対立
「あれ、刑事さん、まだ何か?」
夕方になり、ようやく解放された田岡さんがコンビニから出てきた。それを俺と照井で待ち構えた。
「少し、お話がありまして」
「いいですよ、少しだけなら」
コンビニ近くの公園で、田岡さんと話をすることにした。
「田岡さん、単刀直入に訊きますが、あなた、あの女性と関わりがありますね」
「女性? ああ、今朝、駐車場で亡くなってた人ですか? 関わりっていうか、お客さんとは聞いてますけど」
「いえ、それだけではありません。会って、話をしたことがあるはずです。例えば……穣平川で」
「穣平川?」
何のことかわからないと言いたそうに、首を傾げた。
「田岡さん、あなたは今朝、あの女性……皆木さんというそうですが、彼女と会っているはずです」
「そんな記憶、俺にはありませんね……あ、どこかの誰かが見てたとか?」
「いえ、目撃証言はありません。ですが、皆木さんが、あなたと会っているという証拠を残しているんです」
スマホで、ある映像を再生した。
始めに映っていたのは、穣平川のほとり。二、三人、ジョギングや犬の散歩などをしている人が映っている。
「羽場ちゃん、見えてる? 今、穣平川にいます。ここで、羽場ちゃんに濡れ衣を着せた犯人と会う予定。証拠もあるよ、ほら」
映像の中の女性――皆木さんが出した画像には、レジからお金を抜く田岡さんが映っていた。防犯カメラのそれではなく、恐らく、自分で隠し撮りしたのだろう。
「ね? バッチリ写ってる。これバレたらヤバいよ……じゃ、行ってきまーす」
「こ、こんなの、どこで……」
狼狽えている。予想外の映像だったようだ。
「先程、皆木さんのご自宅へ行きました。そこにあったパソコンに、この映像が残っていました。どうやら、録画後に自動で送信されるようになっていたみたいですね」
「……羽場から聞いたんですね」
「守秘義務がありますので」
答えはしなかったが、田岡さんの中では確定しているようだった。
続きを再生すると、田岡さんが映っていた。
「あなた、田岡さん? 働いてるコンビニで、レジのお金盗ってますよね?」
「急にこんなところに呼び出して、何のこと?」
「こっちには証拠があるんですよ、ほら」
例の画像を出したようだ。
「な、何で」
こっちでも、狼狽えている。
「ほら、防犯カメラに映らないようにして盗ってる。でもバレてないってことは……多分、カメラ映像も編集してるかな? しかもこれ、後輩になすりつけてますよね?」
「……」
「羽場ちゃんに謝罪して、コンビニも辞めてください」
「……わかったよ。でも、羽場の連絡先知らないから、明日言うよ。店長にも話す」
「わかりました、確認できたら、写真は破棄します」
それから、少しの無言の後、画面に皆木さんが映った。
「羽場ちゃんの名誉は守ったよ! じゃ、後は頑張って!」
笑顔で手を振り、映像は終わった。
「まさか、映像が残ってたなんて」
がっくりと項垂れた。
「映像はありましたが、それを録画した携帯などはありませんでした。恐らく、誰かが破棄したかと」
「……そうだよ、俺が捨てた。あの後すぐにあの女を襲って、携帯を奪って捨てた! でも殺してない! 殴って気絶させたけど、息してるのは確認したし、すぐにその場から離れたんだ、俺じゃない!」
皆木さんと会っていたことと、携帯を捨てたことを認めたが、殺人だけは否定した。
「では、遺体を運んだ痕跡がないか、あなたの車を調べさせてください」
「あ、ああ……わかった」
その後、鑑識を呼び、田岡さんの車を詳しく調べたが、遺体を運んだ痕跡は見当たらなかった。だが、念のため、任意同行してもらい、詳しく話を聞くことになった。
「田岡さんではないとすると、一体誰が……」
パトカーに乗る田岡さんを見送る。既に陽は沈んでいた。
「やっぱり、羽場さんが?」
照井の言葉に、咄嗟に首を振った。そんなわけない……。
「一度、署に戻りませんか? 課長に経過を報告しましょう」
「そうだな……」
照井の運転で署に戻り、車から降り、ふうっと息を吐いた。考え続けて疲れているのかもしれない。少し眠くもある。
「あっ、照井ちゃん」
だが、聞こえてきた声に、眠気が飛んだ。
入り口に、守内刑事が立っていた。どうやら待っていたらしい。
「守内刑事……ご助力いただき、ありがとうございました」
照井が頭を下げ、それに守内刑事は笑顔で答えた。
「いいよ、困った時はお互い様だから」
「あなたの助けは必要ないと言いましたよね」
俺の言葉に、眉を顰めた。
「それに、俺は今後、あなたを助けることはないと思ってます」
「そんなこと言ってる場合か、現に捜査、詰んでただろ」
「あれは……少し考えれば浮かんでたことです」
「そうは思えないな。お前は、また一人で突っ走って、今度は照井ちゃんに迷惑かけてたと思うぞ」
「決めつけないでください、俺は冷静です」
「冷静でも、周りが見えてないんだ。それであの人みたいな刑事を目指すって、本気で言ってるのか?」
「……あの人は関係ないです」
「関係なかったら、羽場さんが無実だなんて思わないだろ」
「あなたは、今回の捜査に加わってないはずですが?」
「それはそうだけど――」
「ちょっと待った! そこまで!」
俺と守内刑事の間に割って入ったのは、斎藤一課長だった。
「守内君が迎えに行くって言ってたから、もしかしてと思って来てみれば……いい歳した大人が何を言い合ってるのよ! 喧嘩するなら離れなさい! うちの息子達によく言うことを、あなた達に言わせないで!」
「す、すみません」
「……」
守内刑事は頭を下げ、逃げるようにその場を後にした。
「さて……赤石君、車の中で少し頭を冷やしてちょうだい。照井ちゃんは私に報告を」
「は、はい」
ちらちらと俺を振り返りながら、照井は課長について行った。




