対立の理由
課長への報告を終えたその瞬間、別の人物から電話がかかってきた。
「はい、赤石です」
「よう、調子はどうだ?」
相手は守内さんだった。
「……用件は何ですか」
「いや、片腕で捜査しにくいんじゃないかと思って、電話したんだよ」
「問題ありません」
「相変わらずつっけんどんだな、心配してやってんじゃん……そんなお前にお知らせ、司法解剖の結果、僅かに胃の内容物が残ってて、牛乳と卵だってさ」
「牛乳と、卵……」
どこかで聞いたような組み合わせだ。
「加えて言うと、阪爪さん、重度の卵アレルギーだそうだ。死因は、アナフィラキシーショックによる窒息」
「卵アレルギーに、アナフィラキシーショック……」
「おかしいよな? 牛乳ならまだしも、卵なんて、アレルギーなら、自分から口にしないだろ?」
「そうですね……牛乳と混ぜられたものを、そうと知らずに飲んだのかもしれませんね」
そうなると、事故以外の可能性も出てきた。
「もう少し、掘り下げてみます、ありがとうございました」
「おう、頑張れよ」
通話を終え、俺も車に戻った。
車内の空気は最悪だった。
お互いに、何も話してはいないが、敵対しているのが丸わかりだった。
後回しにするのは、良くないだろうな……。
「さて、出発前に、君達に確認したいことがある」
「……何でしょう?」
照井が首を傾げた。
「君達が敵対している理由だ。明らかにしないことには、事件に集中できないだろう」
「僕は、別に……」
仲西が小さく言った。
「本当か? それなら、今から二人だけで施設に戻って確認してほしいことがあるんだが、できそうか?」
「……」
二人共、答えなかった。
「仲良くしてくれとは言わない、だが協力はしてくれ。何度も言うが、人が亡くなってるんだ。事件を捜査する側の刑事がこれじゃ、市民も不安がってしまう。せめて、敵対している理由を教えてくれないか?」
なるべく優しく言った。
「……先輩が」
「うん?」
「先輩が怪我してるから、補助しようと思ったんですよ。そしたら、照井さんも補助するって話になって」
「そうですよ、仲西刑事も怪我してるんですから、私がやろうって話をしたんです。そうしたら、私は代理だから必要ないって言われて」
「……何だそりゃ」
思わず口に出してしまった。
「何だって、私達は赤石刑事のために」
「それはありがたいが、俺もいい歳した大人だぞ……自分の面倒くらい、自分で見れる。それに、車の運転くらいはしてほしいが、他に何か補助はできるのか? こういうのも何だが、君達は捜査においてはあまり役に立っていないように思える。聞き込みも殆ど俺がやっていたし、仲西の情報も、失礼だが誰でも……それこそ、怪我をしている俺でもできることだ。それに、推理は? 何か知恵を出したか?」
可哀想かもしれないが、はっきりと言った。
「それは、その……」
「……」
二人共俯いて黙ってしまい、車内がお通夜のような空気になってしまった。
「少し頭を冷やしなさい、俺はタクシーで現場に戻る。後でしてほしいことを連絡するから」
車を降り、施設前でタクシーを拾って現場へ戻った。
「あ、刑事さん」
現場へ戻ると、増山さんと鉢合わせした。手にはスーパーの袋をぶら下げている。
「どうも……買い物ですか?」
「夕飯の買い出しに。あれ、他の刑事さんは?」
「別のことを調べに行ってもらってます」
先程、タクシーの中で、仲西と照井にメッセージを送った。二人で協力して調べてくれると良いんだが……。
「大変なんですねえ刑事さんって。怪我しても働かなきゃだし」
「まあ、自分は、無理言って働かせてもらってるんで」
「無理しないでくださいよ、と言っても、事件は待ってくれないでしょうけど」
ちらっと、俺の左肩を見た。
「やっぱり、気になりますか」
「まあ、僕も身体鍛えてるんで……怪我だから仕方ないですけど、左右のバランス崩れちゃうんじゃないかって思っちゃって。特に三角筋の辺りがねえ」
「……」
まずい、また昨日のパズルを思い出してしまった。俺もなかなか集中できていない……。
「ああ、すみません、足止めしちゃいましたね」
「いえ……ついでにお訊きしたいのですが、ここ数日、アパート周辺で、何か変わったことなどはありませんでしたか? 事件に関係なさそうなことでも構いませんので」
「うーん……あ、お隣さん、彼氏がいるみたいで、ちょくちょく出入りしてましたよ」
「彼氏、ですか?」
「はい、同じ年くらいかな、僕モテないから、羨ましくって」
彼氏……事件とは関係ないかもしれないが、頭の片隅に入れておこう。




