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刑事の俺と小人の君  作者: 颪金
小人編
72/76

安堵と不安

省吾と病室で二人きりになった。

「省吾」

名前を呼ぶが、起きない。まだ麻酔が効いているみたい。

布団をよじ登っていつもの胸ポケットの位置に移動する。既に病衣に着替えさせられているから、ポケットが無いことに登ってから気付いた。

その場に手をついて耳を澄ました。とん、とん、と心臓の音が聞こえる。呼吸もしている。

生きてる……本当に良かった。

「ん……」

声が聞こえた。目を覚ました?

「りま、りま……」

私の名前を呼んでる。見やすいように、また枕元に移動した。

「省吾、私ならここに――」

「守内さんと、あまり話しすぎないでくれ……」

「え?」

な、何でここで守内刑事の名前が?

「名前で呼ばせたりとか、絶対するんじゃないぞ……」

あれ、これもしかして、まだ麻酔から覚めきってない? 寝言?

そういえば、聞いたことがある。半覚醒状態っていって、医療現場じゃよくあることだって……。

「もっとしっかりした刑事に、なる、から……」

そう言って、また寝息が聞こえた。

「……省吾は、立派な刑事だよ」

推理もできるようになってきたし、倉光刑事の仇にも冷静に対処できた。私が言うのも何だけど、刑事として、確実に成長している。


ふと、省吾の目が開いた。

「省吾!」

呼びかけると、私を見た。

「りま……うっ」

起き上がろうとしたが、刺された場所が痛むらしい。

「無理しないで、そのままでいいから」

「君、怪我は?」

「私なら平気だよ」

「良かった……自分の身を削るような無茶はしないって言ったはずなのに、約束、破ってしまったな……」

「あの状況じゃ、仕方ないよ。立派だったよ、赤石刑事」

「……ありがとう。そうだ、陽葵君はどうなった? 正希さんは?」

「陽葵君は、怪我とかはなかったから帰宅して、正希さんは逮捕されたよ」

「そうか……」

「それと、ごめんなさい、課長さんに見つかっちゃった」

「……そうか」

話す前に見つかった。状況としては、一番最悪なパターンかもしれない。

「まあ、何とかなる。守内さんもフォローしてくれるはずだ」

「そうだね……」

私を見た課長さんの反応を考えると、とても大丈夫とは思えないけど……。

「とにかく、正希さんも逮捕されて、これで全て終わったんだな」

気になることが、全く無いわけじゃないけど……これで事件は解決した。

後は、私のことだ――。


「ところで、君は今晩、どうするつもりだ?」

「どうするって?」

「ここにドールハウスは無いし、ベッドも作れない。どこで休むんだ?」

「えっと……」

考えてはいた。許可がもらえるかはわからないけど……。

「省吾の枕元で、休んでもいい?」

「……」

明らかに悩んでいる。

「絶対、眠りの邪魔だけはしないから……お願い」

「俺の寝相が悪い可能性もある」

「え、大丈夫だよ、いつも見てるけど、静かだし」

「……わかった」

許可が貰えた。

「あ、見回りの看護師に見つかるとまずいから、窓側で寝るね」

「そうだな、それがいい」

その時、病室の扉がノックされた。咄嗟に、枕の影に身を隠した。

扉を開けて入ってきたのは、守内刑事だった。

「何だ、起きてたなら返事しろよ」

「守内さん……ってことは、俺、同じ病院に運ばれたんですね」

さすがに、先輩相手に寝たままでの対応はまずいと思ったのか、ゆっくり起き上がった。

「そういうことだな、これでお前も入院仲間だ」

「止めてくださいよ」

嫌そうに言う。守内刑事と仲違いしていた時と、話し方があまり変わっていない気がするけど、何となく、優しい印象になった気がする。これが、本来の二人の仲、というものなのかも。

「さて……照井ちゃんから聞いたよ、正希さん、逮捕されたんだってな」

「はい、七年前のあの事件の真実も、明らかになりました」

「そうだな、でも、本当はこれからだぞ。無実の少年を七年も犯人扱いしたんだ、バッシングは避けられない」

「そうですね……」

確かにそうだ。私のこともあるし……これから、どうなるんだろう。

「とはいえ、陽葵君を正希さんから守れたのは、称賛に値すると思ってる。大丈夫、わかってくれる人はいるよ」

「ありがとうございます」

少しだけ、嬉しそう。

「それとさ、赤石、話があって……俺もお前も、今回の件で、色々変われたと思う。仲直りもできたわけだし……俺達、また一緒に組まないか? もうわかってると思うけど、俺、今は相方いないんだ。課長に勧められてるけど、断り続けてて」

省吾のために、その席を空けていたんだ。

「ありがたい話ですが、今の俺には、代理ですが、照井がいます。それに……仲西の帰る場所が、無くなってしまうので」

それは拒絶ではなく、遠慮だった。

「そうか……あーあ、ふられちゃった」

「守内さんには、是非、後進の育成に取り組んでもらいたいです」

「何だそりゃ、お前だって後進だろ」

まだ教えたいことがあるみたい。わかりやすく不貞腐れている。

「あ、そうだ……お前が刺されたってニュースでやってて、うちの奥さん、見舞いに行きたいってさ」

「奥さんが? 構いませんけど」

了承するわりに、どこか不安そう。

「病院だから心配か? 大丈夫じゃないかな。最近は近場に散歩とか行ってるし」

「奥さん本人が大丈夫でしたら、俺は別に」

ちらっと、私を見た。守内刑事もそれに気付いた。

「お、二宮さん、そこにいたのか。うちの奥さん、連れてきても大丈夫そう?」

「大丈夫ですよ、その間私は隠れてますので」

「あー、うちの奥さん、多分、二宮さんのこと、気付いてるよ」

「え、どういうことですか?」

その瞬間、扉がノックされ、看護師が入ってきた。

「やっぱりここに。守内さん、検査の時間ですよ」

声が聞こえて、慌てて隠れた。幸い、見つからずに済んだ。

「あ、はい……じゃ、また」

短く挨拶し、病室を出ていった。


「ねえ、どういうこと? 守内刑事の奥さんって、何者なの?」

省吾に訊くと、少し悩んで答えた。

「すまないが、本人の許可なく話すことはできないんだ。それに、実際に会って話した方が、よくわかると思う」

「そうなの? ……わかった」

無理に訊くのも違うし、今は我慢しよう。

「にしても、俺が刺されたこと、ニュースになってるのか……家族から連絡が来てるかもしれないな、えっと、携帯は……」

「照井刑事が、持ってきてたよ」

病室の隅にまとめられた、省吾の荷物を指した。

傷に響かないように慎重に携帯を回収し、中を確認する。

「着信が入ってるな……」

呟いて、折り返し連絡した。

「久しぶり、ああ……大丈夫、一応生きてる。うん、刺された場所か? 左肩の辺りだ。だから、大丈夫だって――」


話をしている省吾を見て、あることを考えた。

私のことは、課長さんにもバレている。正直に話したって、守内刑事のフォローがあったって、きっと、無事では済まない。

でも、この方法なら、省吾を救えるかもしれない。

私にしかできない、この方法なら――。

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