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刑事の俺と小人の君  作者: 颪金
刑事編 第八「拐われた刑事」
62/76

過去の事件

七年前のスーパー店員傷害事件。

あれは、時効こそ、まだ迎えていないが、捜査は止まっていた。

署に戻り、資料を探すと、いくつか分厚いファイルが出てきた。

当時、被害者の新元さんは、アルバイト中に、客である樽見さんから、商品の弁当に半額シールを貼るように言われる。だが時間にはまだ早く、できない旨を説明したが、樽見さんは聞き入れず強引に貼らせようとした。

困った新元さんは咄嗟に警備員を呼び、樽見さんを店から摘みだした。

その後、新元さんは勤務を終え、帰宅するためにスーパーを出た瞬間、何者かに後ろから殴られた。

所持品は盗られておらず、ただ殴られただけ。前述の状況から、新元さんは、樽見さんが犯人だと主張した。

だが現場付近に防犯カメラの類は無く、目撃者もいないことから、警察は逮捕に踏み切れなかった。

そこで、倉光刑事と金指刑事が、捜査に乗り出した。

だが、捜査の最中、当時小学生だった樽見晃成君に、業務用の冷凍庫に閉じ込められ、亡くなった。

そして結局、証拠を見つけることは、できなかった……。


「昨日私が聞いた話と、だいたい同じだね」

署の資料室で分厚いファイルを見て、りまが言った。この後、俺達も捜査に参加して、外されている。あれから、何も進展がなかったらしい。

「これ、冷凍庫の写真?」

ファイル内に、二人の遺体が見つかった冷凍庫の写真があった。遺体は運ばれた後だったため、写っていなかった。

「ああ、この中で、亡くなってたんだ」

中には棚があり、沢山の食材が並んでいる。窓はなく、扉や壁は分厚かった。

「助けを、呼んでたんだよね」

「そうだな……」

携帯にあった、発信履歴。助けを呼ぼうとしていたことは明らかだった。だが、この分厚い壁だ、中は電波が届かなかったかもしれない。

「でもさ、おかしいよ」

写真を見たりまが言った。

「確かに、この中では、助けを呼ぶことはできなかったかもしれない。でもさ、犯人の名前を残したりすることはできたよね? 携帯は、閉じ込められていても、数分は生きてたと思うし」

「……確かに、そうだ」

言われてみればそうだ、携帯は生きていた。助けは呼べなくても、「樽見晃成君に閉じ込められた」とメモを残すくらいはできたはずだ。

「母親を庇ってる、とは考えられませんか?」

食い入るように資料を見ていた照井が言った。

「母親……樽見さんか? あの二人が、樽見さんを庇ったというのか?」

「見てください、ここに書いてあるんですが、樽見さんはシングルマザーです。あの人が逮捕されてしまえば、息子二人には親がいなくなってしまいます。ですから庇った、そう考えられませんか?」

「それなら、傷害事件の捜査なんてしないと思うが……」

「ですから、傷害事件の捜査をしながら、見つけた証拠を潰していたとしたら?」

「そんな、まさか、あの二人に限って、そんなことするわけがない。君の考えすぎだ。第一、それならどうして、晃成君は自分が閉じ込めたと白状したんだ?」

「母親が、刑事二人を殺したことに気付いたんです。でも、捕まれば、自分達から母親がいなくなってしまう。だから、自分だと言ったんです。小学生ですから、逮捕はされないことを何かで知ったんですよ」

「それなら、あの防犯カメラの映像は何だ? こっちのページにあるだろう、防犯カメラには、倉光刑事と金指刑事を倉庫へ案内する晃成君が映っている」

「たまたま母親が映っていなかっただけです。本当は、この近くに母親がいたんですよ」

「それなら、母親の犯罪を止めるべきだろう、犯罪をしなきゃ、自分達から親がいなくなるなんてことは無いんだから」

「それは、母親が息子の目を盗んで、気付いたら冷凍庫に二人を――」

「照井!」

咄嗟に肩を掴んだ。ビクッと身体が跳ねた。

「落ち着いてくれ、言ってることが滅茶苦茶だ」

まるで、母親が犯人だと決めつけるような言い方だった。

「す、すみません……」

近くのパイプ椅子に、崩れるように座り込んだ。

「照井、霊園にいた時から、様子が変だぞ、何か思うことがあるなら、言ってくれ」

同業者が拐われて、神経質になっているのかもしれない。吐き出した方がいいだろう。

「……倉光刑事のお墓と、亡くなった現場の写真を見て、動揺してしまって」

確かに、生きたまま冷凍庫に閉じ込められるなんて、想像するだけでも恐ろしい。

「殺人事件の時効は無くなったので、母親がもし犯人なら、今からでも逮捕できるのではないか、と考えてしまいました」

「それは、そうかもしれない。でも、資料をよく見てくれ、二人が冷凍庫に閉じ込められたあの時間、樽見さんが自宅近くのコンビニに買い物に来ているところが、防犯カメラに映っている。彼女に犯行は不可能なんだ」

「そう、ですね」

どうにか、納得してくれたようだ。

「でも、それなら何故、犯人の名前を残さなかったんでしょう。母親を庇ったのではない、としたら……晃成君を庇ったのかもしれないです」

「そう思った根拠は何だ?」

「時々、加害者に同情するような一面があるんです」

「一面って、倉光刑事と知り合いだったのか?」

よく知ったような言い方だった。

「あ、それは、その……」

俯いて、答えた。

「倉光刑事ことは、よく知ってます。……言ってなかったですけど、私、母子家庭でして、両親は、私がまだ小学生の時に離婚してます。円満離婚ってやつでして、離婚後も、父とはよく遊んでいました。照井は母方の苗字で、離婚前は倉光を名乗っていました」

話を聞いて、気付かないうちに鳥肌が立っていた。まさか、そんなことが……。


「倉光刑事――倉光毅は、私の、父です」


「……倉光刑事と初めて会ったあの日、俺と同じ歳くらいの子供がいると話していたが、君のことだったんだな」

「どうですかね、兄や弟がいるので、そっちのことかもしれないです。私の方は、赤石刑事のこと、聞いてましたよ。まさか、父の事件の捜査をしてたとは、思いませんでしたけど。父の事件は、かなりショックで、家族も塞ぎ込んでしまって……当時の父の気持ちを思うと、不憫でならなくて……動揺してしまい、すみませんでした」

「そうだったのか……それなら、尚更駄目だろう、お父さんを疑ってしまっては……犯罪者を庇うだなんて」

そう言ったが、首を横に振った。

「娘から見ると、あり得ない話じゃないんですよ」

「……そうか」

一度会っただけの俺と、長い付き合いのある娘では、説得力が違う。

「本当に、そうなのかな」

資料室の机の上、資料を眺めていたりまが言った。

「何か、気になるのか?」

「うん……省吾の高校生の時の話や、金指刑事の手帳の中身を見て思ったんだけど、二人共、かなり頭が切れるよ。多分、守内刑事くらい。それくらいの実力者なら、晃成君に呼び出された時、防犯カメラにその子が映っちゃうことくらい、見抜くと思うけど」

「確かに、そうだな」

あの工場の近くには、かなり目立つ位置に防犯カメラがあった。

「それなら、例え携帯に犯人の名前を残さなくたって、いずれわかっちゃうよ……ねえ、その工場、もう一度行くことってできる?」

「俺は大丈夫だが……」

横目で照井を見た。

「私も行きます。ちゃんと、事件と向き合います」

立ち上がり、真剣な表情で言った。

「よし、行こうか」

りまを胸ポケットに誘導した。……その時だった。

「ああ、ここにいたのね」

課長が入ってきた。……危なかった。


「赤石君、こんな時だけど朗報よ。たった今、病院から連絡が来て……仲西君が、目を覚ましたそうよ」

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