理由
「勝手に携帯を持っていくのは、いただけないな」
「あ、えっと……ごめんなさい」
震えた声で謝罪する。どうしよう、いつから起きてたんだろう。
床に置いていた携帯を拾うと、通話相手を確認した。
「……やっぱり、気にしてたんだな」
そして、手を差し出した。
「来てくれ、ちゃんと話をしよう――」
リビングで、省吾はベッドに、私はテーブルに座った。……何となく、私は正座してる。
「で、あの人とは、何を話していたんだ?」
「その……私のこと、課長さんに報告してほしい、って」
「課長に?」
首を傾げた。そりゃあそうだよね、元々は私が、黙っててほしいって言ったんだし……。
「明かしちゃった照井刑事も含めると、省吾以外に三人も、私のこと知ってるんだよ。いつバレてもおかしくないよ。これで更に隠し続けて、いつか課長さんにバレた時、省吾の立場が怪しくなっちゃう。だから、自分から言った方が、傷は浅いかな、と思って……でも、無傷は無理だって、守内刑事も言ってた。……勝手なことして、ごめんなさい」
頭を下げた。でも、私のちっぽけな土下座で、許してもらえるとは思っていない。本当に、勝手なことをした。
「そうか……君の気持ちはわかった。俺も覚悟を決める」
優しく言った。怒ってはいないらしい……いや、そういう問題じゃないけど。
「でも、どうしてあの人に電話したんだ? 俺に言うんじゃ駄目だったのか?」
「それは、そうなんだけど……守内刑事なら、省吾をフォローしてくれるんじゃないかって思って」
「あの人が、俺を?」
空気がピリついた。
「省吾が守内刑事をよく思っていないのはわかってる。でも、元は相方でしょ? それに、省吾のこと、結構気にかけてるよ」
「……」
思うところがあるのか、信じられなのか、黙ってしまった。
いや、守内刑事は、都合が悪いと黙りか、と言っていた。今、都合が悪いんだ。省吾は、私の意見は聞いてくれる……私の考えを言おう。
「ちゃんと理由があってね、守内刑事は、自分が捜査に加わっていないのに、照井刑事を通じて、捜査に協力してくれた。それと、私との電話の中で、省吾のことを悪く言わなかったし、フォローするって言ってくれた。後は……守内刑事の今の相方、見たことないの」
「あの人の、今の相方?」
「今の今まで、一度もだよ。もしかして、いないんじゃないかな……私の予想だけど、守内刑事は、また省吾と組みたがってるんじゃないかと思って……」
「それなら、あの人は、七年前に俺と別れるのを止めるはずだ。それに、あの人とは価値観が違う。もう一度組むのは無理だ」
「頭を冷やして、考えを改めてほしかったのかも。守内刑事って省吾にとっては先輩だよね? 敬語使ってたし……だから、先輩として、後輩に目を覚ましてほしかったんじゃない?」
「あの人が、そんな真似……」
とても認められないらしい。
「ねえ、七年前に、何があったの? ずっと気にしないようにしてたけど、やっぱり気になるよ」
私の質問に、ため息をついた。
「そうだな……まずそこから、だな。でもその話の前に、聞いてほしいことがある」
「な、何?」
「君も気になっていただろう? 俺が羽場さんの無実を信じ続けた理由」
「あ、うん……確かに、気になってた」
「あれはな、俺も過去に似たような経験をしたことがあったんだ」
「似たような経験?」
困惑する私に、省吾は語り始めた――。




