説教
「――なるほど、つまり、誰かが意図的に、阪爪さんに卵を口にさせた、と……そう言いたいのね」
「はい」
仲西と照井が聞き込みで得た情報を課長に報告するが、その前に、りまの推理を彼女自ら課長に報告した。
「これまで、色んな事件を解決に導いてきた、それだけの推理力があるわ、さすがね」
「……あ、ありがとうございます」
褒められて、恥ずかしそうにポケットに潜り込んだ。
「となると、その卵と牛乳を合わせた飲み物を置いたのは、卜部さんかもしれないわ。現場のDNAを調べたところ、卜部さんと阪爪さんのものしか、出てこなかったから。そして、第一発見者である兵藤さんか増山さん、あるいはその二人が、容器を回収した協力者の可能性があるわね、というわけで赤石君、卜部さんに話を聞いてきてくれる?」
「わかりました」
事情を聞くため、彼女が泊まっているというビジネスホテルに向かうことになった。
「あ、お疲れ様」
駐車場へ向かっていると、廊下で守内さんに会った。
「お疲れ様です」
「その様子だと、ちょっとは仲良くできた?」
「そういうわけでは……」
気まずそうに顔を見合わせ、また外方を向いた。
余計なこと言わないでください、と目線を向けたが、気付いていない様子だった。こういう時だけ鈍いのは何なんだ……。
「そもそも、何で喧嘩なんかしてたんだよ」
「先輩の手伝いをどちらがするかで、意見が割れたんです」
「へえ、モテてるねえ、先輩?」
「……」
俺も外方を向いた。
「何でもいいけどさ、捜査に支障を来たすのは無しだぞ?」
「二人にも、俺からそう言いました。二人きりで捜査もさせました」
「なるほど、ね……二宮さん、ちょっといいかな?」
りまを呼んだ。「あ、はい」と、顔を覗かせた。
「第三者から見て、二人の行動と赤石の対応は、どう見えた?」
「えっと……」
言いにくそうに、俺を見上げた。
「……正直に言ってもらって構わない」
俺がそう言うと、口を開いた。
「怪我をしても捜査をしようという気持ちも、怪我をした先輩のために頑張ろうという気持ちも、立派だとは思いますが、いい歳をした大人、それも警察官が、何をしているんだろうとは正直思います。省吾の対応は……大人である二人に向けた対応なら、ありだと思います」
「……なるほどね、それ聞いて、二人はどう思った?」
守内さんに訊かれたが、仲西も照井も、何も答えられなかった。
「俺達のやってることってさ、赤の他人の人生を左右するようなことなんだよ。遊び半分でやられちゃ困るし、喧嘩なんかしてる場合じゃない、わかるか?」
仲西と照井の肩に手を置いた。
「この肩に、何万の人の人生が乗ってる、その自覚が足りないんじゃないか?」
「す、すみません……」
二人共、蚊の鳴くような声で言った。
「仲西君、頭撃たれたそうだけど、傷の程度はどのくらい?」
「と、頭部に命中はしましたけど……頭蓋骨までは到達してないです」
「体調はどうなんだ? 正直に答えて」
「頭痛が少しあるくらいです」
「頭痛ね、加えて集中力も足りなさそうだしイライラもしてる。てことは、多分脳震盪だな、そうなると車の運転は厳しい。大方、それで照井ちゃんと揉めた口だろ」
「……そうです」
「復帰して早いとこ先輩の役に立ちたいって、気持ちはわかるよ。でもさ、それで何かあったら、困るのはその先輩だぞ? 脳震盪から復帰したら、普通はデスクワークから始めるのに、課長の温情で足を使わせてもらってるんだ、それわかってるか?」
「わかって、ませんでした……」
がっくりと肩を落とした。
「そして照井ちゃん、元々は仲西君の代理で来てもらったけど、聞いた話によれば、照井ちゃんの前の相方、もう定年退職してるそうだね。ということは、今は赤石と仲西君が、正式な相方ってことになる、それわかってるか?」
「はい、わかってました」
「なら尚更、仲西君と上手くやらないといけない。脅すつもりじゃないけどさ、このままじゃ相方を外されるのも時間の問題かもしれないぞ? 仲西君は照井ちゃんにとっては先輩に当たるんだ、立てろってことじゃない、後輩として、仲西君の補佐をするんだ、張り合う必要なんて何処にもないだろ?」
「は、はい……」
守内さんの熱のこもった言い方に、照井もたじろいでいた。
「二宮さんの言う通り、いい歳した大人がすることとは思えない。理由もやってることもくだらなさすぎる。一旦二人で頭冷やしてこい、ホテルには俺と赤石で行ってくる。……行くぞ」
そう言って、踵を返した。俺も急いで後に続いた――。




