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刑事の俺と小人の君  作者: 颪金
小人編
73/76

告白

その後、処置に来た医者や看護師の目を掻い潜り、夜になった。

省吾は、丁寧に片腕だけで食事をしていた。私は、その病院食を少しだけ分けてもらった。

「暫くは、片腕だけで生活しないといけないんだね」

「まあ、ほんの数ヶ月の辛抱だ。利き腕が無傷なのは、不幸中の幸いだな」

「うん……」

左腕は、三角巾で吊っている。そんな不便な状態なのに、私は何もできないんだ……。

「りま、どうした?」

食事の手が止まっていたのを見て、省吾が不安そうに訊いてきた。

「あ、いや、何でもない」

慌てて誤魔化した。


食事を終え、後は寝るだけ。携帯で、今日の事件のニュースを一緒に確認した。

「そういえば、陽葵君に七年前の事件の件で手紙を送った人、誰だったんだろう。正希さんが陽葵君のことを知った経緯も、わかってないよね」

私の疑問に、省吾が答えた。

「正希さんが陽葵君のことを知った経緯は、本人に聞かないとわからないが……手紙は多分、晃成君だ」

「え、晃成君が?」

「恐らくだが、七年前、陽葵君の罪を被って少年院に入り、院を出た後に就職しようとしたが、ことごとく失敗して、ストレスが溜まっていたのかもしれない。陽葵君を脅すことで、発散しようとしたのかもな」

「……どこを見て、晃成君だと思ったの?」

「陽葵君が持ってきた手紙、筆跡に見覚えがあった」

「ってことは、陽葵君は、脅してきた相手が家にいるのに、不登校になったの?」

「もう少し調べてみないとわからないが、家庭内でも何かしていたかもしれないな……」

そこまで考えることが、できるようになったんだ。本当に成長したなあ……。


少しして、消灯の時間になった。看護師に寝るように促され、素直に従った。

「……」

だが、薄暗い室内で、天井をぼんやりと見上げ、眠る様子が無い。

「省吾、眠れない?」

「そうだな……」

入院初日だし、そりゃあそうだよね。

……それなら。

「そのままでいいんだけど、話があるの」

「うん?」

首だけを動かして、私を見た。

「……省吾は、結婚とか、考えたことある?」

「どうしたんだ、急に。守内さんの奥さんの話を聞いたからか?」

「それもそうだし、さっき省吾も、家族と電話してたよね」

「ああ、母さんと少しだけ」

「で、考えたことあるの?」

「ないわけじゃない。姉貴が結婚した時や、子供が生まれた時は、俺にもし、そういう相手がいたら、と思ったことはある。……もう三十五だしな」

「そうなんだ……話変わるんだけど……私の単独捜査の件、まだ話してなかったよね」

「そうだったな」

「あれね、もうできないと思うんだ」

「……そうか」

「……」

理由、訊かないんだ……。

「それでね、そうなってくると、捜査で得られる情報も限られてくると思う。他の人に見つかるリスクもある」

事件はこれからも起きる。その度にヒヤヒヤしてたら、正直、切りがない。

「それに今、省吾は課長さんに、私のことを話さないといけない状態だよね。守内刑事はフォローしてくれるけど、何も罰がないわけじゃない……だから、私、そろそろ省吾から離れようかなと思ってるの。元凶がいなくなれば、省吾の罰も軽くなる気がする」

「……」

省吾は、ちらちらと目を泳がせていた。何か考えてるのかな。

「ほら、今回の守内刑事の誘拐事件、結構一人で推理できてたし、もう独り立ちしてもいいような気がする……それにさ、省吾がもし、心に決めた相手と結婚する時が来たとして、その生活に、私って邪魔な気がするんだ」

「……そうか、そういうことか」

何かに納得したみたい。

「君の気持ちは十分に理解した。君の我儘は、俺の楽しみだからな、それくらいの我儘は聞こう。でもそれなら、最後に俺も、我儘を言っていいか?」

「え、あ、うん……」

止めなかった……私が離れること、理解してくれてる。それなら、私もできる限り、彼の我儘を聞こう。


「初めて会うよりも前から、君のことが気になっていて、一緒に捜査してから、君のことを心から尊敬するようになった。一緒に生活して……りまのことが、本気で好きになった。

今後は俺の恋人として、傍にいてくれないか?」


「……え?」

今、何て……。

「前にも言ったが、いてくれるだけでいいんだ。家賃も家事もいらない、推理も、できる範囲で……いや、それもできないなら、しなくてもいい。俺は、二宮りまさんが好きになった」

「ちょっと待って、私、小人だよ」

「それも前にも言ったが、身体の大きさは大した問題じゃない。……それとも、俺との生活が嫌になったか? デリカシーが無かったか?」

「そんなことない! 省吾はいつも私を気遣ってくれてる。料理だって美味しいし、お風呂だって、ベッドだって、服だってありがたいし……初めて、家族以外で、私を人間扱いしてくれた……私も、省吾のこと、好きだよ。でも、小人なんだよ、恋人にするなんて……絶対、後悔する」

「しないって言い切れる。好きな人と一緒にいて後悔するはず無いだろう?」

痛む左腕を動かして、手を差し伸べた。

「俺が気持ちを伝えなかったせいで、色々、不安にさせたな……すまなかった。これで俺が刑事を辞めることになっても、後悔は無いんだ。他にいくらでも道はある。心配しなくていい」

優しく言った。

「本当に、いいの?」

しっかり頷いた。

普段、見上げる位置にある省吾の顔が、寝ているから、私と同じ位置にある。大きな瞳に、私の困惑してる顔が映ってる。

こんな目してたんだ……と、つい考えてしまった。

「この高さで顔を見たのは、初めてかもしれないな」

省吾も似たようなことを考えていた。

「りま、嫌なら嫌でいいんだ、君の本心が聞きたい」

私の、本心……。

「もう言っちゃったけど、私も、省吾が好き。あなた以上に私を人間扱いしてくれる人は、いない気がする……」

差し出された左手の指に自分の手を乗せた。握手、のつもりだ。

「よろしくお願いします……」

「ああ、よろしく」

嬉しそうに笑った。最近笑顔をちゃんと見れていなかったな、と、今になって気付いた。


「ねえ、その……いつから、私のこと、気になってたの? 会う前からって言ってなかった?」

そう訊くと、思い出しながら答えてくれた。

「仲西から、捜査の情報を提供してくれる女性がいると聞いた時から、気になってはいた。それが、こんな可愛らしい人だとは思ってなかったが」

「かっ……!」

可愛らしい!? 急にどうしたの!?

「さっき、気付いたんだが、俺は君に、自分の気持ちをあまり伝えていなかった。だから、不安にさせてしまったのかもな……今後は、もう少し自分の言葉を伝えるようにする」

「それはつまり、どんな風に……?」

「嫌なことは嫌だと言うし、してほしいことも、はっきり言う」

それを、はっきり言われた。

「そういうことだ……吐き出したら眠くなってきた。そろそろ休んでもいいか?」

「あ、うん……おやすみなさい」

すぐに目を閉じ、寝息が聞こえてきた。


私、この人の恋人になったんだ……まさか私に恋人ができるなんて、考えたこともなかった。

本当に、これからどうしよう。というか、どうなるんだろう――。

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