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刑事の俺と小人の君  作者: 颪金
刑事編 第六「運ばれた遺体」
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証拠

穣平川から離れ、再度、遺体が見つかったコンビニの駐車場に来た。

「省吾、大丈夫?」

りまが心配そうに言った。自分でもわかる程に、焦っている。

「あの人は、君のことに気付いていた……」

「そ、そうみたいだね。さっき話してたの、見られてたのかな……でも、不思議じゃない? どうしてすぐ、課長さんに言わなかったのか」

「確かに、そうだな……」

あえて泳がせていたのか、それとも――。

「あっ、刑事さん!」

考えていると、規制線の外から声をかけられた。宮田さんだった。

「聞きましたよ、田岡君が逮捕されたんですって!?」

「逮捕というか……任意同行です」

規制線を挟み、興奮する宮田さんを落ち着かせようとする。却ってこちらが冷静になった。

「そんなの、あり得ませんよ。彼は誠実で仕事にも真面目で……人殺しなんて、するはずがありません!」

「そう、ですか……」

りまや守内刑事の推理を思い出し、咄嗟に目線を逸らした。

「もしかして、あなたも、田岡君を疑って?」

「田岡さんは、事件当日、穣平川であの女性と会っていることを確認しています。その後、あなたにも会っているらしいのですが」

「私と? 身に覚えがないですね」

「彼女が穣平川に言ったのは午前七時三十分。同じ頃、川で行われていたゴミ拾いのボランティアに、あなたが参加しているところが目撃されています」

「ああ、確かに参加してましたよ。でも、あの川、広いですし、同じところにいても会わないことってありますよね?」

あくまで、白を切るらしい。

「というか、仮に私がその人と会っていたとして、それが一体何だというのですか? 田岡君が逮捕、じゃなくて……任意同行? されたことと関係あるんですか?」

「彼女は、田岡さんに会った後に命を落としています。もしかしたら、あなたが何かご存知ではないかと思いまして」

「ですから、私は何も知りませんよ。もしかして、私が殺したとでも? だとしたら証拠は? 目撃者は? 何もないと思いますよ、何もしていないんですから」

確かに、証拠は無いし、目撃者もいない。宮田さんを逮捕するには、材料が足りない。

川に行ったことは証明できても、皆木さんに会い、殺したことまでは証明できない。


「――いや、あなたは実際に、被害者に会って殺してる。証拠もあります」


振り返ると、守内刑事がいた。スーツが所々濡れていて、髪からも水が滴っている。どこまで探しに行ったんだ……。

「証拠というのは?」

「これです」

取り出した小さなポリ袋には、数個の小石が入っていた。

「……それは?」

「穣平川の、殺害された現場にあった小石です。被害者の死因は溺死。あの浅い川で溺死となると、顔をしっかり水面につける、つまり、頭を押さえる必要があります。被害者は頭を押さえられ、抵抗した際に、恐らく犯人の腕を掴んでいるはずです。現に、被害者の手の爪から、微量ですが皮膚片が出てきました」

え、と思わず口に出そうになった。そんな情報あったか……?

「必死で抵抗するうちに引っ掻いたんでしょうね。それと、この小石、よく見ると……血痕がついてるんですよ。恐らく、犯人の腕を引っ掻いた後、川底にあったこの石を掴んだんだと思います。位置的に、多分、左の手首ですかね?」

そう言われ、宮田さんが咄嗟に左手の腕時計を掴んだ。

「コンビニでは、店員の腕時計の着用が認められていないところが多いらしいです。店長がつけてるなんて、おかしいですね? その腕時計、外してくれませんか?」

「……」

宮田さんがゆっくりと腕時計を外すと、小さな引っかき傷が二つ、ついていた。

「包帯や絆創膏では怪しまれると思ったんで、咄嗟に腕時計をつけたんですよ。昨日からずっと痛むし、血が滲んで汚れるし、化膿しないか心配だしで、最悪でしたよ。あの女は、最後の最後まで余計なことをしてくれましたね」

「認めるんですね?」

「ええ、私がやりました。爪は川の水で洗ったんですけど、落としきれてなかったんですね」

悪びれもしない様子だった。

「動機はやっぱり、売り上げの横領の件で?」

「そうですね、あの女は、田岡君がレジのお金を盗っていることと、それを羽場さんになすりつけていることも気付いてました。唯一、私もそれに加担していることには、気付いてなかったみたいです。だからでしょうねえ、呑気に私に、田岡君のシフトを訊いて、証拠の写真まで見せてきて……田岡君には、一芝居打ってもらいました」

「……横領しているなら、羽場さんをさっさと辞めさせればいいと思ったんですけど、そうしなかった理由は?」

「身代わりがいなくなるでしょ?」

徐にポケットから、煙草とライターを取り出した。火をつける前に手錠をかけようと、近寄る俺の肩を、守内刑事が掴んで止めた。

「穣平川近くの保育園の園児が、大きな箱を持って走る人を見たと話しています。あなたではありませんか?」

「ああ、あれね、見られてたのか」

煙草に火をつけ、ふうっと白煙を吐いた。

「……本当はね、羽場さんが殺したことにしようと思ったんですよ。あそこの近くに革細工の店があるって前に話してるのを聞いたことがあって、昨日が開店の日、開店直後に行くって話してたのも聞いたんで。穣平川の近くを通ると思ったから、見つかるように放置したのに。でも羽場さんは遺体を見つけなかった。だから、ここまで運んで、見つけてもらうつもりだったんですよ。ゴミを仕分けるのに使う段ボール箱に遺体を入れて、少し離れた駐車場まで台車で運んで……万が一、見られていた時のために、服装も似たものを用意したんです」

「その段ボール箱は?」

「私の車の中に。捨てる間もなかったんで」

天を仰いだ。

「窃盗に、殺人、か……私の人生、これで終わりですね」

「どうして、殺人まで行ったんですか? 窃盗だけなら、まだ、人生やり直せましたよ」

守内刑事の言葉。そこに、強い違和感があった。

「確かにそうですね。窃盗がバレるのが怖かったというか、殺人なら、バレない自信があったというか、そんな感じですね」

「そうですか……」

携帯灰皿で煙草を揉み消した。それを見た守内刑事が、俺に目配せをした。


宮田さんに手錠をかけ、携帯で課長に連絡を入れた。……戻ったら説教は避けられないな。

守内刑事は、パトカーが到着するまで、宮田さんと何か話していた。家族は、とか、今後は刑務所や裁判で、とか……。

途中、コンビニ店舗内の宮田さんのロッカーを確認したところ、青いジャケットと、黒いハンチング帽が見つかった。


その後、宮田さんを見送り、俺達も署に向かうことになった。

だが、その前にやることがある。

「守内刑事……ありがとうございました」

しっかり頭を下げた。証拠を見つけたのは守内刑事だ。一応、礼はしなくてはならない。

「ああ、これか」

だが、守内刑事は、ポリ袋から小石を取り出すと、それを投げ捨ててしまった。

「あれ、ただの小石だ。被害者の爪に皮膚片なんて無かったし、俺は何も見つけられなかったんだ。宮田さんは、一箇所以外は完璧に証拠を隠滅していた」

つまり、嘘だった、ということだ。

「刑事がそんなことをして、いいんですか」

「だめかもな。まあ、被害者が宮田さんを引っ掻いたのは事実だし、もう少し遺体を詳しく調べれば、爪からDNAくらい出るだろ」

こちらも、悪びれる様子はなかった。

「……証拠の隠滅、一箇所以外はって言ってましたね、何のことですか?」

「腕時計だ。言っただろ? コンビニの店員は腕時計をつけない。でも宮田さんはつけていた。ファッションと言われればそれまでだけど、勤務中にもつけているのはおかしいと思ったんだ。きっと、何かを隠すためだろうと思ってな」

確かに、一番始めに話を聞いた時、宮田さんは勤務中だが腕時計をつけていた。それだけで、そこに気がついたのか……。

「と、いうわけで、俺達も戻るぞ」

近くに停めていた自分の車へ向かう、その後ろ姿に声をかけた。

「課長に言うんですか、俺の……」

それ以上は言えなかったが、言いたいことは伝わった。

「そうだな……お前の今後次第だな」

答えはそれだけだった。

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