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刑事の俺と小人の君  作者: 颪金
刑事編 第八「拐われた刑事」
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お見舞い

翌日、出勤前に病院へ向かった。

だが、事件の話をする前に、俺はあの人に言わなければならないことがある。

受付で場所を聞き、病棟へ向かった。

「ここか」

病室は四人部屋。割り当てられたのは、窓側のベッドだった。

失礼します、と声をかけて入り、他の入院患者の視線を浴びつつ、窓側のベッドのカーテンを開けた。


ベッドの上に守内さんは……いなかった。


「え……」

途端に、嫌な予感が頭をよぎる。正希さんが見つかったという連絡は入っていない。もしかして、また?

「あれ、赤石?」

ふと、後ろから声がした。

振り返ると、コンビニの袋を片手に下げた守内さんが立っていた。

「どうしたんだよ、こんな朝早くに……すみませんね、うちの後輩です、気にしないでください」

他の入院患者に照れ笑いをしながら頭を下げている。

「どこに行ってたんですか」

「見ての通りだよ、下の売店。ここのご飯、デザート少なくてさ」

取り出したチョコレート菓子を早速開けている。こちらに向けてきたが、遠慮した。

「相変わらずですね……」

買ってきた菓子のラインナップを見て呟いた。その行動も含め、相変わらずだ。

俺の顔を見て何かを察した守内さんは「……場所変えるか」と小さく呟いた。


とりあえず、中庭に移動した。他に人はいなかった。

「で、何の用事なんだ?」

菓子を口に運びながら言った。

「七年前の事件の時、俺はあなたと対立しました……そのことをお詫びしに来ました。あの日、守内さんに言われたことを、つい最近、ようやく理解しました」

「それは、胸ポケットの彼女が来たからか?」

「そう、ですね。立場上逮捕されない、でも罪の意識はある。それに苦しむ人がいる……そのことに、俺は七年間気付きませんでした」

そして、深く頭を下げた。

「すみませんでした。それと……俺のこと、ずっと助けてくれて、ありがとうございました」

守内さんは数秒俺を見て、頭上げてくれ、と小さく言った。

「俺はさ、自分の言ってること、あってるとは思ってない。でも、間違ってもないって思ってた。物事に正解は無いし、人の価値観はそれぞれだから……犯罪者、特に殺人犯って、時に命がけでそれを行うんだ。文字通り、人生かけてる。でも、中には不可抗力とか、結果としてそうなった場合もある。七年前の事件なんて、まさにそうだろ? だから、罪の意識があるなら、許すべきだと思っていた。でも、それだけじゃ駄目なんだって、俺も気付いた。……俺、あの夜、金指刑事の弟に会ったんだ」

正希さんに、会っていた……。

「別の事件がニュースに取り上げられた時に、俺が映ってたらしくて、それで連絡してくれた。正希さんは未だに七年前の事件から吹っ切れてなかったらしくて、今の晃成君が何をしているかとか、事細かく教えてくれたよ。でも俺、そこで言っちゃったんだ、小学生が、もう社会人になるんだから、許してやったらどうだ、って」

深い溜息をついた。

「言っていいはずないよな、そんなこと……しかも、俺、似たようなことを七年前にも言ってるんだよ。正希さんは七年前から、俺のこと恨んでたらしい。そのことに気付いたのは、拐われた後だった。俺は犯罪者のことばかり考えて、被害者遺族に目を向けていなかったんだ。だから……俺も、ごめん。それと、助けてくれてありがとう、仲直りしよう」

スティックタイプのチョコレート菓子を俺に向けた。

本当、そういうところ……と言いたくなったが、そういえば、こういう人だったな、と思い直した。

「……いただきます」

菓子を受け取り、口に運んだ。……懐かしい味がした。




だが、話はこれで終わらない。

「それで、その……紹介したい人がいて」

「ああ、それもあったな。うーん……本当は復帰したら、と思ってたけど、その様子じゃ、多分、捜査外されたんだろうな……わかったよ」

出勤の時間が差し迫っていたが、俺が急ぐ様子が無いのを見て、捜査から外されたのを見抜いた。

改めて周りに人がいないのを確認し、りまを手のひらに乗せて差し出した。

「ほう……」

わかっていたからなのか、照井のような驚き方はしなかった。

「ちゃんと会って話すのは初めてだな。自己紹介するよ、俺、守内義巳。こう見えても捜査一課の刑事さん」

「あ、えっと、二宮りまです、四センチです」

「それは、何というか……」

何か言おうとして、ちらっと俺を見て口を噤んだ。迂闊なことは言えないと察したのかもしれない。こほんと小さく咳払いをした。

「とにかく……赤石のこと、いつも支えてくれてありがとう」

「そ、そんな、私の方が、助けられてて」

「りまの頭脳は本物です。守内さんより上かと」

りまの言葉を遮ってしまった。驚いて俺を見上げている。

「へえ? 俺も結構冴えてる方だけど? 今度勝負してみようか」

「冗談は止めてください、現場は遊び場じゃないんで」

言いながら、りまをポケットに誘導した。

「で、二宮さんのこと、課長に伝えるかどうかだけど……俺が復帰したら、そのまま伝えちゃっていいか? それとも、お前から言うか?」

「俺から言おうかと思います」

「そうか、それなら少し待ってくれ、俺も一緒にいる時にした方がいい。約束したんだ、赤石のことフォローするって」

「……わかりました、ありがとうございます」




こっちの話も、一応終わった。

「最後に、拐われた前日の夜の話なんですが」

「ああ、そのことな……」

近くにあるベンチに腰掛けた。

「あの日は、仕事を終えて帰った後に、正希さんから連絡が来たんだ。テレビで俺のことを見かけて、久々に連絡してみたって。で、二人で会わないかって言われた。だから一人で正希さんの家に行って、そこで晃成君のことを聞いて……まあ、さっき話した通りだ。で、その最中に、二宮さんから連絡が来た。この辺は、言わなくてもわかるよな?」

「そうですね」

あの日、守内さんは正希さんの自宅にいた。

「あの事件の話をしてる時だったから、そのきっかけになったスーパーってどうなったかなーと思って、帰る前に寄ったんだ」

「それであの時……で、何か見つけたんですか?」

「何も。七年も経ったしな、当時の従業員だって辞めてる人もいるだろうし。で、その後は帰った」

「奥さんを心配させないためですか?」

「そんなところだな。でも、なんとなく当時を思い出して、何かこう……しんみりしちゃって。お前と少し捜査した後だったし、最近墓参りにも行けてなかったから、挨拶くらいはしようと思ったんだ」

「それで、出勤前に墓参りに行ったんですね」

「花添えて、線香立てて、挨拶して……でもその時に、気付いたことがあってさ」

「気付いたこと、とは?」

「うーん……二宮さん、何だと思う?」

「はい……?」

りまが顔を覗かせた。……急に何を言い出すんだ。

「俺はさ、冷凍庫に閉じ込めたの、晃成君じゃあないんじゃないか? って思ったんだよ。それ、どうしてだと思う?」

「私は、二人の携帯電話に、晃成君が監禁したという旨のメッセージが何も残されていなかったのと、七年前の工場にあった防犯カメラには、死角があったという二つの点を考えました」

「なるほどね……俺は、七年前、工場の防犯カメラに映ってた晃成君の様子を思い出して、そう思ったんだ。どことなく、挙動不審だったんだよ。初めは、誰かに見つからないようにするためかと思った。でもそれにしては……()を気にしてるんだ」

「下……じゃあ、やっぱり、晃成君の他に、もう一人いたんですね」


「そう、防犯カメラにも映らない場所にいたのは、彼の弟の陽葵君だ」


それは、りまの考えとも、俺の考えとも一致していた。

「二人の刑事は、その子を守ろうとした……」

「俺も、そう考えてる。それを確かめようと思って、墓参りした後に工場に行った。防犯カメラは変わってたけど、その位置を見て、確信が持てたよ」

「それで、拐われたんですね」

俺の言葉に頷いた。

「後を付けられていたらしい。俺としたことが、気付かなくて……あ、指輪見つけてくれた?」

「はい、署で預かってます」

「よかった、誰かは見つけてくれると思ったんだよ」

「それで、その後は」

「スタンガンで気絶させられてたから、ところどころ記憶があやふやで……」

首の後ろを掻いた。見ると、ガーゼが貼られている。

「倉庫みたいな場所で目が覚めて、すぐに状況は理解した。正希さんもいたしな」

「……何か、会話はしましたか?」

「七年前の事件の犯人が小学生だったという結論を、撤回しろって言われた。正希さんは、母親が犯人だと思ってたらしい」

照井と同じだ、と思った。そういえば、守内さんは、照井が倉光刑事の娘だと知ってるのか? ……いや、そこは後にしよう。

「でもな、事件発生時、母親にはアリバイがあった。そして、息子二人にはなかったんだ。まさか小学生が、って思うかもしれないけど……そういうことなんだよな」

「被害者遺族として、信じられなかったんですね……陽葵君が犯人だということは、伝えたんですか?」

「いや、伝えなかった。信じてもらえなかっただろうし」

確かに、自身を守るための言い訳だと思われたかもしれない。

「その後、もう一度気絶させられて、で、気付いたら病院。その間のことはわからないな」

ふうっと息を吐いた。

「でも、あの時と同じ冷凍庫にいたって聞いて、何ていうか……ゾッとしたよ。倉光刑事も、金指刑事も、どんな気持ちだったんだろうな……わからないけど、怖かったし、信じられなかったと思う。小学生、しかも、確か当時八歳だったかな」

「大人二人を殺せるとは、思えないですよね……」

りまの言葉に小さく頷いた。

「俺はこの事実、正希さんと望美さんに言うべきだとは思う。でも、かなり慎重に話す必要がある。赤石、お前はどう思う?」

「そうですね……」

照井のことを思い出した。

「案外、あっさりと信じる可能性もあります」

「それもあるけどな、どうするかな……」

悩んでいるみたいだ。いずれは明らかになることかもしれない、でも、タイミングを計る必要があるだろう。

「守内刑事、その……話す件も大事なんですけど、私、気になることがあって」

「気になることって?」

「正希さんの行動が、不可解だなって思うんです。捜してる時、守内刑事の車が路駐されてるのを見つけたんです。それを教えてくれたのは、奥さんでして」

「ああ、聞いたよ、俺の車があって、それと赤石に送られた写真から、場所を特定したって」

「それもそうですし、赤石刑事……省吾に送られた最初の動画も、何故動画だったのか、どうして場所を移動したのか、そもそも何で最初は倉庫だったのか……行動に謎が多いんです。何か、わからないかなと思いまして」

「そうだなあ……俺の命を取る気まではなかったのかもな。あくまでも狙いは真実の公表で、殺人じゃない。俺に死なれちゃ罪が重くなるし……だから、画像よりは場所を特定されやすい動画を送ったり、車を路駐したりして、見つけてもらうように仕向けたんだ。ただ……恐怖は、味合わせたかったのかもしれないな」

「冷凍庫に閉じ込められる恐怖、ですか?」

「そう。俺が冷凍庫内で目を覚まして、慌てふためく様子でも見たかったのかもしれないな」

「そういうことだったんですね……」

納得のいく説明だったらしい。

「俺からも聞いていいかな、二宮さん」

「は、はい、何でしょう」

「正希さんは、この後何をすると思う?」

「何をする……」

少し考えて、答えた。

「可能性として、二つ考えられます。まず、目標――真実の公表が達成されなかった場合、それを諦めるとも思えないので、また何か行動に出ると思います。正直、守内刑事も、まだ安全とは言い切れない気がしてます……あと、照井刑事に……省吾も」

不安そうに俺を見上げた。確かに、俺や照井が狙われる可能性も、十分にある。

「それともう一つ、目標が達成された場合です。この場合、公表はされてないので、真実に気付いたと言った方がいいですね……そうなると、仇討ちに行っても、おかしくないかも……」

「まさか、陽葵君が狙われている?」

「あくまでも、可能性です」

「いや、ないわけじゃないよ。大至急、陽葵君の所在を確認した方がいい。このこと、課長に伝えてくれ」

「わかりました、失礼します」

立ち去ろうとして、あ、と後ろを振り返った。

「お菓子、食べ過ぎないでくださいよ」

「わかってるよ」

再度会釈し、病院を後にした。

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