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刑事の俺と小人の君  作者: 颪金
刑事編 第八「拐われた刑事」
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工場

「照井刑事、訊いてもいいですか? 倉光刑事が亡くなった時のこと、どう伝えられたのか……それと、金指刑事のご家族のこととか……」

工場へ向かう道中、俺の車を運転する照井に、りまが恐る恐る訊いた。

「あの時は、私は警察官になったばかりで、まだ交番勤務でした。父の事件を聞いて、すぐに駆けつけて……金指刑事のご遺族とも、その時初めて会いました。お互いに憔悴してて、その時のことは、あまりはっきりと覚えてないんですが、弟さんが取り乱してて、それを奥さんの望美さんが宥めていたことだけは覚えています」

その言葉を聞いて、俺も当時のことを思い出した。小学生が犯人と聞いて、金指刑事の家族、特に弟の正希さんが、そんなはずはないと取り乱していた。その時、倉光刑事の家族には会わなかったから、照井が娘だとは知らなかった。

「金指刑事には、弟がいたんですね」

「はい、歳の近い、よく似た弟さんでした」

「弟……」

りまが何か考え込んでいる。

「思ったんだけど、守内刑事を拐った犯人の要求は、七年前の警察官殺人事件の真実の公表だから、事件の解決の仕方に、納得いってないのかな、と思ったの。もしそれで真実が明るみになって、得をする人物って言ったら、やっぱり被害者遺族かなって……」

「被害者遺族、か」

横目で照井を見た。

「ということは、私も容疑者に数えられるということですね」

「……ごめんなさい」

申し訳なさそうに言うりまに、照井はあっけらかんと話した。

「いいですよ、この場合は当然です。昨日の夜は家にいましたが、家族の証言は信憑性が低いんですよね。だから、アリバイはありません。朝は七時には家を出ました。ドライブレコーダーを見て頂ければわかります」

「わかった、後で確認させてもらう。……そうなると、金指刑事のご家族も怪しくなるな」

奥さんと、弟がいるという話だった。

「それなんですが、私、数日前に望美さんと話をしてるんです」

「え、そうだったのか?」

「はい。その事件がきっかけで知り合って、遺族同士、支え合った仲といいますか……近々一緒に墓参りに行こうって、話し合っていたんです。それで、その連絡した時に言っていたんですけど……その事件の加害者、晃成君ですかね、少年院を出て、今度就職するらしくて」

「就職……そうか、あの時に十二歳なら、もう十九歳になるのか」

「就職活動、だいぶ苦労したらしいですけどね。七年前のことが、尾を引いてるのかもしれないですね」

「……照井、望美さんは、どうしてそこまで知ってるんだ?」

「そりゃあ……夫の仇ですから、動向はチェックしますよ」

「……」

彼が小学生の頃から、ずっと? と訊こうとして、止めた。聞くまでもない、家族を奪われたんだ。

「彼女の名誉のために言いますが、悪評は広めてませんよ。勿論、私も」

「わかった。……念の為、後でアリバイは調べさせてもらおう」


工場に到着してすぐ、あることに気付いた。

「冷凍庫が、変わってる……」

あの時の冷凍庫が、別のタイプのものに変わっていた。

「そりゃそうでしょ」

言いながら現れたのは、中年の男性……工場長の淵上さんだった。

「お久しぶりです、七年ぶりですね」

「もうそんなに経ちますか、私はつい昨日のことのように思い出しますよ」

淵上さんは、遺体の第一発見者だ。出勤し、冷凍庫を開けたところ、遺体を見つけた。動揺しながら聞き込みに応じてくださっていたのを覚えている。

「で、今日は何を?」

「実は、七年前の事件の再捜査をしています」

「事件の再捜査? 小学生がやったって聞きましたけど」

「そうなんですが、ちょっと訳ありでして」

「まあ、何でもいいですけど……でも、あの時警察に話したことが全てですし、ここも散々調べられましたから、もう何も出ないと思いますよ。従業員の邪魔にならない範囲でなら、自由に調べて大丈夫です」

「ありがとうございます」

工場内部と、敷地内の隅にある冷凍庫の中と周辺、工場を取り囲むフェンスの周辺を調べて回った。冷凍庫は、物こそ変わってはいるが、置いてある場所は、七年前と同じだった。

「ここで、殺されたんですね」

冷凍庫を見上げた照井が言った。

「午後十時に、小学生に……どんな気分だったんでしょう、想像したくもありませんが」

「……」

その言葉に、どう返せばいいのか、わからなかった。

「あれ、何か光らなかった?」

りまが言った。冷凍庫近く、フェンスを挟んだ工場の敷地外の茂みで、何か見つけたらしい。

「これは……」

それは、指輪だった。裏には『Y・M 5/25』と彫られている。

「……あの人のだ。イニシャルもあってるし、五月二十五日は結婚記念日、間違いない」

「ということは、守内さん、ここにきてたということですか?」

「指輪なんて、落としたらすぐにわかるし、結婚指輪なら尚更……拐われる前に残したのかもしれないな」

淵上さんに頼み、防犯カメラを調べさせてもらった。

「いくらでも見てってください、あの日から増やしたんですよ、元々あったんですけどね? 死角があることがわかって、防犯設備も強化しました……本当、物騒な世の中になりましたねえ」

言いながら、昨日の夜から今朝にかけての映像を見せてもらった。

従業員が出勤する前、フェンスの近くで誰かと話している守内刑事が映っていた。

「相手は……帽子を被ってて、誰だかわからないですね」


少し背の小さい、痩せた人物。守内刑事はその人物と何か話した後、口論になり、スタンガンか何かで気絶させられていた。

暫く倒れていたかと思うと、その人物が守内刑事の車を近くに止め、その身体を引きずって車の後部座席に乗せた。

乗せられる寸前、守内刑事が、朦朧とした意識の中だろう、指輪を外して茂みに放り投げているところが映っていた。時間は、七時四十五分だった。


「指輪、誰が見つけてくれると思ったんですね……」

「この人物を調べる必要があるな。それと、七年前の事件か」

流石に七年も経つと、証拠が何も見つからないな……。

その時、胸ポケットに衝撃を感じた。りまが呼んでいる。近くに淵上さんがいるから出てこられなかったのだろう。

カメラの映像の提出をお願いすると、快く応じてくれた。「もー、また事件……お祓いでも受けた方がいいのかな」とボヤく淵上さんに礼を言い、工場を後にした。


「どうした?」

車に戻って胸ポケットを覗いた。

「……私、もしかしたら、七年前の真犯人、わかっちゃったかも」

「本当か? 真犯人ってことは、晃成君は犯人じゃなかったってことか?」

「うん……でも、正直私も信じられないっていうか……省吾に話す前に、先に照井刑事に話してもいい?」

「え、あ、ああ、わかった」

どうして俺に伝えないんだ? まあ、言われた通りにするか……。

りまを照井に預け、車から降りた。


俺も考えよう……りまは何をきっかけに、事件の真相に気付いたのか。

りまは恐らく、防犯カメラの映像を見て、真相に気付いた。だとしたら、七年前の映像――この場合は資料に載っていた写真だが――と、今さっき見た映像、二つの違いに、彼女は気付いたのかもしれない。

「……情報がないことが情報、か」

呟いた。七年前の映像には、無かった情報……。

車から離れ、防犯カメラの位置を確認する。あれから時間が経ち、カメラも最新のものになった。

映していた場所は、倉庫の入り口付近から、建物全体へ……そうだ、範囲が広くなっている。

範囲が広くなったということは、逆に言えば、七年前は死角があったということ……淵上さんも、確かそう言っていた。

当時は死角があった……決定的な何かが、画角に入らなかった?

「……まさか」

頭の中で関係者を総浚いし、唯一これに該当する人物がいた。防犯カメラに映らず、あの時間に、冷凍庫に向かうことができる人物……。

確かに、りまが俺に隠し、一旦照井に伝える、という判断も頷ける。多分これが事実なら、俺はいくらか動揺していたかもしれない。実際、今、動揺している。


二人に伝えに行こう。そう思ったその時、携帯が鳴った。

白紙のメールで、画像が添付されていた。

「これは……」

それを見た瞬間、車に駆け込んだ。

「まずいことになった」

まだ話していた二人に、メールに添付されていた画像を見せた。

「これって……!」

照井もりまも、息を呑んだ。


それは、見覚えのある冷凍庫内で、座った状態で椅子に縛り付けられている、守内刑事の画像だった。

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