気持ちの変化
「当時、晃成君は小学六年生、十二歳だった。確かに、少年院に入ることはあっても、逮捕はできない年齢だ。でも、それじゃあ、殺された二人が無念でならないと思ったんだ。あの人のことは、それからずっと眼中に入れないように過ごしてきた。仲西と組んでからは、言葉を交わすことさえ、無くなった」
話を終えた省吾は、がっくりと項垂れた。私の心中は複雑だった。取り調べをする刑事ってこんな気持ちなのかな、と、場違いなことを考えてしまった。
羽場さんの無実を信じていたのは、過去の自分と重ね合わせていたから。その過去の自分を救ってくれた刑事に憧れて、同じ職に就き、再会できたのは、亡くなった後だった……想像を絶する話だった。
でも、だからこそ、気になることがある。
「省吾は、どうして、私を逮捕しなかったの?」
「……やっぱり、気になるか」
訊かれるとは思っていたらしい。
「正直に言うと、君に直接会うまでは、俺はあの時と同じ、犯罪者は逮捕すべきという考えだった。でも、君に会って、君の過去を聞いて、それを話す君を見るうちに、意識が変わっていった。……君が、俺の意識を変えてくれたんだ」
「え、わ、私が?」
意外な答えだった。
「犯罪をしても、立場上、逮捕されない。でも、罪の意識はある。どうか、捕まえてほしい……そう思ったんじゃないか?」
「うん、そうだね……」
確かに、あの時の私はそう考えていた。
「その気持ちは、君を見ていると、よく理解できる。あの時のあの人も、こんな気持ちだったのかもしれないな」
ため息をついて、呟いた。
「……俺は、馬鹿なことをした」
守内刑事とは、価値観が違うと決めつけて、これまでまともに自分と向き合ってこなかった。それが、過去を話すうちに、頭が整理されて、自分を客観的に見れるようになったらしい。今の省吾は、守内刑事の立場になれる。……これなら、行けるかもしれない。
「省吾、余計なお世話だってことはわかってる。でも、ちゃんと守内刑事と話し合ってほしい」
「話し合う、か」
「今後、どんな事件があるかわからないし、正直、私だけじゃ限度があるというか……守内刑事くらい賢い人が捜査に加われば、かなり頼もしいよ」
「わかった。明日ちゃんと話をする。その上で、俺自身で、課長に君のことを話す。どんな処分も受け入れよう。君と話をしたおかげで、気持ちがスッキリした。ありがとう……そろそろ眠れそうか?」
「うん……おやすみなさい」
もし、これで省吾が刑事を辞めるようなことになったら、その時私はどうしよう……。
省吾はスッキリしたみたいだけど、私はむしろ、モヤモヤする結果になった。
翌朝、いつも通りの時間に出発し、署に向かった。
「おはようございます」
すぐ、照井刑事に挨拶された。
「おはよう。……ちょっといいか?」
呼び出し、省吾と二人きりで話をした。
「実は、あの人と、ちゃんと話をしようと思う。りまのことも、課長に報告するつもりだ」
「そうでしたか、覚悟、決めたんですね。……あの、私からも訊いていいですか、昨日の事件こと、なんですけど」
「何かあったか?」
「ちゃんと聞いてませんよ、羽場さんの無実に拘った理由」
「ああ、そのことか、実はな――」
昨日、私に話した内容を、そのまま照井刑事にも話した。
「倉光、金指……」
二人の刑事の名前を、照井刑事は何度も呟いていた。
「七年前のことだからな、君は……警察官になった頃くらいか。もしかしたら名前は聞いていたかもしれないな」
「……そうですね。話してくれて、ありがとうございました」
その後、デスクに戻ったが、守内刑事はまだ来ていなかった。
「おかしいわね、もうとっくに時間を過ぎてるのに……今まで遅刻なんて、無かったわよ」
課長さんも首を傾げている。
その時、省吾の携帯が鳴った。メールが来ているようだった。
「これは……あの人からだ」
守内刑事からのメールらしい。
「……なんだ、これ」
省吾が動揺している。そっとポケットから顔を覗かせた。
送られてきたのは、白紙のメール。よく見ると動画が添付されていた。「警察へ」というタイトルがつけられている。
開くと、薄暗い場所で、誰かが椅子に座って項垂れている。気絶しているのか、動かない。それが五分程度続いていた。
「課長、今、これが送られてきました」
「ちょっと待って、これ、守内君?」
動画を見た課長さんが声を上げた。確かにそれは、守内刑事のように見えた。
「どうして、守内さんが?」
照井刑事も困惑している。
「……何か書いてある」
更に省吾が、動画の人物の足元に、「七年前の警察官殺人事件の真実を公表しろ 一日待つ」と書いてあるスケッチブックが立てかけられているのを見つけた。
「二人は、科捜研に動画を回して、本物かどうか調べてもらってちょうだい。これが本物の映像なら、守内くんは誘拐された、ということになるわ――」
課長さんが指示を出し、捜査が開始された。




