情報
では、りまが電話をかけたあの時間、守内刑事はどこにいたのか。そして、それより前に電話をかけたのは誰だったのか――。
「奥さんも、通話相手まではわからないだろうし、調べようが無いな」
「周囲の防犯カメラにも、それ以上は映ってませんでしたし……どうしましょう」
りまが聞いた、電話中の物音だけでは、場所を特定するにも限度がある。
「奥さんは、守内刑事がどこに行ったかは、住所も含めてわかっていた、つまり、伝えてたってことだよね。それなら、その前にどこにいたのかも、伝えてるんじゃないかな?」
「いや、それは無い」
りまの言葉を否定した。
「え、どうして?」
「あの人は、奥さんにどこに行くかは伝えていないはずだ」
「伝えてないの? じゃあどうして、奥さんは、守内刑事がスーパーに行ってることがわかったの?」
「それはだな……何といえばいいのか……奥さんは、あの人の居場所は、半径約五キロ以内なら、どこにいてもわかるんだ」
スーパーは、守内刑事の自宅から、ギリギリ半径五キロの場所にある。
「どういうこと? 発信機でもつけてるとか?」
「そういうわけじゃない、とにかくわかるんだ」
また、ふわっとした言い方になってしまった。……こればかりは、本人の許可なく言うことはできない。
「わ、わかったよ、そういうことにする……じゃあ、守内刑事は、私が電話をかけた時、自宅から半径五キロより離れた場所にいたってことだね?」
「そういうことになる。それから、移動して、このスーパーに来たんだ。奥さんはそれを言っていた」
「で、それよりも前はどこにいたのか……窓を開ける音と、車の音、それと守内刑事の高所恐怖症を考えると、多分、マンションから五キロ以上離れた、どこかの建物、それも一階だとは思うんだけど、そんな建物、沢山あるよね……」
りまも、さすがに、それだけでは特定しかねるようだった。
その時、俺の携帯が鳴った。
「赤石です」
「私よ」
相手は課長だった。
「今、科捜研から連絡が来て、例の動画、作られたものじゃなくて、本物だったわ。でも、編集で音声が切られていて、場所の特定はもう少し時間がかかるって」
「わかりました、ありがとうございます」
照井と、りまにも情報を共有した。昨日の足取りもそうだが、今どこにいるのかも、合わせて考えよう。
「音声が切られていたということは、逆に言えば、音声から特定できる場所、ってことになるね」
「確かに、それを恐れて音声を切ったとも考えられるな」
「でも、場所を特定できる音声も、色々ありますよ、踏切、工事現場、音響式信号機……それだけで特定はできないです」
守内刑事がどこに行ったのかも、どこに監禁されているのかも、わからない。
「これ以上手がかりが無い……少し前なら守内さんに訊けたのに、その肝心の守内さんがいないなんて」
「照井刑事!」
いらだってきていた照井に、りまが声をかけた。身を乗り出したものだから、咄嗟に手を差し出した。
「考え方を変えるんです、情報が無いという情報がある、って考えるんですよ」
「情報が無いという、情報……」
りまの言葉を復唱している。昔読んだ本に、そんなことが書いてあったような気がする。
「全ての情報には、ちゃんと理由があるんです。まず、情報が無いという情報があるとします、次に、どうして情報が無いのか、それを考えます」
「それは、私達が見つけらてないからで」
「じゃあ、どうして見つけられてないんでしょう? もしかしたら、守内刑事が残さなかった、残せなかった、残したくなかった、残したけど消されてしまった……色々考えられますね」
情報を、見つけられていない……そうだ。
「車もだ、あの人の車を見つけていない」
俺の言葉に、りまが頷いた。
「奥さんは、今朝も車で出たって言ってた。ということは、守内刑事の車は警察署にある? いや、出勤前にどこかに寄って、そこで拐われた? こっちも、色々考えられるよね」
「でも、署に守内さんの車はありませんでした」
「ということは、どこかに寄った……奥さんが何も言わなかったってことは、警察署に行く道と同じルートかもしれない。で、途中でルートが変わって、五キロ以上の場所」
「何かありましたっけ……スーパーは、五キロ圏内ですし」
署と同じルート、五キロ以上、車で行ける……もしかして。
「一つだけ、心当たりがある――」
俺のナビで、照井に運転してもらい、到着したのは、とある霊園だった。
「ここなら、条件に合致する」
駐車場に車を停め、真っ直ぐ向かう。
到着したのは、「倉光家之墓」と彫られた墓。
ここに、あの刑事が眠ってる……。
「誰か来た痕跡があります」
真新しい菊と百合の花が、花瓶に生けてあり、燃え尽きた線香もあった。
「こっちも確認しよう」
場所を移動し、別の墓へ向かう。こちらには「金指家之墓」と彫られている。
「同じ花が生けてありますね、線香も同じ……」
霊園の事務所にて、防犯カメラを確認したところ、朝の七時三十分に、守内刑事は車でここを訪れていた。
「あの人は、今朝ここに来ていて、その後に拐われた可能性がある」
「ねえ、省吾……思ったんだけど、守内刑事を拐った犯人の要求は、七年前の警察官殺人事件の真実を公表することなんだよね?」
「そうだな、あのスケッチブックには、そう書いてあった」
「その文言が、ずっと引っかかってて……再捜査でもなく、真実って、どういうことなんだろうって」
「真実も何も、あの事件は、当時小学生の樽見晃成君が、二人を冷凍庫に閉じ込めて殺害した、というのが真実のはずだが……」
「うーん……」
腕を組んで首を傾げた。何か、納得いかないらしい。
「……赤石刑事、その事件のこと、調べませんか」
照井が言った。いつになく、真剣な表情だった。
「七年前の、あの事件を、か?」
「はい。スーパーの傷害事件から、です。守内さんの不可解な行動も、拐われた理由も、恐らくはその事件から始まってます」
そう言うと、俺の返事を聞かず、車へ戻っていった。




