり取りだった。
「よし」
旬が手を叩く。
「行くか」
四人は歩き出した。
目的地は東京都探索者協会本部。
日本最大の探索者管理機関だった。
◇◇◇
十分後。
四人は巨大な建物の前に立っていた。
「でか……」
旬が思わず呟く。
高層ビル。
二十階建て以上。
入口には警備員が立ち、探索者と思われる人々が出入りしている。
スーツ姿の職員。
武器を背負った探索者。
テレビクルー。
一般人。
様々な人間が行き交っていた。
ダンジョン時代の中心地。
そんな雰囲気がある。
「緊張する?」
百華が聞く。
「少し」
舞が答えた。
「俺はワクワクしてる」
旬は笑う。
「奏は?」
「別に」
「お前本当に緊張しないな」
「登録するだけだろ」
旬は呆れた。
こいつは昔からこうだった。
テストでも。
大会でも。
面接でも。
ほとんど緊張した姿を見たことがない。
実際には違うのだが。
奏はただ感情を表に出さないだけだった。
◇◇◇
受付を済ませた四人は案内に従って奥へ進む。
そして、探索者登録のための部屋に案内される。
部屋には探索者教会の職員がいて、説明をしてくれる。
「探索者は初めてダンジョンへ入る際に職業が覚醒します」
「はい」
「ただし事前適性を調べることは可能です」
職員は続ける。
「皆さんにはこの後、初心者向けダンジョンへ入っていただきます」
「そこで職業が確定するんですね」
舞が確認する。
「その通りです」
探索者の人生を決める瞬間。
部屋の空気が少し張り詰める。
「それでは登録を行います」
職員がタブレットを操作した。
「氏名をお願いします」
「一ノ瀬奏です」
「神楽旬です」
「神門舞です」
「桜木百華です」
入力が進む。
「――桜木?」
職員の手が止まった。
百華も気付く。
「はい?」
「失礼しました」
一瞬だった。
だが確かに職員の表情が変わった。
何かを知っているような顔だった。
奏の目が細くなる。
(今のは……)
気のせいではない。
しかし。
職員はすぐに営業用の笑顔へ戻る。
「では登録を続けます」
それ以上は何も言わない。
「なんだろう?」
百華
「さぁ?」
奏
◇◇◇
登録終了後。
四人は初心者ダンジョン行きのエレベーター前に立っていた。
いよいよだ。
ダンジョンへ入る。
探索者になる。
全ての始まり。
百華は拳を握り締める。
(お母さん……)
必ず見つける。
そのためにここへ来た。
どれだけ時間がかかっても。
どれだけ危険でも。
諦めない。
「百華」
奏が声を掛けた。
「ん?」
「行くぞ」
その一言だけだった。
だが不思議と安心できた。
「うん」
百華は笑った。
エレベーターの扉が開く。
その先に待つのは。
人類が二年前に発見した未知の世界。
ダンジョン。
四人は並んで歩き出す。




