電話
「君、随分、守内さんと会話が弾んでたな」
署へ向かう道中、車を運転する省吾が言った。
「え? そうだったかな。事件のことを話し合ってただけだよ」
「……まあ、そうだな」
あれ、何だろう、空気がぴりついている気がする。何か、まずいこと言ったかな……。
署に向かい、課長さんに報告すると、ため息をつかれた。
「あのねえ、あなた、捜査から外されたばかりなのわかる?」
「はい、これはお見舞いに行った先で、聞いた話です」
省吾は堂々と答えていた。
「……まあ、そういうことにしておくわ。樽見さん家族の所在、確認しとくわね」
話を終えて、デスクに座ると、隣に座っていた照井刑事が話しかけてきた。
「赤石さん、勇気ありますね」
「そうか? 間違ったことはしてないはずだが」
「そうかもしれませんけど……」
照井刑事の気持ちもわかる。正直、私もヒヤヒヤした。
……でも、こうなると、私のことを話した時、どうなるんだろう。
「あ、そうだ……赤石さん、ちょっといいですか」
照井刑事に呼び出され、使っていない会議室に移動した。
「これ、貰ってください」
差し出したのは、A5サイズの一冊の古いノートだった。
「以前父から、赤石さんの話を聞いたことある、と話したと思いますが……その時に、もし一緒に仕事をするようなことがあれば、これを渡したいと言っていたんです。ずっと赤石さんのことだとは知らず、渡すのが遅れてしまいました」
「倉光刑事が、これを俺に?」
受け取り、ページを捲ると、倉光刑事が過去に解決したと思われる事件の内容が、簡潔にまとめられていた。自分の捜査の仕方や、被害者へ聞き込みを行う際の注意点、違和感はすぐに調べろ、などなど……私から見ても、完璧なマニュアルだった。
「私も、同じの持ってるんです。コピーすればいいものを、わざわざ二冊分書いたんですよ」
照れくさそうに言った。
倉光刑事は、高校生だった省吾の言葉を信じていた。もしかしたら、途中で、警察官になる道を諦めていたかもしれないのに……。
「ありがとう、照井。大切にする」
嬉しそうに言った。
父親、かあ。お父さん何してるかな……。
「さて、守内さんも帰ってきましたし、私達は別の事件の捜査、行きますか」
「そうだな」
戻ろうとしたその時、照井刑事の携帯が鳴った。
電話だったのだが、相手を確認し、出ることなくフリーズした。
「どうした、出ないのか?」
「……すみません、捜査、行けないかもしれないです」
そして、画面をこちらに向けた。
「正希さんから電話が来ました」
画面には、確かに、金指正希と表示されていた。
「出てみてくれ。慎重にだぞ」
「はい。……もしもし」
少し話をした後、省吾に携帯を差し出した。
「赤石刑事に代われ、と」
「わかった」
携帯を受け取った。少しだけ、音が漏れて聞こえてきた――。
「赤石省吾さん? 守内さんのことは知ってるよね?」
軽快な話し方だった。金指刑事とよく似てるらしいけど、多分、中身は正反対だったのかもしれない。
「はい。昨日、救助しました」
「知ってる。テレビで見たし、何なら直接見てた」
直接ということは、あの時、工場にいたんだ……。
「どんな顔してた?」
「意識は無かったので、どんな顔と言われましても」
省吾が答えると、舌打ちが聞こえた。
「そうかよ、ビビって震えてるかと思ったのに」
「……正希さん、今どこにいるんですか」
「それ、答えると思う?」
ごもっともな返事だった。
「あんた達警察は真面目だよな、仲間のためなら全力出して捜査する。でも、兄貴の時はそうしてくれなかった、真犯人は今ものうのうと生きてるぞ」
「俺達は、あなたのお兄さんを殺害した真犯人を知ってます。恐らく、間違いないと思います」
「へえ、誰だよ」
「確証は無いので、まだ言えません」
「……」
正希さんは、きっとその真犯人に復讐するつもりだ。だから、省吾はその名前を伏せた。
「正希さん、もう罪を重ねるのは止めてください。お兄さんだって、そんなこと望んじゃいません」
そう言うと、電話口から乾いた笑いが聞こえた。
「兄貴が? 死んでるのに? 馬鹿なこと言うなよ、俺はな、兄貴の復讐のためにこんなことしてるんじゃないんだ、俺自身のためにやってるんだよ」
「……どういうことですか」
「あんたには関係ない。守内さんを助けられたからって終わりじゃないぞ、ターゲットはまだいる、真実を公表しろ、俺の要求はそれだけだ」
そう言って、通話が切れた。
「課長に報告しよう。正希さんは、まだ何か行動を起こす気だ」
急いで課長さんのところへ向かった。
俺自身のために、と正希さんは言っていた……嫌な予感がする。




