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刑事の俺と小人の君  作者: 颪金
小人編
74/76

見舞客

翌日の朝、課長さんと照井刑事、守内刑事が見舞いに訪れた。

「赤石君、調子はどう?」

「ぼちぼちと言ったところです」

「そう、命に別状なくて、よかったわ」

課長さんは嬉しそうにしてるけど、後ろにいる照井刑事は、どこか不安そうだった。

「それで、私がここに来た理由、単なる見舞いじゃないことは、わかるわね?」

「はい。……紹介します」

手のひらに私を乗せて、課長さんに差し出した。

「二宮りまと申します。ご挨拶が遅れてしまい、申し訳ありません」

「ご丁寧にどうも。捜査一課、課長の斎藤千佳です」

優しく言ってくれたが、目が笑っていない。

「それで、あなたと赤石君は、どういった関係なの?」

「それは、俺から説明します」


省吾から、仲西刑事の携帯に私が電話をかけたこと、捜査の途中で私を見つけたこと、私が不法侵入や窃盗をしていたこと――知っていることを全て、話した。


「……そういうことね」

一言、そう言った。

「黙っていたこと、申し訳ありませんでした」

省吾と一緒に頭を下げた。

「照井ちゃんと守内君は、いつから知っていたの?」

「私は、捜査の仕方に違和感を覚え、お聞きした時に、紹介して頂きました」

「俺は、赤石が二宮さんと話しているのをたまたま目撃して、知ってました」

「なるほどね、それをすぐ私に伝えなかったのはどうして?」

「それは……」

照井刑事が、ちらっと私を見た。

「二宮さんは、小人、ですので、言うことを躊躇ってしまいました」

「俺も似たような感じですが、捜査に支障は無く、むしろ新たな視点から情報を提供してくれる、協力者だと判断したため、報告しませんでした」

「……」

それを聞いて、こめかみを押さえて何か考えている。

「二人の言い分は理解したわ。さて、赤石君、あなたのしたことについてだけど……。

まず、二宮さんの不法侵入と窃盗についてだけど、これは二宮さんが小人だということを理由に不問にします。捜査情報を盗み見たり聞いたりしたことも同様です。でも、赤石君、あなたには守秘義務違反があります。本来、捜査情報を意図的に外部に漏らすことは、懲戒免職ものだけど――」

「課長、お言葉ですが、それは情報を外部に漏らしたことにより、別の被害や影響が起きる危険がある場合などが当てはまります。赤石は事件解決のため、二宮さんの助力を得た、と考えることはできませんか?」

守内刑事の言葉、それに課長さんはため息をついた。

「復帰早々、赤石君のところへついて行きたい、なんて言うから、何かと思えば……赤石君と約束でもしていたのかしら」

「まあ……はい」

気まずそうにしている。フォローの件、バレてる……。

「確かに、二宮さんは、これまでも事件解決に協力してくれていた、それは認めるわ。でもね、赤石君の言葉を借りるなら、彼は無関係の民間人を捜査に巻き込んだことになるのよ。立派な情報漏洩、守秘義務違反だわ。これは上に報告しないといけないわね」

課長さんより、もっと上……どうしよう、大事になっちゃう。

「というわけで、この件は一度持ち帰ります。ゆっくり休んでちょうだいね」

照井刑事と守内刑事を連れて、病室を出ていった。


「りま、大丈夫だったか?」

省吾が心配そうに言った。

「私は大丈夫だけど、省吾は大丈夫? 何だか、大事になっちゃったけど……」

「そうだな……まさか、上に報告するとは思わなかった……すまない、君のことを守りきれなかった」

「私なら大丈夫、もう腹は括ってるから」

好奇の目に晒されても、それは仕方ない。

「でも、付き合ってるって言いそびれたな……俺としては、あの時言っておきたかったが」

「止めとこうよ、状況が悪くなっちゃうかもしれないし」

「……」

ため息をつかれた。不貞腐れてる場合じゃないよ……。




その日のお昼過ぎ、課長さんが一人で会いに来た。

「赤石君、あなたの処遇が決まったわ」

「……はい」

震えた声で、返事をした。緊張がこちらにまで伝わってくる。


「あなたの行った捜査情報の漏洩だけど……考えてみれば、あなたは捜査情報を話したんじゃなく、聞かせたと言った方が、この場合適切かもしれないわね。二宮さんはそれを元に、推理をしただけ……守内君が言った通り、あなたは助力を得ていたということになるわ。よって――半年の減給処分とします」


「……いいんですか」

省吾が訊くと、課長さんは近くにあった丸椅子に腰を下ろした。

「本音を言うとね、上に報告はしようとしたのよ? でも、なんて言えばいいのかわからなかったのよ。だって相手は小人さんでしょ?」

「小人……りまは普通の人間と変わりません」

「そういう問題じゃないの。小人って、存在するかどうかの話よ? 言ったって信じてもらえるかわからないし……まあ、実際に連れていけば、信じてはもらえると思うけど……」

ちらっと省吾を見た。

「あなた、それ許した? あまり多くの人の目に留まる事態は避けたいって思うでしょ?」

「そうですね」

「そうよね? 私も、上に話したら、絶対に公表しろって言われるだろうし、パニックは避けたかったのよ。それに、今朝は、民間人を捜査に巻き込んだ、守秘義務違反だ、なんて言ったけど、考えてみれば、さっき言った通り、捜査情報を聞かせて助けてもらったってことになるから……上には、捜査情報を盗み聞きした民間人が勝手に的確な推理をした、と話したわ。それで、あなたの不注意だということにして……減給処分ってことにしてもらった」

「そうだったんですね。ありがとうございます」

頭を下げた。省吾は、まだ刑事を続けられるんだ。

「今朝は私も動揺してたわ、小人なんて初めて見たから……不安にさせて、ごめんなさいね」

「いえ、俺は別に……ただ、その、小人って言うのは止めて――」

「課長さん!」

省吾の言葉を遮った。ここで楯突くのはまずいって!

「まず、処分の件、ありがとうございました。それと、今後なんですけど」

「そうね、そこを伝えていなかったわ。二宮さんの活躍で、解決できた事件がいくつもある。だから、今後とも、是非お願いしたいと思ってます。でも、なるべくは、周りに見られないようにね」

「はい、ありがとうございます!」

私も、捜査を続けていいんだ。良かった……。

「にしても不思議ね……どうなってるの?」

じろじろと私を見ている。やっぱり、小さい人間が珍しいみたい。

「捜査中に知り合ったのよね? 確か、電話してて、たまたま見つけたって」

「……そうですね」

「電話って、この小さな身体で? 持ち運ぶのも大変でしょ?」

「……」

そ、そろそろ噴火しそう。話題を変えないと。

「実は、その……私、物を小さくする力があって、それで携帯を小さくして、持ち運んだんです」

「へえ! 小さいのに凄いのね!」

「課長、あまり大きさのことは言わないでもらえますか、人を見た目で差別しないでください」

あちゃあ、防げなかった……。

「あら、ごめんなさいね」

だが、課長さんは、さほど気にしていない様子だった。

「さて、私はそろそろ失礼するわね。あ、言い忘れてたけど、仲西君、検査結果は異常なしだったそうだから、もうすぐ退院できるそうよ」

「本当ですか」

「ええ、また二人で組めるわね。それと、照井ちゃんだけど、まだ暫くは、あなた達と一緒に行動してほしくて……今後は三人で捜査してもらうけど、大丈夫?」

「構いません、人数が多い方が、捜査もしやすいです」

「良かった、それじゃ、お疲れ様」

病室を出ていった。

仲西刑事が戻ってきたら、ちゃんと挨拶しないといけない。理解はあると思うけど、大丈夫かな……。




その後、病室で、適当に携帯のニュースを見ていると、電話が鳴った。

画面には、「寺口三咲」と表示されていた。

「りま、すまない……赤石です」

相変わらず、相手を確認しないで出てる。止めた方がいいと思うけど……。

「……ああ、心配しなくても、大丈夫だ……え、今からか? もう来てる?」

慌てた様子で応答している。どうしたんだろう?

「ちょっと待ってくれ、そんな急に言われても……あっ」

通話が切られたらしく、画面を見てため息をついた。

「姉貴が来ることになった。というか、もう来ているらしい」

「え?」

思わず聞き返してしまった。そういえば、お姉さんがいるって話してたっけ。

「じゃあ、私、隠れてるね?」

「わかった。すまないな……」

枕の陰に隠れていると、数分後、病室がノックされた。

「省ちゃん、大丈夫!?」

返事も待たず病室に飛び込んできたのは、四十代くらいの女性。あの人が、省吾のお姉さん? 確かに、少し似てるような……。

「何だ、起きてたなら返事してよ」

聞いたことある台詞を言っている。

「返事をする前に入ってきたのは姉貴だろう……見ての通り大丈夫だ」

「良かったー、母さんも父さんも心配してたんだよー」

「ということは、母さんと父さんも来てるのか?」

「まさか、私だけだよ。母さんと父さんが来たら、ぜーったい大騒ぎするから、私だけで行く! って言ってきた」

「既に騒がしいんだが……」

「何か言った?」

「別に。で、何の用だ?」

「何の用って、あれよ」

指したのは、部屋の隅に置かれた省吾の荷物。

「荷物あれだけ? 着替えとかは? 必要でしょ?」

「……まあ、そうだな」

「だから、動けない省ちゃんのために、私がデリバリーしてあげようって話よ」

「なるほどな。そこまでしなくても、売店に売ってる奴でもいいし、そもそも姉貴にそこまでして貰うのもな」

「よく言うわ、相方さんとの関係で困って、電話で泣きついたのは誰よ。で、マンションの鍵は? 荷物の中?」

「ああ……」

適当に荷物を漁り、鍵を出した。

「車は……多分警察署よね、タクシーで行くわ。今日中に持っていくから、今度何か奢りなさいよ」

そう言って、返事も聞かずに病室を出ていった。

「すまないな、騒がしい姉で」

申し訳なさそうに言うが、どこか嬉しそうだった。

「大丈夫だよ、でも、大丈夫かな……ドールハウス」

「あ」

完全に忘れてたみたい。

「……言い訳を考えておこう」

「そ、そうだね……」

不安の種が、また増えてしまった――。

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