見舞客
翌日の朝、課長さんと照井刑事、守内刑事が見舞いに訪れた。
「赤石君、調子はどう?」
「ぼちぼちと言ったところです」
「そう、命に別状なくて、よかったわ」
課長さんは嬉しそうにしてるけど、後ろにいる照井刑事は、どこか不安そうだった。
「それで、私がここに来た理由、単なる見舞いじゃないことは、わかるわね?」
「はい。……紹介します」
手のひらに私を乗せて、課長さんに差し出した。
「二宮りまと申します。ご挨拶が遅れてしまい、申し訳ありません」
「ご丁寧にどうも。捜査一課、課長の斎藤千佳です」
優しく言ってくれたが、目が笑っていない。
「それで、あなたと赤石君は、どういった関係なの?」
「それは、俺から説明します」
省吾から、仲西刑事の携帯に私が電話をかけたこと、捜査の途中で私を見つけたこと、私が不法侵入や窃盗をしていたこと――知っていることを全て、話した。
「……そういうことね」
一言、そう言った。
「黙っていたこと、申し訳ありませんでした」
省吾と一緒に頭を下げた。
「照井ちゃんと守内君は、いつから知っていたの?」
「私は、捜査の仕方に違和感を覚え、お聞きした時に、紹介して頂きました」
「俺は、赤石が二宮さんと話しているのをたまたま目撃して、知ってました」
「なるほどね、それをすぐ私に伝えなかったのはどうして?」
「それは……」
照井刑事が、ちらっと私を見た。
「二宮さんは、小人、ですので、言うことを躊躇ってしまいました」
「俺も似たような感じですが、捜査に支障は無く、むしろ新たな視点から情報を提供してくれる、協力者だと判断したため、報告しませんでした」
「……」
それを聞いて、こめかみを押さえて何か考えている。
「二人の言い分は理解したわ。さて、赤石君、あなたのしたことについてだけど……。
まず、二宮さんの不法侵入と窃盗についてだけど、これは二宮さんが小人だということを理由に不問にします。捜査情報を盗み見たり聞いたりしたことも同様です。でも、赤石君、あなたには守秘義務違反があります。本来、捜査情報を意図的に外部に漏らすことは、懲戒免職ものだけど――」
「課長、お言葉ですが、それは情報を外部に漏らしたことにより、別の被害や影響が起きる危険がある場合などが当てはまります。赤石は事件解決のため、二宮さんの助力を得た、と考えることはできませんか?」
守内刑事の言葉、それに課長さんはため息をついた。
「復帰早々、赤石君のところへついて行きたい、なんて言うから、何かと思えば……赤石君と約束でもしていたのかしら」
「まあ……はい」
気まずそうにしている。フォローの件、バレてる……。
「確かに、二宮さんは、これまでも事件解決に協力してくれていた、それは認めるわ。でもね、赤石君の言葉を借りるなら、彼は無関係の民間人を捜査に巻き込んだことになるのよ。立派な情報漏洩、守秘義務違反だわ。これは上に報告しないといけないわね」
課長さんより、もっと上……どうしよう、大事になっちゃう。
「というわけで、この件は一度持ち帰ります。ゆっくり休んでちょうだいね」
照井刑事と守内刑事を連れて、病室を出ていった。
「りま、大丈夫だったか?」
省吾が心配そうに言った。
「私は大丈夫だけど、省吾は大丈夫? 何だか、大事になっちゃったけど……」
「そうだな……まさか、上に報告するとは思わなかった……すまない、君のことを守りきれなかった」
「私なら大丈夫、もう腹は括ってるから」
好奇の目に晒されても、それは仕方ない。
「でも、付き合ってるって言いそびれたな……俺としては、あの時言っておきたかったが」
「止めとこうよ、状況が悪くなっちゃうかもしれないし」
「……」
ため息をつかれた。不貞腐れてる場合じゃないよ……。
その日のお昼過ぎ、課長さんが一人で会いに来た。
「赤石君、あなたの処遇が決まったわ」
「……はい」
震えた声で、返事をした。緊張がこちらにまで伝わってくる。
「あなたの行った捜査情報の漏洩だけど……考えてみれば、あなたは捜査情報を話したんじゃなく、聞かせたと言った方が、この場合適切かもしれないわね。二宮さんはそれを元に、推理をしただけ……守内君が言った通り、あなたは助力を得ていたということになるわ。よって――半年の減給処分とします」
「……いいんですか」
省吾が訊くと、課長さんは近くにあった丸椅子に腰を下ろした。
「本音を言うとね、上に報告はしようとしたのよ? でも、なんて言えばいいのかわからなかったのよ。だって相手は小人さんでしょ?」
「小人……りまは普通の人間と変わりません」
「そういう問題じゃないの。小人って、存在するかどうかの話よ? 言ったって信じてもらえるかわからないし……まあ、実際に連れていけば、信じてはもらえると思うけど……」
ちらっと省吾を見た。
「あなた、それ許した? あまり多くの人の目に留まる事態は避けたいって思うでしょ?」
「そうですね」
「そうよね? 私も、上に話したら、絶対に公表しろって言われるだろうし、パニックは避けたかったのよ。それに、今朝は、民間人を捜査に巻き込んだ、守秘義務違反だ、なんて言ったけど、考えてみれば、さっき言った通り、捜査情報を聞かせて助けてもらったってことになるから……上には、捜査情報を盗み聞きした民間人が勝手に的確な推理をした、と話したわ。それで、あなたの不注意だということにして……減給処分ってことにしてもらった」
「そうだったんですね。ありがとうございます」
頭を下げた。省吾は、まだ刑事を続けられるんだ。
「今朝は私も動揺してたわ、小人なんて初めて見たから……不安にさせて、ごめんなさいね」
「いえ、俺は別に……ただ、その、小人って言うのは止めて――」
「課長さん!」
省吾の言葉を遮った。ここで楯突くのはまずいって!
「まず、処分の件、ありがとうございました。それと、今後なんですけど」
「そうね、そこを伝えていなかったわ。二宮さんの活躍で、解決できた事件がいくつもある。だから、今後とも、是非お願いしたいと思ってます。でも、なるべくは、周りに見られないようにね」
「はい、ありがとうございます!」
私も、捜査を続けていいんだ。良かった……。
「にしても不思議ね……どうなってるの?」
じろじろと私を見ている。やっぱり、小さい人間が珍しいみたい。
「捜査中に知り合ったのよね? 確か、電話してて、たまたま見つけたって」
「……そうですね」
「電話って、この小さな身体で? 持ち運ぶのも大変でしょ?」
「……」
そ、そろそろ噴火しそう。話題を変えないと。
「実は、その……私、物を小さくする力があって、それで携帯を小さくして、持ち運んだんです」
「へえ! 小さいのに凄いのね!」
「課長、あまり大きさのことは言わないでもらえますか、人を見た目で差別しないでください」
あちゃあ、防げなかった……。
「あら、ごめんなさいね」
だが、課長さんは、さほど気にしていない様子だった。
「さて、私はそろそろ失礼するわね。あ、言い忘れてたけど、仲西君、検査結果は異常なしだったそうだから、もうすぐ退院できるそうよ」
「本当ですか」
「ええ、また二人で組めるわね。それと、照井ちゃんだけど、まだ暫くは、あなた達と一緒に行動してほしくて……今後は三人で捜査してもらうけど、大丈夫?」
「構いません、人数が多い方が、捜査もしやすいです」
「良かった、それじゃ、お疲れ様」
病室を出ていった。
仲西刑事が戻ってきたら、ちゃんと挨拶しないといけない。理解はあると思うけど、大丈夫かな……。
その後、病室で、適当に携帯のニュースを見ていると、電話が鳴った。
画面には、「寺口三咲」と表示されていた。
「りま、すまない……赤石です」
相変わらず、相手を確認しないで出てる。止めた方がいいと思うけど……。
「……ああ、心配しなくても、大丈夫だ……え、今からか? もう来てる?」
慌てた様子で応答している。どうしたんだろう?
「ちょっと待ってくれ、そんな急に言われても……あっ」
通話が切られたらしく、画面を見てため息をついた。
「姉貴が来ることになった。というか、もう来ているらしい」
「え?」
思わず聞き返してしまった。そういえば、お姉さんがいるって話してたっけ。
「じゃあ、私、隠れてるね?」
「わかった。すまないな……」
枕の陰に隠れていると、数分後、病室がノックされた。
「省ちゃん、大丈夫!?」
返事も待たず病室に飛び込んできたのは、四十代くらいの女性。あの人が、省吾のお姉さん? 確かに、少し似てるような……。
「何だ、起きてたなら返事してよ」
聞いたことある台詞を言っている。
「返事をする前に入ってきたのは姉貴だろう……見ての通り大丈夫だ」
「良かったー、母さんも父さんも心配してたんだよー」
「ということは、母さんと父さんも来てるのか?」
「まさか、私だけだよ。母さんと父さんが来たら、ぜーったい大騒ぎするから、私だけで行く! って言ってきた」
「既に騒がしいんだが……」
「何か言った?」
「別に。で、何の用だ?」
「何の用って、あれよ」
指したのは、部屋の隅に置かれた省吾の荷物。
「荷物あれだけ? 着替えとかは? 必要でしょ?」
「……まあ、そうだな」
「だから、動けない省ちゃんのために、私がデリバリーしてあげようって話よ」
「なるほどな。そこまでしなくても、売店に売ってる奴でもいいし、そもそも姉貴にそこまでして貰うのもな」
「よく言うわ、相方さんとの関係で困って、電話で泣きついたのは誰よ。で、マンションの鍵は? 荷物の中?」
「ああ……」
適当に荷物を漁り、鍵を出した。
「車は……多分警察署よね、タクシーで行くわ。今日中に持っていくから、今度何か奢りなさいよ」
そう言って、返事も聞かずに病室を出ていった。
「すまないな、騒がしい姉で」
申し訳なさそうに言うが、どこか嬉しそうだった。
「大丈夫だよ、でも、大丈夫かな……ドールハウス」
「あ」
完全に忘れてたみたい。
「……言い訳を考えておこう」
「そ、そうだね……」
不安の種が、また増えてしまった――。




