足取り
「さて……こんなことになるとはな……」
科捜研に動画を渡した後、家族に連絡を取って、昨日何をしていたか、今朝はどうしていたかを確認することにした。
「ねえ、守内刑事の家族って誰がいるの? 連絡先、知ってるの?」
課長が席を外したので、りまにも出てきてもらった。
「ああ、あの人には、奥さんがいる。以前組んでた時に連絡先を交換して、そのまま携帯に入れてある。変わってなければ繋がるはすだ」
メッセージアプリを開いた。
「電話じゃだめなの?」
「あの奥さんの場合は、この方がいいんだ」
文面はどうするか……久々だからな……。
とりあえず、「お久しぶりです、赤石です。突然のことで申し訳ありませんが、ご主人が事件に巻き込まれたようです。昨晩何をしていたか、今朝出勤まで何をしていたか、変わったことなどなかったか、教えていただけませんか?」と送った。
返事は、すぐに来た。
「お久しぶりです、元気そうでよかったです。
夫の件ですが、そんな気はしてました。彼からいつもの連絡が無かったので、何かあったのかと。
昨晩は、帰って夕食を済ませた後、テレビを見ていたら電話が鳴って、その対応をしていました」
電話は、りまがしていたものだろう。
「その後、二、三時間程、車で出かけていました。今、場所の住所をお送りします。今朝はいつも通りに出ていきました」
「二、三時間……その最中に、何かあったのかもしれないね」
りまの言葉に頷きつつも、俺は「ちなみに、ご主人の今の居場所、わかりませんか?」と訊いてみたが、「離れすぎているので、厳しいです」と返ってきた。
そのすぐ後、住所を送ってくれた。
「この場所は……」
記された場所は、七年前の、あのスーパーだった。
どうして、そんな場所に? と困惑していると、次いでメッセージが届いた。
「買い物とは思えません。恐らく、七年前の事件に関係があると思われます。私の方でも彼を探してみますので、何かわかりましたら連絡します」
お願いします、と返して、携帯をポケットに突っ込んだ。
「あの場所に行こう。何か手がかりがあるかもしれない――」
照井に車を飛ばしてもらい、スーパーに到着した。
店員に話を聞こうとしたが、このスーパーは午後九時には営業を終えていて、守内刑事が来た頃には、もう店員はいなかった。
近隣の防犯カメラの映像では、午後十一時にスーパーを車で訪れた後、三十分程周囲を徒歩で散策している様子が映っていた。
試しに同じルートを散策してみたが……気になるものは、特になかった。
「時間、あの事件と酷似してますね」
照井が言った。確かに、七年前は午後十時、昨日守内刑事がここに来たのは、午後十一時……ぴったりではないが、似ている。
まず、どうしてそんな時間に来たんだ? スーパーは当然閉まってる時間だ。いや、買い物が目的ならここまで来る必要はない。マンションの近所にもスーパーはあった。
それに、周囲を散策していたが、日中の方が散策はやりやすいと思う。明らかに不自然だ。
守内刑事の、不可解な行動……考えよう、あの人とは、五年間一緒に組んでたんだ。俺にも何か、わかるはずだ。
「りまさんは、どう思いますか?」
照井が声をかけるが、返事がない。
「りま」
胸ポケットを広げた。ハッとして顔を上げた。
「な、何?」
「ですから、どう思いますか?」
「あ、えっと……守内刑事は、私と電話した後、ここに来て何か調べてた。で、その時に何かがあって、その時は大丈夫だったけど、翌朝出勤前に、拐われた……だから、きっかけは、私の電話、かもしれない……」
次第に声が小さくなった。
「……もしかして、自分が電話をかけなければ、とか、思ってるのか?」
小さく頷いた。
「それは、仕方がないと思いますよ? 仮にりまさんの電話がきっかけだったとして、守内さんがこうなること、誰もわからないですよね?」
照井が声をかけたが、表情は晴れない。
「りま、聞きたいことがあるんだが、昨日あの人と話をした時、あの人の周りに、他に人はいたか?」
人がいたなら、何か変わった様子を見ているかもしれない。
「周り……電話する前はいたかも。私と話をする直前、わざわざ一人になるように、移動してくれてたから」
「移動したのか?」
「うん、外に。あ、マンションだから、ベランダかな……」
「その時に、おかしな様子はなかったか? 声が震えてた、とか」
「特に普通だったよ」
ベランダに出て、普通だった?
「すまない、確認なんだが、ベランダに出たんだな?」
「うん……窓を開ける音と、その後風の音がして、もう少し後に車の音がしたから、ベランダかなって」
「それは、あり得ないな……あの人の家はマンションの五階で、あの人、高所恐怖症なんだ」
「え、そうなの?」
「ああ、以前、別の事件の捜査で、高層マンションに聞き込みに行ったことがあったんだが、頑なにベランダやバルコニーには近付こうとしなかった。自宅でも無理だって、その時に言っていた」
「下の階に引っ越していたというのは、考えられませんか?」
照井の言葉を、俺はすぐに否定した。
「あの人はな……愛妻家なんだ。奥さんを守るために色々調べて、結果あのマンションのあの部屋に決めたんだ。今更階を変えるとは思えない」
自分の恐怖症を押し殺してまで決めた部屋だ。奥さんを守るためなら何でもすると、よく聞かされていた。
「待ってください、じゃあ守内さんは、昨日どこにいたんですか?」
照井が焦ったように言った。奥さんのメッセージと、矛盾している?
「……ちょっと待っててくれ」
奥さんに、再度メッセージを送った。
そして、すぐに返事が来た。
「刑事の妻でありながら、先程の文には色々と情報が足りなかったですね、ごめんなさい、私も焦っているみたいです。思い出しながらになるので、矛盾や記憶違いもあると思いますが……
昨晩、夫は午後六時半に帰宅して、七時に夕食、九時頃にテレビを見ていたら電話がかかってきました。
その後、九時半に車でマンションを出て、先程の住所の場所へ、それから午前零時に帰宅してます。疲れていたみたいで、すぐに寝てしまいました。朝は、午前六時に起きて、朝食と身支度後、七時に車で家を出ています」
ありがとうございます、ご自愛くださいと返し、今来たメッセージをりまと照井に見せた。
「ということは、守内さんが家で取った電話、りまさんがかけたものじゃない、ってことですか」
「しかも、私がかけた時、守内刑事は自宅にいなかった……」
「そう、だから、君がきっかけとは限らない、ということだ」
防犯カメラの映像と合わせて考えると、確かに、りまの電話で、スーパーには行ったかもしれない。だが、それ以上前から、守内刑事は出かけていた。拐われた理由はそこにあるかもしれない。
「ありがとう、省吾……」
漸く表情が晴れた。とりあえず、一安心だ。




