後輩の目線
「おはようございます」
朝になり、署に向かうと、課長以外は出払っていた。
「おはよう、照井ちゃん」
課長の挨拶に会釈で返す。小柄なためか、苗字にちゃん付けが定着している。嫌じゃないわけでは無い。でも、もう慣れてしまった。
「あれ、赤石さんは?」
「まだ来てないわ。ここに来る前に、穣平川に寄るって連絡があって……聞いてない?」
「いえ、何も」
「そう……仲西君の時からそうだったのよねえ、一人で行動して、困らせて……」
そろそろ説教が必要かしら、と話す課長。赤石さんに心の中で同情しつつ、自分のデスクに荷物を置いた。
「あの、ちなみに、守内刑事は?」
そう訊くと、頬杖をついて答えた。
「それがねえ、彼も穣平川に寄ってから来るって言ってるのよ」
「えっ」
あの犬猿の仲の二人が、よりによって一緒の場所に。
「大丈夫なんでしょうか」
「心配ではあるけど、二人ともある程度大人だし、守内君も捜査に加わったって、赤石君も知ってるから……何とかなるんじゃない?」
楽観的に捉えているようだが、かなり不安だ。
赤石さんに初めに会った時の印象は、正直言うと「こんな人が刑事なのか」だった。
凄みのある顔、百八十は超えてると思われる身長にガッシリとした体格、髪型はオールバック。極道映画から出てきたと言われても信じてしまう風貌だった。
だが、彼はそれでも刑事だった。私が無実の人間を犯人と決めつけてしまっても、冷静に判断し、真犯人を見つけた。……後にそれは、りまさんのおかげだとわかったが。
りまさんに対しては、まるで小動物を愛でるような――というと、間違いなく怒られてしまうが、とても大切にしているし、信頼しているようだった。
そんな赤石さんが唯一敵対しているのが、守内さんだった。
敵対、というのは、私が外から見て判断したものだ。
守内さんの名前を出すと、空気がひりつく。まるで凶悪犯と相対した時のような状況になる。それくらい、赤石さんは守内さんを憎んでいる。
何故か……理由も経緯もわからないが、二人が以前組んでいたのは、調べがついている。
あの二人が、と思ってしまうが、むしろ、そこで何かあったからこその、あの態度なのかもしれない。
赤石は、時々視野が狭くなる、と守内さんは言っていた。
視野が狭い、とは、私のように、十分な証拠がないまま、状況だけで判断してしまうこと……ではないようだった。
赤石さんには、恐らく、人として大切な何かが欠けている――守内さんはそれを言いたいのかもしれない。
考えていると、課長のデスクの電話が鳴った。
「はい、捜査一課。……赤石君? え、犯人逮捕したの? 守内君と?」
課長の言葉に、思わず席を立った。
「……わかったわ、気をつけて帰ってきてね」
通話を終えた課長が、ため息をついた。
「後でちゃんと報告してもらわないと、ですね」
「そうね……」
こめかみを押さえる課長にも、心の中で同情した。




